第二十九話 初めての仕事
「ほらほら、レン起きろ!!」
——何やらドアの外からフェラルの甲高い声が聞こえる。
そうか、俺は今日からこの宿で働くんだった。
でも清掃なんてチェックアウトの後だしまだ寝ててもいいんじゃないか。
「起きないなら入っちゃうからな!!」
フェラルが扉を開け入ってくる。
俺は重い体を起こし起床した。
「……まだ寝ててもいいんじゃない?」
「もうすぐ朝礼なんだからダメだ!」
「朝礼……?」
「ああ、従業員全員集まらなきゃいけないんだぞ!」
「そうだったのか……」
俺はベッドから出て寝間着から普段着に着替えた。
心なしか今日はいつもより体の疲れが取れていな気がする。
それだけ昨日のハウエルとの模擬戦が応えてるって事だろう。
「よし、じゃあついて来てくれ! 後輩くん!」
「分かりました先輩」
フェラルは嬉しそうに俺を先導する。
廊下を真っ直ぐ歩くと、支配人の部屋についた。
俺が部屋に入ると、支配人が椅子から立ち上がり、進行を始めた。
「よし、みんな集まったね。 今日から新しく清掃員として働くことになったレン君です、みんな良くしてあげてください」
「レンです、よろしくお願いします」
その場にいる人たちは拍手をしてくれた。
何だか新鮮な気持ちだ、全く知らなかった人達と今日から一緒に働くんだから。
「さて、あとはシェフを見つけないとですね」
「すみません、あっしがしょうもない怪我をしたせいで……」
大柄の男が支配人に謝っている、あの人がシェフなのか。
「不慮の事故は誰にでもあるものです、気にしないでください」
「アタイがまた街に行って探してくるよ!!」
「いつもありがとう、助かるよフェラル」
「ふっふっふ、もっと褒めてくれ!」
「それはそうとレン君、今日は初日だから色々と分からない事が多いと思うけど、フェラルに聞いて頑張ってください」
「はい!」
「じゃあ今日の朝礼はこんなところで、今日も一日頑張りましょう」
朝礼が終わると、皆ぞろぞろと自分の持ち場に向かった。
「フェラル、俺たちはどうすればいいんだ?」
「よし、じゃあまずは廊下の掃除からだ!」
「なるほど、何を使って掃除するんだ?」
「これを使ってくれ!」
フェラルは数枚の雑巾と小さなホウキを手渡してきた。
この世界には掃除機なんてものはないから仕方ないのかもしれない。
最初はフェラルと一緒に、慣れてからは別れて建物の中を掃除した。
掃除は屈伸運動が多く、結構体にくる。
途中からは
「フェラル、こっちは終わったぞ」
「早いな! どれどれ…… 本当だ筋がいいじゃないか!」
「フェラル先輩の指導のおかげっす」
「へっへーん! そうだろそうだろ! 次はいよいよ客室の清掃だ!」
フェラルは嬉しそうに笑った。
俺たちは部屋に向かった。
部屋の清掃といってもそこまで汚れてる部屋は見当たらないため、ベッドのシーツを変えたり水回りを拭き掃除するくらいだ。
「そういえばフェラルは何でここで働いてるんだ?」
「決まってるだろ、金を稼ぐためさ! アタイは親がいないからな、生きていくには自分で稼がなきゃなんねーんだ!」
「——なんかごめん……」
「あ、そんな気にしなくていいぜ、生まれた時からいないから特に気にしてないぜ!」
フェラルはいつもの元気な笑顔で笑う。
「寂しくなったりはしないのか?」
「そりゃあ少しは寂しいけどな、でも支配人がいるから大丈夫だ!」
「そういえば支配人と仲良さそうだな」
「育ての親だしな、見ず知らずの子供を育ててくれるいい人さ! 本当に感謝してる」
「いい人に育ててもらってよかったな」
こんなことを言ってるが、俺の親への態度は決していいとは言えない。
現実世界に帰ったら少し親孝行をしなきゃいけない気がしてきた。
そんな話をしつつ、俺達は着実に客室を清掃していった。
「よし、これで清掃は終わりっと!」
「はー疲れたな、朝から動きっぱなしだ」
「そりゃそうだろ、次は庭の掃除をするぞ!」
「まだ終わりじゃないのか!?」
「金を稼ぐってのはそんなに簡単なことじゃないぞ!」
「ぐぬぬ……」
おそらく5歳くらい年下の少女にそんなこと言われるだなんて思ってもみなかった。
でもフェラルが言ってる事は真っ当だ。
俺が甘えて生きてきただけなんだろう。
俺たちは庭に移動した。
「さて、掃いてきれいにするぞ!」
「うーん、
「掃除に役立つ
「実は館内の掃除でも使ってた」
「だからあんな早かったのか! やって見せてくれ!」
俺はまた
「なんだこれ、風を操る
「まあね、この調子でちゃっちゃと終わらせよう」
「そうだな!」
俺は能力でゴミを一箇所に集め、フェラルがそれを一箇所に集めるというコンビプレイによって、庭の清掃は一瞬で終わった。
「ひゃー、こりゃ助かるぜ……」
「明日はもっと早く終わらせようぜ!」
「だな!」
俺とフェラルは気分良く清掃を終えた。
ふと建物を見ると窓から誰かがこちらを見ている。
——支配人だ。
いつもの優しい顔ではなく、まるで戦闘前の熟練の兵士の様な、落ち着きを払った冷たい目で俺とフェラルを見ていた。
〜〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜〜
少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、作品や作者のフォロー、評価をよろしくお願いします。
小説を書き続ける励みになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます