第五十話 対面

 牢獄の奥から現れたのは白髪の、鮮やかな袴の様な服を着た、中性的な美少年だった。

 セリカの母親からに警告されたとはこの少年の事なんだろうか。


「いち、にい、さん…… あれあれ、二人居なくなってるね。 そこの君、何が起きたか見てたでしょ? 教えてくれる?」


 少年は近くの牢獄に捕らえられている男性に声をかけた。


「し、知らない……!」

「それは本当? 僕に嘘をついてるよね、君」

「ほ、本当だ! 信じてくれ!」

「分かった、信じるよ。 僕って疑い深くて…… 仲直りのしるしに握手をしよう!」


 少年は牢獄の中に向かって手を差し伸べる。

 牢獄の男は警戒してるのか握手をしようとはしない。


「握手しようって言ってるよね」


 少年の声のトーンが下がり、これまでの雰囲気とは変わり、一気に重い空気になる。


「わ、分かった。 握手だ」


 空気感に圧倒されたのか、男は諦めて少年の手をとった。

 少年はまた明るい声に戻る。


「仲直りできて良かったよ! じゃあこれは僕からのプレゼント!」


 すると少年は男の腕を無理やり檻の外に引き出し、そのまま腕を曲がるはずのない方向に押し曲げた。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 男の叫び声が牢獄内に響き渡る、もう一度男を見ると、肘の部分が普段曲がる方向と逆方向に向いていた。


「ふふ、一日一善っと! さて他の人は知らないかな?」


 少年は牢獄を歩き回る。 捕らえられている人々は恐怖に震えている。

 セリカの両親は転移できたものの、他の人は捕らえられたままでいいのだろうか。

 できれば脱出させたいが、あの少年の実力が読めない。 


「ん? 何かいつもと違う匂いがするな…… こっちの方か……」


 少年が俺のいる方向に近づいてくる。 まずいバレているのか!?

 ゆっくりと物音を立てない様、俺は場所を変える。

 大丈夫、俺は身体透過インビジブルで透明になっている、俺のことは見えていないはずだ。


「足音がするねえ、もしかして君が逃しちゃったの?」


 俺はわずかな音も立てぬ様移動したはずだ、それでも足音が聞こえるなんて、あいつ一体どういう耳をしてるんだ。

 徐々に心臓が鼓動を打つ速度が速くなる。 完全に俺がこの場に居る事がバレている。

 物陰に入って空間転移テレポートで逃げるしかないだろうか。

 そうこう考えてる間にも少年は俺の方に近づいてくる、考えている暇はない!


「(絶対零度アブソリュートゼロ……!)」


 俺は少年と俺の間に氷で壁を張った、これで少しは時間が稼げるだろう。

 俺はセリカの家に転移穴ポートホールを開いた。

 その瞬間とてつもない轟音が氷の壁の方からした。 音がした方を見ると、氷から一本の腕が突き出している。 あの厚さの壁を拳で貫いただと……?


「ちょっと待ってよ、良い能力スキルだね。 僕、君と遊びたいなぁ」


 相手をしてる暇はない、俺は開いた転移穴ポートホールに身を投げ、転移穴ポートホールを閉じた。

 脱出には成功したものの、底知れぬ少年の残虐性を目の当たりにし、体が少し震えている。


「無事逃げられたんですね!!」


 家の中からセリカの母親の声がする。


「はい。 でも邪魔が入って、他の人たちは逃せませんでした」

「邪魔……?」

「多分あなたが教えてくれただと思います。 中性的な顔立ちの整った少年です」

「ロエルと遭遇して無事逃げれたんですか?」

「ギリギリでしたが。 ロエルって言うんですね、アイツ」

「はい……」

「詳しくは後で話を聞きます、今はセリカに会いましょう!」


 俺は王都の宿に転移穴ポートホールを開き、部屋の椅子で固まっていたセリカを呼んだ。


「ご対面の時だ、セリカ」


 セリカは緊張しているのか、頷くのみで声は発さない。

 だが自分の家の玄関で手を振る母親の姿を目にすると、すぐに母親のもとに駆け出し強く抱き合った。


「お母さん、生きてて良かった……」

「心配かけたわね、セリカ。 本当にごめんなさい」

「ううん、生きていてくれただけで良い!」


 セリカの言葉に母親も泣きながら笑っている。


「さあ、家に入りましょう。 お父さんもいるわ」

「うん」


 俺たちは家の中に入り、セリカの父親と対面した。


「お父さん……?」

「せ、セリカ……」


 父親は衰弱し切っているものの、セリカを認識した。

 早く医者に連れて行きたいが、今は深夜だ。 もう少しこのまま耐えてもらうしかない。

 とりあえず、ここから行く先もないので今夜はセリカの家で世を明かす事にした。 護衛の意味も兼ねて、俺もその場に残る。

 セリカはベッドに横たわる父親のそばにつきっきりだ。


「あの…… 今更ですがお名前は……?」

「あ、そうでした。 レンといいます、セリカさんの友人です」

「レンさん、今回は本当にありがとうございました。 あのままあそこに拘留されていたら、あの人はもう持たなかったかもしれない」

「間に合って良かったです。 あそこで異世界への転移穴ポートホールを開いているとの事ですが、そんな事が可能なんですか?」


 母親は苦い顔をした後、地面を見つめる。


「はい、異世界から連れてきたという人の記憶を頼りに……」

「やはり…… その連れて来られた人っていうのは……」

「私にも分かりません、巨大な装置の様な物の中に入れられておりましたので、聞こえてくるのは悲鳴だけでした」

「生死は不明……と……」

「はい……」


 現実世界では連れ去られた人の帰りを待つ人がいる、生きていてくれると良いんだが。 もっとも、彼らを助けるほどの力が俺にあるのかという話ではあるが。


「そういえばあのロエルって男、何者なんです? 能力スキルが使えなくなるのと何か関係が?」

「ロエルは…… 四聖剣の一人です」



〜〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜〜



「五等分の花嫁」面白いですよね、ラブコメっていいなあと思いました。

でもラブコメは読者がキュンキュンするシーンを考えるのが大変そうなので、書けそうにないです。

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