第十五話 隻眼の魔女
突然塀の上に黒装束の人間が現れた。
「兄ちゃん、いい馬車に乗ってきたな。 これからどこに行くんだ?」
塀の高さは5mはある、どうやって登ったんだ?
そしてこの男は何が目的なんだ、とても友好的とは思えない。
「南の都に会う人がいてな」
「なるほど、行くのは勝手だが、俺たちに積荷を分けちゃくれないかな?」
「分けるほどの物資はないんだ、諦めてくれ」
「ん? 断れる立場だと思ってんのか?」
直後、女湯の方からセリカの叫び声が聞こえた。
「お前、何をした!!」
「ちょっと俺の仲間がお痛をしちゃったかもしれないなぁ」
男はゲスな顔をして笑う。
怒りと焦りが俺の心を支配していくのを感じる。
早くこいつをどうにかして向こうに行かないと。
「お前ら、痛い目に遭いたくなかったら早く消えろ」
「そんな事言える立場か? お前」
「忠告はしたぞ」
俺は男に首元に
「少しでも動いたら首を掻き切る」
「おうおう、怖いねえ」
男は余裕の表情だ、こうなったら本当にやるしかないのか。
——!?
俺の一瞬の思考の間に男は俺の視界から消えていた。
どこにいった……?
俺の視界にまた文字が映る。
“
なるほど、目に止まらぬ速さで移動ができるってわけか。
「さあ、俺がどこにいるかわかるかなぁ!?」
周囲のあらゆる方向から物音が聞こえる。
高速での周囲を移動しているんだろう、位置が捉えられない。
だが位置が捉えられないという点では俺の方が上位スキルを持っている。
「(
俺の体が次第に風景と一体化していく。
「何!? お前の
俺は黙ってあの男を探す。
奴が少しでも動きを止めたらこっちのもんだ。
注意して周りを見渡す。
右から物音が聞こえた!
……見つけた! あの塀の上だ!
「
「そこか!くっっっ……」
男は意識を失い、塀の上から地面に落ちた。
そんなことはどうでもいい。
早くセリカのところに向かわねば。
この高速移動とやらを使って塀を超えるしかないか。
「セリカ、今行く!!」
「れ、レンさん!! 待って!!」
ん? 待って?
時すでに遅しだ、俺は既に女湯が見えるポジションに移動してしまった。
女湯を見ると身体を隠したレナとセリカがおり、その横には湯船に倒れ込んでいる1人の見知らぬ男がいた。
「ん? どういうこと?」
「ハレンチ!!」
飛んできた風呂桶が俺の顔面にクリーンヒットし、そのまま湯船の中に落ちた。
理不尽だ、俺はレナとセリカのを心配しただけなのに。
……
それにしても女の子の裸なんて見たのは初めてだ。
……
思い返すだけで鼻血が……
やばい、クラクラしてきた。
意識が……
「——起きた!」
「気を失ってたのか、この世界に来てからこんなことばかりだな」
「すみません、レンさんが助けに来てくれたのは分かってたのに私が桶を投げてしまって…… そのせいで鼻血が大量にでてしまった様で……」
あ、そういう理解になってるのか、良かった。
女の子の裸を見て鼻血出して気絶したなんて知られたら俺はもうこの世界で生きていけない。
「そういえばあの男たちは?」
「あそこに……」
男たちは手足を縛られて脱衣所の前で拘束されていた。
「受付の方が捕まえてくださいました! レンさんを運んできてくれたのも受付の方です!」
「後でお礼を言っとかないとだな、さてこいつらどんな目に遭わせてやろうか」
近づいてくる俺に気づいた男たちはわなわなと震えている。
「お前ら本当に物資を奪いに来ただけか?」
「そ、そうだ。 生活が苦しくてな……」
「本当か……?」
俺は
「お前ら物資だけじゃなく俺の連れにまで手を出そうとしたんだ、生きて帰れると思ってんのか?」
我ながら似合わないセリフを言っている。
これはあくまでこいつらから情報を引き出すためだ、無抵抗の相手を殺す気なんてさらさらない。
「ほ、本当のことを話すから命だけは……!」
「その情報の内容によるかな」
「これは絶対有益だ! 俺たちは雇われた!」
「雇われた…… 誰に?」
「隻眼の魔女……」
「隻眼の魔女? 名前は分からないのか?」
「ああ、裏社会ではその名で通っていて本名は知らない。 西の都周辺の深緑色の髪をした小さな少女を追えっていう指令だ」
セリカの
恐らくこの世界に来たときに戦闘したあのアウゼスっていう男が王都に報告したんだろう。
そしてその王から隻眼の魔女とかいう裏社会の人間に指令が出たと。
人
「それ以外に何か情報はあるか?」
「知らない! 俺たちも今言った話以外は何も聞いていない!」
「分かった、とりあえず命だけは奪わないでおく」
「ありがてえ!!」
「ただお前たちは西の都の刑務所行きだな」
「は、はい……」
俺は転移穴を開き、拘束された2人の男を連れ、西の都のウィンダム邸に移動した。
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