第四十一話 王の能力

「王の……能力スキル……?」

「ええ、具体的には分からないけど、能力スキルについて王の話を聞いたことがあるわ」


 流石は元四聖剣、王直属の兵士だけあって直接王と会話をしたことがあるのか。

 王の現実世界侵略を阻止するには、いずれは王と対峙する事になるかもしれない。

 この情報、聞いておかねば。


「一体どんな能力スキルなんですか……?」

「あれは王がお酒をたしまれていた時だったかしらね、酔いが回った王はポロっと能力スキルについて話していたの。 確か"世界をべるための能力スキル"と言ってたわ」

「"世界をべるための能力スキル"? それじゃあ全然どんな能力スキルかは分かりませんね……」


 少し落胆した俺の顔を見て、ハウエルは口角を上げる。


「ええ、それでここからはワタシの推測なんだけど、恐らく洗脳系の能力スキルなんじゃないかと思う」

「ちなみにその根拠はあるんですか?」

「もちろん! 王が王都の街並みを視察するという事でワタシは護衛をしてたんだけど、気に入った女の子を王宮に連れて行こうとしたの。 その女の子は嫌がっていたんだけど、王が手をかざした瞬間王にベッタリになったのよ」

「それって、思いのほか王がイケメンだった……みたいな事は考えられませんか?」

「有り得ないわ、正直言って王はブサイクよ!!」


 ハウエルの声量が高まり、部屋中に声が響いた。

 ここまで言われるくらいだから相当微妙な顔つきなんだろう。


「アツくなりすぎちゃったわ、とにかくそれは有り得ない」

「王がブサイクなのはよく分かりました。 それにしてもその話が本当だとしたら相当なクズ野郎ですね、嫌がる女の子を洗脳だなんて」

「本当よ、あんな職場辞めて良かったわ!」


 そんな簡単になれる職業でもないし、辞めれる職業でもないと思うんだが、そこはハウエルの力量がズバ抜けている故なんだろう。


「それにしても、なんでそんな事教えてくれるんですか?」

「ワタシを舐めてるの? アンタの目的なんてある程度は察してるわよ」

「バレてましたか……」

「こんだけ拳を合わせているとね、会話以上に伝わってくるのよ。 アンタもワタシの想いとか信条とかが伝わってきたでしょ?」

「あ、俺は心理読解が使えるんで拳で語らなくても伝わってきました」

「……あっそう」


 ハウエルがムスッとした顔をする。

 ここは拳で伝わってきたと言っておいた方が良かっただろうか。


「とにかく、鍛錬はこれで一旦は卒業よ! また自分の実力が不安になったらまた来なさい、ワタシも久しぶりに本気でトレーニングしておくから!」

「助かります! 今までありがとうございました!」


 俺はハウエルと別れ宿に戻り、レナとセリカの部屋をノックした。

 すぐにドアが開き、セリカが隙間から俺の顔を覗き込んだ。


「な、何の用でしょうか……!」

「ちょっと今後のことについて話したいんだ、レナもいるか?」

「な、なるほど! レナさんもいらっしゃいますので入ってください!」


 セリカはドアを開き俺を招き入れてくれた。

 俺は部屋備え付けの椅子に腰掛け、レナとセリカは各々のベッドの上に座った。


「さて、突然だけど今日ハウエルとの鍛錬を卒業した」

「え!? じゃあハウエルさんに勝ったって事ですか……?」

「ああ、まぐれかもしれないけどな」

「流石です……! 今日は豪華なご飯でも食べに行きましょうか!」

「そんな大袈裟な…… とにかく、話し合わなきゃいけないのはこれからどうするかだ。 レナは元々ボルグランまでの道案内って話だったしウィンドピアに帰らなきゃならないだろ?」


 レナは少し宙を見つめた後、俺の問いに答えた。


「ゼラート様からはこのまま駆け落ちしてもいいぞと言われましたので、そこは融通が効くかと思います」

「あの人は自分の家のメイドに対してなんて事を言ってるんだ!!」

「あの〜駆け落ちってなんですか?」


 セリカが不思議そうな顔をして聞いてくる。


「簡単にいうとあれだ、愛の深さ故に男女が二人でどっかに消えちゃうって事だ」

「え!? ダメですよそんなの、駆け落ち反対です!」

「大丈夫、そんな簡単に人は駆け落ちしない! 話を戻すとレナは自由に行動できるって事だな、でもそろそろ屋敷に帰りたいだろ」

「屋敷の中も窮屈ですので、私としてはこのまま旅を続けるのも良いかなと思っています」

「良いのか、ここからはもっと危険な旅になるぞ」

「私の能力スキルなら基本的には誰も手出しできないと思いますので大丈夫です」


 レナはいつも通り冷静な顔で言い切った。

 話し合いの結果、俺とレナとセリカは今後も3人で行動することが決まった。


「よし、じゃあ一緒に行こう。 次はいよいよ王都か」

「王都に行ったら空間転移テレポートは使えませんね……」

「ああ、空間転移テレポートを使うのは非常時だけだ。 あとここから王都ってどれくらいなんだ?」

「馬車で5日程かと思います」

「よし、じゃあ明日は旅に向けてまた準備をするか」

「主に食料ですね、ボルグラン名物の食べ物いっぱい買いましょう!」

「観光気分だな! でもたまには良いか。 ちなみに馬車ってどうなってるんだ? 俺隻眼の魔女に氷漬けにされてから何も記憶にないんだけど」

「以前ゼラート様とボルグランを訪問した時にお世話になった馬小屋に預けています」

「じゃあ問題はないな。 よし、じゃあ明日起きたらまた部屋をノックする」


 俺たちは明日の買い出しに備えてその場を解散した。

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