第三十三話 能力の発現

 俺は支配人に呼ばれ後をついて行く。

 支配人の部屋に向かうのかと思っていたが、支配人は階段を下る。

 1階に着くと、宿の奥の古めかしい鉄製の扉を開き、見た事がない階段を下って行く。

 地下部分は石造りの壁と階段でできており、暗くてとても不気味だ。

 時々、足元がヌルヌルとしている岩があり、足を滑らせそうになりながらも階段を下り切った。


「支配人、ここって……」

「地下部分は洞窟になっていましてね、この宿が営業開始する前からあった様です」

「はあ…… ちなみに話って」

「君の能力スキルについてです」


 やはり清掃をしていたときに能力スキルを発動しているのを見られていたのか。


「すみません、その方が早いかなと思って」

「フェラルの前では金輪際、能力スキルを使わないでください」


 支配人の普段は閉じかかっている目が大きく開く。

 目を開くとまたいつもの朗らかな雰囲気は消えた。


「わ、分かりました。 でも何故フェラルの前だけなんですか?」

「あの子は"特別"なんです」

「特別……?」

「あまり詮索はしないでください」


 支配人の語尾が強くなる。

 あんなに普段優しい人がこんな圧力をかけてくるなんて、どういう事なんだ。

 だがこの空気感、一度頷いておく他ないだろう。


「事情はよく分かりませんが、能力スキルは使わない様にします」

「宜しい、こんな夜に突然すみませんな」


 俺と支配人は話を終え、階段を上りそれぞれ部屋に戻った。

 フェラルが特別? そんなに特殊な能力スキルを発現させてしまう可能性があるって事か?

 特殊さでいけば俺も負けてないととは思うんだが。


 疑問で頭がモヤモヤしつつも俺は疲れを癒すため就寝した。


 **********************


 現実世界では今日も休日だ。

 昨日と同じくいつも通りの生活をして眠りについた。


 **********************


 目が覚める。

 今日はフェラルの声が聞こえない、まだ遅刻ギリギリの時間じゃないって事か。

 俺はゆっくりと起き上がり、服を着替えて支配人の部屋に向かった。

 扉を開くと、そこにはいつものメンバーに加えてレナの姿があった。


「おはようございます」

「あ、おはよう。 そうか、レナも厨房に入る様になったから朝礼に出てるのか」

「はい、料理の腕が認められてここに滞在している間はシェフの補佐をすることになりましたので」

「レナは本当に料理ができたんだな、やるじゃんか」

「ウィンダム邸では時々メイドも料理を致しますので」

「なるほどな」


 そんな会話をしているうちに従業員全員が揃った。


 朝礼では俺が働き始めた時と同様に、支配人からレナが紹介された。

 綺麗な容姿をしているものだから、受付に配置換えする案も提唱されたが、厨房の人不足から予定通りシェフの補佐として働くことになった。


 朝礼の終了後、俺はまたいつも通り清掃に向かう。

 昨日血痕を発見した部屋は何だか気味が悪い。

 そこで人が死んだのかは知らないが、完全に事故物件に入るときの気分だ。

 俺は能力スキルも使いつつ、ささっと清掃を終わらせフェラルと合流した。


「なあ、昨日の能力スキル使わないのか?」

「あ、ああ! やっぱ人間汗水垂らして働くのが一番ってな!」

「そんなの古い価値観だろ、使えるものは使うべきだと思うぜ! アタイなんて能力スキルが分からないんだから!」

「フェラルの歳で能力スキルが発現してないっていうのは珍しいことなのか?」

「珍しいも何も、アタイは聞いたことない! みんな学校で習うみたいだし、卒業までにはみんな使える様になるって聞くぜ! まあアタイは学校に行ってないけどな!」

「そうなのか…… でも自分の能力スキルがどんなのかまだ分かってないってワクワクしないか? もしかしたらすごい能力スキルなのかもしれないぞ!」

「だといいな!」


 フェラルはニコニコと笑いながら清掃を続ける。

 ただ"人が当たり前の様にできる事を自分はできない"というのはコンプレックスになるだろう、現実世界の俺もそうだ。

 何とかして能力スキルを発現させてあげたい気持ちにもなるが、昨夜の支配人との会話が引っかかる。

 "あの子は特別なんです"


「さて、今日の仕事も終わりかあ」


 フェラルが背伸びをしている。

 小さい体からポキポキと骨が鳴る音が聞こえる。

 そういえばフェラルは何歳なんだろう。


「ウチか? 今は14歳だぞ?」

「え、俺今何も言ってないけど」

「嘘だ、確かに聞こえたぜ?」


 どういう事だ、フェラルは俺の心の声を聞いたのか?

 視界の中心にいつもの文字が表示される。


 "能力吸収スキルドレイン発動 心理読解マインドスキャンを会得しました"


 心理読解マインドスキャン!?

 今この瞬間に能力スキルが発現したっていうのか。


「レンの口が動いてないのに声が聞こえる…… 何なんだこれ?」

「フェラル、それがお前の能力スキルだよ!!」

「本当か? ついにアタイも能力スキル使える様になったのか!!」


 フェラルはとても嬉しそうだ、この喜び様を見ていると何だか俺まで嬉しくなる。


「支配人に自慢してくるぜ!!」


 フェラルはそのまま宿の中に駆けて行った。

 何だろう、何だか嫌な予感がする。

 昨日の支配人の空気、あの矛先がフェラルに向かうかもしれない。


 俺は支配人とフェラルのもとに向かうことにした。

 支配人の部屋からフェラルらしき声が聞こえる。

 俺がドアを開けると、フェラルは床に座り込み震えていた。


「どういうことだよ、支配人がアタイの親を殺しただなんて……」


 フェラルの震えた声が部屋中に響く。



〜〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜〜



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