第十八話 フェニー
不死鳥のタマゴが青白く輝いている。
もしかして
いかんせんニワトリのタマゴが孵るところすら見たことがないものだから、こういう時どうしたらいいのかが分からない。
「えーっと、とりあえず温める?」
あたふたしている俺を見かねたのか、レナが近寄ってきて馬車の外にボロ布を敷いた。
「不死鳥のタマゴですね、でしたら温めなくても大丈夫です。 自分で熱を発生させることができる生物ですから。 ここに置いてください」
「なるほど」
俺はレナの指示通り、ボロ布の上にタマゴを置いた。
——数分後、タマゴの表面にヒビが入る。
「うわっ、これもうすぐ生まれるぞ!!」
「生き物がタマゴから生まれてくるのなんて初めて見ます!!」
俺とセリカは初めて見る光景に興味津々だ。
一方、レナは少し離れたところでこちらを見ている。
タマゴのヒビは少しづつ、でも着実に広がっている。
「頑張れ…… 後少しだ……!」
その直後だった、タマゴが割れると同時に激しい青白い炎が吹き出す。
突然の出来事に逃げることもできない。
不死鳥ってこんなダイナミックに生まれるのか。
レナが馬車の外にタマゴを置く様指示したのはこういうことだったのか。
馬車の中で
青白い炎は少しづつ
炎の中心部を見ると、ヒヨコくらいのサイズの青白い鳥が立っていた。
「これが…… 不死鳥?」
「はい、間違いなく不死鳥です」
「思ったより見た目は普通の鳥っぽいんだな」
「まあ、鳥の一種ですからね」
「そうなんだけど、何かこう。 神秘的な鳥なのかと思ってた」
「成長するにつれてレン様が想像する様な姿になっていくと思いますよ」
「そうなのか、これから宜しくな」
俺は不死鳥に手を近づける。
不死鳥は俺の顔を眺めた後、俺に背をむけレナの方に歩いていった。
「レンさん振られましたね……」
「え、買ったの俺だし一番最初に顔見たの俺のはずなんだけど! 鳥って一番最初に見たものを親と思い込むんじゃないの?」
「不死鳥は頭がいいので、ここに親がいないってことが分かるんだと思います。 ほら、おいで」
不死鳥はレナの手に乗り、その場で座り込んだ。
レナは優しい笑顔で不死鳥を見つめている。
こんな顔をしてるレナは初めて見た。
そういえば、レナがどういう育ち方をしたとか全く知らない。
機会があったら聞いてみよう。
「この子、名前どうするんですか?」
「それなら俺がこの数日間ずっと考えていた! 全てを焼き尽くす不死鳥、略して
「レンさんそれ真面目に言ってます? 食べるんですか? こんなに可愛いのに」
「いやそんなつもりはないが……」
「今後お店で焼き鳥食べるとき罪悪感を感じながら食べることになりますよ、この焼き鳥も可愛い鳥さんだったんだなって」
「セリカ、俺が悪かった。 だからそんなに冷静にディスらないでくれ」
俺は真面目に考えたつもりだった、本当に。
「フェニー」
俺とセリカが話をしていると、レナがぼそっと言った。
「
「焼鳥の数億倍いいです!!」
こうして満場一致で不死鳥はフェニーという名前がつけられた。
心なしかフェニーも名前をつけてもらって満足げだ。
レナからフェニーを預かり、馬車に乗車した。
ガタガタと揺れる馬車にフェニーは居心地が悪そうだ。
「何か鳥籠みたいなのを用意した方がいいのか?」
「不死鳥はすぐ大きくなるのでこのままでもいいと思います、何か柔らかいもので巣の様なものを作ってあげれば大丈夫です」
「確かにパンパンに押し込むのも可哀想だしな。 というかレナはなんでそんな生き物に詳しいんだ?」
「幼い頃、両親とよく動物園に行っていたものですから」
この世界にも動物園があるのか。
いろんな伝説の生き物が展示されていそうで気になる。
「楽しそうだな、行ったことないから行ってみたいな」
「南の都に王国最大級の動物園があるって聞いたことあります! 着いたら行ってみましょうよ!」
「用事を済ませてからな、レナも行くか?」
「私は…… 遠慮しておきます」
「好きなんじゃないのか? 動物」
「動物園には良い思い出もありますが悪い思い出もあるんです。 出来ればあまり思い出したくないんです」
レナは馬車の先頭にいるため顔は見えないが、どこか消え入る様な声で話している様に聞こえた。
「なるほどな、あまり詮索はしないでおくよ」
「ありがとうございます」
——そこから数日間、異世界では馬車で移動して、現実世界では昼寝しての繰り返しだった。
現実世界で
一点これまでと状況が変わった点がある。
今までがまるで嘘だったかの様に、現実世界の新規行方不明者が0人になった。
攫うべき人員が足りたのか、それとも
この様子だと近日中にまた学校は再開するだろう。
明日には南の都に到着する。
早く王都に行けるだけの力をつけ、セリカの両親を見つけ出さねば。
そして行方不明者がどうなったのかを暴かねば。
俺は現実世界で眠りについた。
翌日あんなことが起きるなんて、このときには思いもしなかった。
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