第四十三話 アウゼスとの再戦

 現実世界に転移穴ポートホールが開き、中から四聖剣の一人、アウゼスが中から出てくる。


「いったい誰だ? 俺を蹴り飛ばしやがったのは」


 アウゼスがイライラした様子で道沿いの塀を蹴ると、爆音を伴いながら砂煙が立ち、コンクリート製の塀が崩れた。

 アウゼスはキョロキョロと周囲を見渡し、視界に映る俺に気づいた様だ。


「そこのテメェ、どこかで見たことあるな……」


 アウゼスがズシズシと近寄ってくる。

 どうする、唯斗と彩は逃がせたし俺も逃げるか?

 こんな街中で能力スキルを使う事は避けたい、下手な疑いをかけられる事はご免だ。

 ……でも待てよ、そしたらコイツは他の人間を連れ去るんじゃないか?

 一般人が四聖剣に抵抗するなんて難しいだろう、となると俺がやるしかないのか?


 葛藤が頭の中をグルグルと駆け回る。

 そんな事をしてるうちにアウゼスは俺の目の前に到達した。


「どこかで見た事あると思ったら、テメェあの時の!! 何でこの世界に!?」


 アウゼスの表情は憤怒に満ちている。

 これはもう逃げるという選択肢はなさそうだ、戦うしかない。


「まあいい、会いたかったぜ!! クソガキ!!」


 アウゼスは俺の顔面目掛けて拳を振りかぶる。

 俺は高速移動ファストムーブで一度後方に下がった。


「ちょこまかと……!!」

「くっ……!!」


 アウゼスも俺と同等のスピードで追いかけてくる。

 ハウエルも然り、このレベルの相手となると能力スキル無しでも圧倒的なスピードだ。


「逃げるなゴルァ!!」


 俺の背後の塀が崩れ、退路を断たれた。

 そうだ、この男の能力スキル高速振動バイブレーション、振動で塀を崩したのか。


「もう逃げれねえぜ、死ね!!」

「クソっ、風刀ウィンドブレード!!」


 俺の周囲を風の刃が囲う。

 アウゼスは一旦攻撃を止め、数メートル程後ろに引いた。


絶対零度アブソリュートゼロ!!」


 超低温の氷が地面から生える様に、アウゼスに襲いかかる。

 アウゼスは余裕の表情で全ての氷を避け、腰に携えていた独特な形の剣を握り、こちらに接近してくる。

 あの剣はまずい、何とか距離を保たないと。

 俺は地面から巨大な氷の壁を出現させた。


「よし、これで……」


 キィーンという音が鳴り響いた後、氷の壁に亀裂が入りバラバラに砕け落ちる。


「……テメェ、一体どんな能力スキル持ちなんだ」

「言う訳ないだろ、早くあっちの世界に帰れ」

「本当に人をイライラさせるのが上手な奴だな」


 アウゼスはまた俺の方に接近してくる。

 ハウエルとの模擬戦と違って相手は凶器を持っている、そして明確な殺意がある。

 一瞬でも気を抜けば殺される、その事実が心臓の鼓動を極限まで早めている。


 目の前まで接近したアウゼスが剣を振り下ろす。


「今だ、空間転移テレポート!!」


 アウゼスの目の前に大きな転移穴ポートホールを開き、強制的に転移させる。

 転移穴ポートホールの行き先はアウゼスが出てきたもう一つの転移穴ポートホールだ。

 アウゼスはそのまま元居た世界に放り出された。

 俺はすかさず地獄業火インフェルノ転移穴ポートホールを囲い、こちらの世界に来られない様に蓋をした。


「クソ野郎、次会ったときは確実に殺してやる」

「ああ、次はそっちの世界で」

「クッ……」


 アウゼスの悔しそうな声が聞こえたのと同時に、目の前の転移穴ポートホールは収縮し消えた。


「さて、早く逃げないと……」


 アウゼスとの戦いによって道路や塀が一部ひび割れたり崩れたりしている。

 異世界の人間と戦ってこんな事になったなんて言っても誰も信じてくれないだろう、厄介ごとは避けるのが一番だ。

 俺はその場をすぐに駆け出した、もと来たT字路を左に曲がる。

 曲がろうと思った瞬間、そこには唯斗が立っていた。


「ゆ、唯斗!? お前逃げろって……」

「お前が気になって戻ってきたんだよ! もちろん彩はちゃんと家に送ってきた、それよりこれ一体どういう事なんだ……?」

「え、えっと……」


 唯斗は珍しく神妙な面持ちをしている。

 俺が口を開こうとした瞬間、背後から足音がした。


「後で話すから一旦ここを離れよう」

「お、おう」


 俺と唯斗はその場を走り去った。

 数分走り、近くの川沿いの公園に辿り着いた。


 唯斗の問いは俺がこの誘拐事件とどう関係しているのかだろう、能力スキルまで見られたのでははぐらかす事も難しそうだ。 俺は唯斗にこれまでの事を話すことにした。


「唯斗、今から言う事は絶対に周りには言わないでくれ」

「……分かった」


 俺は唯斗に異世界の事や能力スキルの事を話した。 

 俺の能力スキルを見た事で話の説得力が増したのか、唯斗は茶化す事もせず、黙って俺の話を聞いている。


「……っていう話だ」

「なるほどな…… 信じられない話だけど、あんなものを見せられちゃ信じるしかなさそうだな……」

「俺も最初は信じられなかったよ、こんな超能力みたいなのを会得するなんてな」

「でも何で蓮がその異世界ってのに行くことになったんだ?」


 玲奈が俺の精神を異世界に飛ばしているなんて言ったら、どんな顔をするだろう。

 そこは玲奈に迷惑がかからない様ボカしておいた方が良さそうだ。


「そ、それは俺も分かってない」

「ふーん、でも何か事情があるんだろうな。 大体の話は分かった、何か手伝えることがあったら何でも言ってくれよな!」

「今は転移穴ポートホールを見たらすぐ逃げてくれとしか言えないな」

「だよなぁ、俺は蓮みたいな能力スキルなんてないしなぁ、まあとにかく今日は助けてくれてありがとうな」

「当然のことだよ、じゃあまた明日学校で」


 俺と唯斗は解散し、家路についた。

 まさかこのタイミングで侵略が再開されるとは思ってもみなかった。 早く王都に向かって王の野望を阻止しないといけない。

 帰宅後、俺は早めに就寝し異世界に向かった。


〜〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜〜



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