第十九話 絶望
俺たちはいつも通り馬車に乗り込み南の都へ向かう。
レナの見立てではもうすぐ南の都に着くそうだ。
フェニーはこの数日間で順調に成長し、ハトよりひと回り大きいくらいのサイズになった。
不死鳥は特殊な青白い炎を操ることができるらしく、旅の途中で炎の扱い方を学んでいる様だった。
どうやら頭が良い鳥ってのは本当みたいだ。
そういえばゼラートが言ってたハウエルとは一体どんな人なんだろう。
よく考えたらこんな突然訪問していいのか?
ゼラートに紹介状くらい用意して貰えば良かった。
「レン様、前に見えるあの門が南の都の入り口です」
真っ直ぐに伸びる道の先に大きな建造物が見える。
「お、遂に到着か。 長旅本当にありがとう、レナ」
「いえいえ、厄介な悪党にも遭遇せず良かったです」
「確かに。 レナが都の外は悪党が多いなんて言うから、もっと闘うことになるんじゃないかと思ってたぜ。 まあ出発直後に一回襲われたけど」
「道中は不思議なくらいに平和でしたもんね、逆に何かあったんじゃないかと変に勘ぐったりもしてしまいますが」
「まあもう目の前に都が見えてるわけだし……」
その時だった。
突然全身の毛穴という毛穴が開く様な感覚に襲わる。
本能が危険を察知し、早く逃げろと身体中に伝えている。
「何だ、この感覚」
「レン様もですか」
「私もです、こんなに暖かいのに寒気が……」
荷台で寝ていたセリカも起きてきた。
一体何が起きてるんだ、後少しで到着だっていうのに。
前方を見ていると、道路の中心に人間が立っている様に見える。
馬車が近づいていくにつれ、その様相が次第に明らかになる。
黒いドレスを着た、ロングヘアーの女性だ。
頭には黒いヴェールがかかっており、顔は確認できない。
——もしや、隻眼の魔女なのか。
「まずい!! 今すぐ引き返さないと…… レナ、方向転換を!!」
「分かりました」
レナは手綱を引き、馬たちに右に方向転換する様指示を出した。
車体が徐々に右に向き始める。
しかし直後、突然馬車はピクリとも動かなくなってしまった。
「何が起きたんだ!!」
「車輪が凍結しています」
「何!?」
身近なものを凍結させる
こうなったら
「
目の前に
「荷物はいい、とにかくこの中に入れ!!」
レナとセリカは急いで
だが、後少しというところで
出現した氷を見たにも関わらず、まだ
能力者が
隻眼の魔女はゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
きっと彼女はいつでも俺たちを殺すことができる、でもそれをしてこない。
何か意図があるのか。
何にせよ、目の前に迫っている死に思わず体が震え始める。
「ご機嫌よう、あなたが
隻眼の魔女が話しかけてきた。
優雅で柔らかい口調だが、その背後に冷徹な本性が見え隠れしている。
「ああ、どうするんだ、俺たちを殺すのか?」
「ふふ、少なくとも
「逆に言うとそれ以外の生死は問わないと……」
「そうね、でも見たところ坊やも
「こちらも特殊な
この状況、どう脱する。
諦めて投降するか、だがそうするとレナはどうなる。
それとも闘うか、それこそ無理だ。
相手はゼラートすら危険視する人物、俺の中途半端な
「まあ、私はあの方の野望になんて興味ないし、連れて行くのは女の子だけでいいかしらね。 私、男が恐怖に怯える姿が大好きなのよ」
ヴェールの下からうっすらと見える口の口角が上がる。
「セリカ、少しでも隙があったらレナと一緒に逃げろ」
「で、でも……」
「いいから、全員殺されるよりいいだろ!!」
「は、はい……」
セリカは今にも泣き出しそうな顔をしている。
「お別れは済んだかしら? じゃあもういいわね」
魔女が手を俺の方に向けると、俺の全身を氷が包んだ。
極低温に包まれ、俺の身体に激痛が走る。
激痛の中で、俺の視界の中心に文字が映る。
"
「ぐあぁぁぁぁぁあ!!」
「やめてください!! 私が王都に行った後何でもしますから!!」
「健気な女の子ね、でもこれは私の趣味なの。 あなたがあのお方にどう貢献するとかは関係ないの」
魔女は徐々に凍っていく俺を見て笑っている。
「まだ序の口よ、こんなに楽しい時間が一瞬で終わるなんて勿体ないもの」
ダメだ、あまり低温に手足の感覚がなくなり意識が朦朧としてきた。
…瞼が重い。
この苦痛から早く解放されたい。
このまま瞼を閉じてしまえば…解決するんじゃないか。
「今すぐこの
「あら、私は一度凍らせたものを溶かすことはできないのよ」
「じゃあもうあなたに用はありません」
「あらあら、言うじゃない」
そうか、相手を無力化する
でもこの氷を溶かせないんじゃ俺はもう… ダメだな。
"
次元…超越…?
一体…どういう…
俺は耐えきれずそのまま瞼を閉じた。
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