第三十二話 能力結合

 ハウエルは本気で俺を殺す勢いだ。

 これまでとは放つ殺気の質が違う。

 冷や汗が止まらない、足が震える、思考が纏まらない。


「待ってください、どうしたんですかいきなり」

「甘い」


 次の瞬間、俺の体は宙に浮いていた。

 顎部に強い痛みが走ると同時に意識がグラグラとする。

 俺は地面に打ち付けられ、背中に鈍い痛みが走る。

 ——俺は殴られたのか? 挙動すら目視できなかった。


「私は本気で戦うから、アンタも本気で抗いなさい」

「今の一撃でよく分かりました、本当に本気なんですね」

「次はもっと早いわよ」

「くっ」


 次は左腹部に衝撃が走る。

 思わず叫び声が出てしまう様な激しい痛みと、後残りする鈍い痛みが同時に俺の体を襲う。

 骨にヒビでも入ってるんじゃないだろうか、立ち上がるにも激痛が走る。


「まだよ」

「く、くそ……」


 次は側頭部だ。

 衝撃の連続で頭のグラグラが強くなる。

 このグラグラを立て直せないと俺は恐らく意識を失う。

 相手の前で意識を失うだなんて死ぬのも同然だ。

 俺は揺れる視界を何とか抑え、何とか立ちあがった。


 高速移動ファストムーブで避けようにも、そもそも何も見えてないんだから無理だ。

 身体透過インビジブルしても気配や音で気付かれてしまうだろう。

 他の能力スキルもハウエルに当てる前にまた目の前から消えて攻撃される。


「そろそろ僕の出番かな」


 頭の中に声が響く。

 俺は自分の頭の中に引き釣り込まれる様な感覚に襲われた。


「久しぶりだね」


 真っ暗な世界の中で、俺と同じ姿をした青年が現れた。


「お前は……もう一人の俺?」

「覚えててくれたんだ、この前は死にかけてたから忘れちゃったかと思った」


 もう一人の俺は嬉しそうに微笑んだ。

 ——いやこんなことしてる場合じゃない、早く戻らないとハウエルに殺されてしまう。


「こんな時にいきなりなんだ、こっちはまた死にかけてるんだ」

「知ってるよ、この世界の出来事は君を通して僕も見ているからね」

「こんなタイミングで声をかけてくるって事は、何か意図があるのか?」

「それはもちろん。 この前話したよね、僕の能力スキルを教えてあげたいって」

「その能力スキルがあればこの状況を打開できるって事か?」

「相手は元四聖剣だ、そんな簡単に倒すことはできないよ。 けど今よりは状況が好転すると思うよ」

「なるほど、教えてくれ」

「じゃあ今から発動するよ、君の能力スキルで吸収してくれ」


 真っ暗な空間でもう一人の俺は俺に向けて手をかざす。

 ——何も起きない。 俺はからかわれてるのか?


「おい、何も……」


 突然俺の視界にいつもの文字が表示される。


 "能力吸収スキルドレイン発動 能力結合スキルコネクトを会得しました"


「さて、吸収できたかな? 君にとっては最高の能力スキルだろ?」

能力結合スキルコネクト……!?」

「ちゃんと吸収できたみたいだね。 僕のこの能力スキル、まるで君と会う事を前提に与えられていたみたいだ。 一人だと全く効果のないハズレ能力スキルし」

「これならハウエルに一発食らわせられるかもしれない、ありがとう」

「いえいえ、僕も人生で初めて能力スキルが役に立って嬉しいよ」

「じゃあ行ってくる」


 俺は目を開ける。

 ハウエルはじっと俺のことを見ている。

 俺に攻撃するチャンスを与えてくれているんだろうか。

 何はともあれ、今こそ能力結合スキルコネクトとやらを試してみるチャンスだ。


 俺は二つの能力スキルを同時に発動するイメージをする。

 身体透過インビジブル高速移動ファストムーブ…… 透過移動インビジブルムーブ

 俺はその場で消えると同時にハウエルの周囲を目にも止まらない速さで駆け回る。


「これは流石のワタシでもどこにいるか全く分からないわね……」


 ハウエルはキョロキョロと周りを見渡している。

 今がチャンスだ!!

 俺はハウエルに背後から急接近し、ハウエルの顔面目掛けて思いっきり振りかぶった。


「……食らえっ!!」


 俺の拳がハウエルの側頭部に当たる。

 ハウエルは若干よろけた後、すぐに体勢を立て直し俺の腕を掴んだ。


「攻撃を当てれたからって油断しちゃダメよ、わざと攻撃を食らってる可能性もあるんだから当てたらすぐに引かないと」

「くっ……」

「まあ今のは全く見えてなかったんだけけどね、ワタシに攻撃を当てただけでも大きな成長だと思うわ」

「あ、ありがとうございます」

「今日はちょっと本気出しちゃったわ、アンタもう体ボロボロでしょ」


 あれだけ打ち込まれた状態で高速移動をした訳だから、正直立っているのがやっとだ。


「はい、もうこれ以上は……って感じです」

「じゃあ今日は少し早いけど終わりでもいいわよ、また回復してから続きをしましょう」


 ハウエルは疲労回復用の特製ドリンクをまた手渡した。


「ありがとうございます、最近良い宿に泊まってるんで体力はいい感じに回復できそうです」

「いい宿って?」

「ここから数分の外観が綺麗な丘の上の宿です」

「あああそこね、ワタシもボルグランに来てまだ日が浅いけど、あの宿は知ってるわ。 ワタシもいつか行ってみたいわ〜」

「俺とレナはそこで働いでるんで、是非来てください!」

「様子を見に行ってみるかしらねぇ、とりあえず今日は帰るわ」

「はい、ありがとうございました」


 俺はハウエルと別れ、訓練所について来ていたセリカと一緒に宿に帰った。

 辺りはもうすっかり暗くなっている。


 俺は部屋に戻り、今日かいた汗をシャワーで流した。

 シャワーでスッキリした俺はタオルを腰に巻き、風呂を出た。

 するとドアをノックする音がした。


 俺は体を隠す様にして、ゆっくりとドアを開けた。

 そこには支配人が立っていた。


「し、支配人、どうされました?」

「ちょっと二人で話をしたいのですが、ついて来てもらえますか」

「は、はい」


 俺は一度扉を閉め、寝間着に着替えた後、支配人の後について行った。



〜〜〜あとがき〜〜〜


身体透過をトランスペアレントとルビ振りしていましたが、

インビジブルの方が分かりやすい単語だと思いますので変更します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る