第三十六話 ファーストキス
俺のファーストキスはレナとセリカに目撃されてしまった。
「ちょ、ちょっと待てフェラルいきなりどうした!!」
「溢れる感謝の気持ちを表現するにはこれしかなかったんだ! もっと激しいのがお好みか!?」
「そうじゃなくて!! 見られてるし!!」
フェラルは扉の方を見る。
「ありゃ本当だ、でも問題ないだろ?」
「大アリだよ!! レナ、セリカここに至るまでには深〜い事情があってだな……?」
「ちょっと目を離した隙にこれよ、信じらんない!!」
レナの頬が膨らんでいる、この口調、多分今は玲奈なんだろう。
「……」
「いやセリカ、何も言わないのが一番怖いぞ」
「バカ……」
セリカはすたすたとその場を去った。
なんだろう、何だか収集がつかなくなってきている。
俺、今結構な怪我してるんだけど、キス云々よりまず治療して欲しい。
「レナ、フェラル、包帯か何かないか? まだ血は止まってないと思うんだけど」
「ああ、受付に非常用の救急箱があったはずだ、持ってくるぜ!!」
フェラルは部屋を飛び出していった。
玲奈は扉のそばでじっと俺を見ている。
——気まずい。
「れ、玲奈はなんでそんな不機嫌なんだ?」
「見たくもないものを見たからに決まってるでしょ」
「……なんかごめん、俺のファーストキスを晒すことになってしまって」
「ファースト? アンタ覚えてないの?」
「え、何を?」
「……もういい」
玲奈は少し冷めた顔をした後、その場を去った。
俺何か忘れてることなんてあったか?
うーん、もしや幼稚園の頃とかに玲奈とキスしてたりするのか?
……いや全くそんな記憶はない。
とにかく、玲奈とセリカのご機嫌をどうにかせねば。
「レン、持ってきたぜ! 上着を脱いでこっちに背中を向けてくれ!」
「ああ、ありがとう。 フェラルが支配人の事を知らせてくれたおかげでそこまで傷は深くなさそうだな」
「うーん、値から見ると結構な傷だけどな…… 消毒して止血するぜ?」
「頼む」
フェラルが消毒液を傷口にかける。
激痛が走るが、痛い痛いと騒ぐのもみっともないので必死に歯を食いしばって我慢した。
消毒をし終えた後、フェラルは俺の体に包帯を巻いてくれた。
「——支配人の事ショックじゃないのか?」
「育ての親が実は殺人鬼だったんだぜ? そりゃショックさ。 でもレンの心の中を読んであったかい気持ちになった」
「そうか、フェラルが元気なったなら良かったよ」
そう言うとフェラルは満遍の笑みを見せてくれた。
笑っていたかと思ったら、フェラルはモジモジし始めた。
「……レン、その……アタイを嫁に……ってのはどうだ?」
「え」
「いや、もしレンがよかったらーー…… なんちって!! じゃ、アタイは用事があるからもう行くぜ!!」
フェラルは猛烈なスピードで部屋を駆け出していった。
——何だか今逆プロポーズをされた気がする。
俺はまだ17歳、フェラルに至っては14歳だ、この世界では結婚が許される年齢なのか?
何だかドキドキしてきた。確かにフェラルはおてんばながら綺麗な顔をしている。
大人になったらきっとマダムな雰囲気漂う美人になるに違いない。
——いや、そもそも俺は異世界人だ、いつまでもこうしてこの世界にいれる訳じゃない。
俺はゆっくりと立ち上がり、体を休めるべく自分の部屋に戻った。
もう日は暮れすっかり夜だ、このまま寝てもいいが玲奈とセリカに謝らないといけない。何だか納得がいかない気もするが。
俺は玲奈とセリカの部屋をノックした。
少しの間が空いた後、ドアが開いた。
出てきたのはセリカではなくレナだった。
「あ、レン様、さっきの件ですね? 今玲奈を呼んでくるので少々お待ちください」
レナはその場で目を閉じ、壁にもたれかかった。
少し待つとレナの目が開き、不機嫌な表情になった。
「あれ、セリカは?」
「夜風を浴びてくるって言ってたわよ」
「な、なるほど……」
「で、何の用?」
「さっきのこと謝りに……」
「謝る必要なんてないわよ、どうせ何も覚えてないんだから」
「俺のファーストキスは玲奈、お前ってことだろ?」
玲奈はキョトンとした表情をした。
ちなみに俺はその時のことをまだ思い出していない。
さっきの玲奈の反応からしてそうなんだろうと察しただけだ。
「お、覚えてるならあの子とのキスがファーストキスなんて言わないでよ。 一方的に無かったことにしないでよ」
「あの時はテンパってただけなんだ、それじゃ!」
「ちなみに私とキスをした場所はどこ?」
こ、これは想定外だ、そんなの覚えていない。
俺とレナが小さい頃遊んでた場所…… 近所の公園か?それともお互いの家か?
まずい、言った場所が間違っていたらまた玲奈が不機嫌になってしまう。
「えっと、あそこだよ! あそこ!」
「マンションの下の公園?」
「そ、そう!」
「何よ、やっぱり覚えてないじゃない」
徐々に普段の顔に戻りつつあった玲奈の顔は、また不機嫌モードに戻った。
「もう、サイテー!!」
玲奈は俺の胸ぐらを掴んだ。
ヤバイ、殴られる……!
——柔らかい感触がまた唇に伝わってくる。
感触を確かめるうちに徐々に記憶が蘇ってくる。
そうだ、俺と玲奈は小さい頃キスをしたことがある。
あれは玲奈と俺の家で遊んでいた時だ。
両親が買い物に行っていて、俺と玲奈は俺の部屋で留守番をしていた。
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「わたし、大きくなったらレンのお嫁さんになる!」
「レナちゃんがお嫁さんだと僕も嬉しいよ!」
「ねえレン、お嫁さんになるにはちゅーしなきゃいけないらしいよ」
「そうなの? レナちゃん物知りだなぁ、じゃあしてみよっか」
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当時の記憶が鮮明に蘇った。
「留守番をしてる時に、俺の部屋で……」
「何よ、覚えてるじゃない」
玲奈の顔はまるでりんごの様に真っ赤っかだ。
何だか恥ずかしくて目も合わせられない。
玲奈とそんな話をしていたなんて……
「じゃ、じゃあ俺は寝るな」
「え、ええおやすみ」
俺と玲奈はなんともいえない気まずさを残しながら別れた。
気まずさを解消するために会いに行ったのに、余計に気まずくなるとは思わなかった。大きな誤算だ。
俺は次にセリカを探すことにした。
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