第三十八話 ボルグラン動物園
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目が覚める、今日はセリカと遊園地に行く日だ。
俺は唯斗にデートの極意を教わってきた。
話を聞いただけではあるが、本当にうまくやれるのだろうか、不安だ。
俺は服を着替え、レナとセリカの部屋に向かった。
ノックをするとセリカが飛び出す。
「おはよーございます! 行きますか!」
「おう準備はできてる、レナは行かないのか?」
「はい、動物園はちょっと……」
あんなに動物が好きなのにこれだけ嫌がるのも変だ。
フェニーの世話だって全部レナがしてるくらいなのに。
「分かった、じゃあまた夜に」
「はい」
動物園に行きたがらないレナを残して、俺とセリカは宿を出た。
「そういえばセリカ、ハウエルさんのところの仕事はいいのか?」
「朝起きて
「休みってそんな簡単に取れるんだな」
「もともとはハウエルさん一人でやられてたお店ですしね! レンさんの事も話したら"怪我が良くなったらタップリしごいてア・ゲ・る"っておっしゃってました」
セリカはハウエルの特徴的な口調を真似した。
なんだろう、どこか寒気がする。
そしてデートだと色々と意気込んで来てみたものの、セリカが相手だと今のところ気まずさはない。 これまで接してきたように普通に話せている。
なんだ、唯斗に聞いた話は無駄になるかもしれない。
俺たちは普段通り会話をしながら動物園に向かった。
セリカの話だとボルグランの動物園は、この世界で一番大きな規模の動物園らしい。
動物園とは言いつつも、いろいろな施設が併設されており、一日じゃ周りきれないほどなんだとか。
この世界にもそんなアミューズメント施設があるとは思わなかった。
現実世界ではそんなところに同世代の人と行く事なんてないし、ワクワクしてきた。
そうこう話をしているうちに、俺たちは動物園の入り口に着いた。
入場券を購入し、園内に入ると広大な花畑が俺たちを迎え入れてくれた。
色鮮やかな花々はその見た目は勿論、甘い良い香りも魅力的だ。
「レンさんこっちですよ!」
セリカもテンションが上がっているんだろう、どんどん先に進んでいく。
俺はセリカの後をついていくだけで良さそうだ。
動物コーナーにつくと、現実では見たことのないような動物を沢山見る事ができた。
大きな翼がはえた馬、尻尾の先が巨大な剣の様になっている恐竜、あとカッパ。
いろいろな変わった動物がいる中で、カッパだけはなんだか知人を見ているような気持ちになり、見ていて安心感を覚えた。
ちなみにこの世界ではカッパとは言わずクワッパと言うらしい、イントネーションが似ているのは偶然なのだろうか。
「レンさん見てください、不死鳥もいますよ!」
「お、本当だな」
不死鳥は種類によって羽毛と炎の色が異なるらしい。
フェニーの炎は青白いが、ここにいる不死鳥の炎は赤色と紫色だ。
俺たちは半日かけていろんな動物を観覧した後、動物コーナーを離れ遊園地のような場所に向かった。
ここは異世界、当然ジェットコースターのような機械じみた物はなく、動物園にいる動物たちが乗り物を動かしているらしい。
俺たちは一番人気と看板に書いてある乗り物に並んだ、人間が乗った台車を大きな恐竜が引いてまわるらしい。
待ち時間は1時間と言ったところか、気長に待つしかない。
並び始めた頃は今日見た動物の話で盛り上がっていたが、半日歩き回った疲労と会話のネタ切れで無言になる時間が目立ってきた。
そうだ、今この瞬間こそ唯斗のテクニックを活用する機会だ。
唯斗曰く、次どこに行くかを話すと、盛り上がる上にその後の流れがスムーズになるので良いらしい。 どうしても困ったらしりとりなど簡単なゲームをするのもいいらしい。
「セリカ、これに乗ったら次はどれに乗りたい?」
「レンさんにお任せします!」
「な、なるほどじゃあこれなんてどう?」
「大ネズミのトンネル探索…… いいですね!」
セリカは良い子なので俺に合わせようとしてくれている。
つまり主導権は俺にあり、俺の考えについてセリカはNOとは言わない。
うーむ、会話のキャッチボールにはならないか、だったら簡単なゲームだ!
「セリカ、しりとりって知ってるか?」
「しりとり? なんですかそれは!」
「俺の世界のゲームでな、相手が言った単語の語尾がと同じ頭文字の単語を言っていくゲームだ。 単語が思いつかなくなったら負け」
「な、なるほど……」
「大丈夫、一回やれば分かる!」
「はい!」
そこからはずっとしりとりをし続けた。
セリカはシンプルながら難しいこのゲームを気に入ってくれた様で、キャッキャと笑っている。
しりとりに没頭しているうちについに俺たちの番だ。
俺たちの前に緑色の恐竜が止まった、なかなか
「セリカ、こういう乗り物大丈夫なタイプなのか?」
「乗ったことありませんが、馬車での移動は慣れてますんで大丈夫かと!」
馬車とはレベルが違いそうだが、まあきっと大丈夫だろう。
「それでは行ってらっしゃーい!」
係員の人が恐竜に合図をすると、恐竜は物凄い勢いで空高く飛び上がった。
予想外の展開に俺もセリカも絶叫する。 安全バーの様なものがあるとはいえ、パラシュートもなしに空中にいるんだからスリルは満点だ。 下手すれば死にそうだ。
「せ、セリカ、生きてるかぁぁぁぁあ!!」
「無理です無理ですこんなの聞いてませんんんんん!!」
俺たちは数分間そのまま空中を急上昇したり急降下したりを繰り返した。
アトラクションが終わり、乗り場に戻る頃には俺たちは放心状態になっていた。
「セリカ、休憩しよう…… 大ネズミのトンネルなんて行ってる場合じゃない……」
「そうしましょう……」
俺たちはアトラクションのそばのパラソル席に腰掛けた。
「俺の世界にもジェットコースターっていう似た様なのがあるんだけど、比にならないくらい怖かったな……」
「はい…… レンさんの世界にもこんなのがあるんですね!」
「ちょっとイメージは違うけどな」
「私、レンさんの世界に行ってみたいです」
「うーん、レナ曰く向こうの世界にもセリカはいて、その子を探し出さないと無理らしいぞ」
「なるほど…… でもそれができれば、ずっとこうやってレンさんと一緒に遊んだりできます!」
セリカは真っ直ぐな目でこっちを見つめている。
「向こうの世界でセリカを見つけたら話しかけてみるよ」
「お願いします!」
俺たちはその後ちゃんと大ネズミのトンネルとかいう微妙そうなアトラクションも楽しんで、動物園を後にした。
「今日は楽しかったです!! 付き合ってくれてありがとうございました!」
「いや俺も楽しかったよ、ここのところ戦ってばっかだったからリラックスできて良かった」
「なら良かったです! さあさあ宿に帰りましょう!」
「ああ」
「あ、レンさん靴紐が解けてますよ!」
足元を見ると片方の靴の紐が解けていた。
「ああ本当だ」
俺はその場で
結び直して正面を見ると少し先にいたはずのセリカが目の前に近寄ってきていた。
「……フェラルさんの真似です」
セリカはそれと同じ高さまで
〜〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜〜
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