第三十七話 デートの作法

 俺はセリカを探しに宿の外に出た。

 庭を探していると、花壇の側に座っているセリカを見つけた。

 近寄っていくと、セリカは俺に気づいた様だ。

 俺はセリカの隣に腰掛けた。


「れ、レンさん! ……あの ……さっきはすみませんでした」


 俺が謝らなきゃいけない流れなのかと思ったが先に謝られてしまった。


「いやいいんだ」

「レンさんは多分フェラルさんを助けただけなんですよね。 レンさんは優しいから困ってる人を見つけると放っておけないんですよね」

「そんな自覚はないけどなぁ」

「私の事だってそうですよ。 私の両親が捕まってるのなんて、レンさんには関係ない話のはずなのに、命を賭けてまで戦ってくれて……」

「セリカの場合はこの世界で初めて出会った人だからなぁ」

「そうですよね。 レンさんには自分の世界がある、という事はずっとはこの世界にいられないって事ですかね……」


 セリカがもの寂しそうに遠くを見つめる。

 そういえばそんな事は考えた事もなかった。

 もし仮に王を倒して現実世界への侵攻を防げたとして、その後はどうするんだ?

 普通に考えれば俺はもうこの世界に用はなくなる。


「そうかもしれないな……」

「何だか寂しいですね……」

「まあ当分先のことだろうし、今は王の暴走を止める事に専念してればいいんじゃないか?」

「そうですね……」

「まあもう夜だし、部屋に戻るか」


 俺はその場で立ち上がった。


「待ってください、お話ししたいことが」

「ん? なんだ?」


 俺を引き留めたセリカの顔はプルプルと震えている。


「あの、この前の事なんですけど!」

「この前……?」

「レンさんのベッドで……」

「あ、あああれか!」

「私、レンさんが他の女の子とイチャイチャしてるところを見ると、何だか心の奥がモヤモヤしちゃうんです。 だからきっとレンさんは私の中でお兄ちゃんみたいな存在なんだって思ってました。 でも……」

「でも……?」

「私は多分……」


 セリカの声が突然止まる。

 するとこの間を狙ったかのように宿の入り口から声がした。


「セリカさん、どこに行ったんですか?」


 これはレナの声だ。

 きっと戻ってこないセリカを心配して探しに来たんだろう。


「セリカ、呼ばれてるぞ」

「あぁ、はい!」


 セリカもその場で立ち上がり、宿の出入り口のほうに向かった。

 その途中で振り返り、俺に耳打ちをする。


「——明日、動物園に行きませんか?」

「ケガで修行は難しいだろうしいいぞ」

「良かった、楽しみにしてます。 あ、ケガの調子が良かったらで大丈夫です。 じゃあおやすみなさい!」


 セリカはまた出入り口に向かって走って行った。


 なんとなくオッケーしてしまったけど、これ二人でっていう意味なのか?

 だとすればこれはもしやデート……?

 セリカ相手には緊張することとなく自然体で話せてきたが、デートとなると何だかそうもいかない気がしてきた。

 女の子と二人っきりって一体どんな会話すればいいんだ?

 てか俺とセリカはいつもどんな会話してたんだ?


 考えれば考えるほど心配になってくる。

 いや、一旦考えるのはやめて今日は寝て疲れを癒そう。

 俺はすぐに部屋に戻り、明かりを消して寝る体制に入った。



 **********************



 いつも通り目が覚める。

 今日は月曜日、学校の日だ。

 俺は電車に揺られ、学校に向かった。

 移動中も俺はデートの時にどんな会話をしたらいいかを考えていた。

 だが一人で考えていても何も答えは出ない、誰かに聞くしかない。

 こういう時に頼れる友人が俺にはいるじゃないか。

 昼休み、俺は唯斗を呼び出した。


「なんだ、用事って」

「トップ陽キャのお前に聞きたいことがある、デート中ってどんな会話をすればいいんだ!」

「お前からまさかそんな質問が来るとはな、まさか早川か?」

「いや玲奈とならこんなことで悩んだりしない」

「という事は他の女か、案外レンも隅に置けないな!」

「からかうなよ! で、どうすればいいんだ?」

「俺の経験から言うとだな、ノリだ!!」


 出た、俺が一番苦手なやつだ。

 なんだよノリって、それができないからこうして陰キャやってるんだぞ。


「って言う冗談は置いておいて、ずばり変に張り切らず自然体でいる事が大事だと思うぞ」

「なるほど、それは参考になる気がする」


 俺はそこから昼休みの時間をきっちり使って、唯斗の有難い教えを拝受した。


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