第四十八話 母親

 王宮の様子を観察すると、どうやら正面ゲートには6人ほどが警備に当たっており、王宮に立ち入ろうとするものを拒んでいる。

 そして王宮の入り口に目を向けると、どうやらそこにも兵士の姿が見える。 王宮に侵入するにはこの二段階の関門を突破する必要がある様だ。

 だが今は王宮に侵入する必要もない、連れ去られた空間転移テレポート持ちがどこに居るのか、それさえ分かればいい。


 俺は心理読解マインドスキャンで正面ゲートを監視している兵士達の心理を読む。

 彼らの生い立ちや今考えている事などが俺の頭に入ってくる。

 ——どうやら彼らは下っ端集団の様で、重要な事は何一つ知らされていない様だ。

 となると更に奥に進んでみるしかないか。


 俺は透明な体で音を立てない様にゲートを通過した。

 兵士達が鈍感なのか、俺の忍足が完璧なのか、兵士達は俺の気配に気づくこともなく、ボーッと遠くを見つめているだけだった。


 俺はその足で王宮の入り口に向かう。

 王宮そのものの警備をしている兵士であれば、今の兵士たちよりは情報を知っているだろう。 王宮に近づくと、徐々に兵士達の考えている事がうっすらと頭に入ってくる。

 ある兵士に目を向ける。

 ——この兵士は、長い髪をした女性が王宮の中に連れて行かれる様子を見た事がある様だ。

 女性が空間転移テレポート持ちなのかは分からないが、目は虚であり、少なくとも好き好んで王宮に来ているわけでない事が分かる。 女性は王宮の入り口ではなく、脇道の先にある小さな勝手口に連れて行かれた様だ。


 これ以上は危険かもしれないが、今更引く訳には行かない。

 脇道を進むと、先ほど読み取った情報通りの小さな勝手口が視界に入る。

 俺はゆっくりと扉を開き、中を見る。 そこには石造りの階段が地下に向かって伸びていた。


「やめて!! もう連れて行かないで!!」


 階段の先から女性の声がする。

 この先で何か忌々しい事が起きているには違いない。

 俺は少し急ぎ足で階段を下った。 完全に足音を消すのは難しく、小さな物音が階段に響く。


 階段を下り切るとそこは牢獄の様な場所だった。

 鉄製の檻で区画が仕切られており、いくつかには人が収容されている。

 その中には先ほどの長い髪をした女性も含まれていた。 顔を見るとどことなくセリカに似ている、そして髪の色は明るい緑色だ。 もしかしてこの人がセリカの……!

 そう思うと立ってはいられなくなり、俺はこの女性に声をかけた。


「静かにしてください、この声が聞こえますか」


 女性は周囲をキョロキョロと見回した後、頷いた。


「だ、誰ですか……?」

「あなたはセリカという女の子をご存知ですか?」

「セリカ!?」


 女性の声のトーンが上がり、牢獄内に声が反響する。


「し、静かに……」

「すみません……」


 女性はその場で深呼吸し、心を落ち着けた。


「セリカは私の娘です。 セリカがどうかされたのですか……?」

「はい、あなたに会うために王都に来ています」

「セリカが……?」


 セリカの母親は手で口を塞ぎ、瞳を潤ませた。


「今は宿で待ってもらってますけど、もうすぐ会えると思います。 どうにかしてここから脱出する方法を考えるのでもう少し辛抱してください」

「はい、少しでも希望があるのであれば…… よろしくお願いします」


 母親はようやく微かな笑顔を見せた。 やはりどことなくセリカに似ている。

 いや、セリカがお母さんに似たのか。


「あと気になっていたんですが、旦那さんは……?」

「今さっき、兵士に連れて行かれました。 今日の転移役はあの人なんです……」

「転移役……?」

「異世界への転移穴を開く役割を担う人です。 あまりに遠い距離への転移は精神的、身体的な負荷がかかるので、ここにいる人間に交互に順番が回ってくるんです。 あの人……もう衰弱しきってるというのに……」


 潤んでいた瞳から涙がこぼれ落ちる。 能力スキルといえどもその力には限界があるのか。

 セリカの父親の命が危ない、早い事救出プランを考えないといけない。


「よく聞いてください、今ここであなたを助けると旦那さんのセキュリティが厳しくなってしまうかもしれない。 またここに来ます」

「ええ、待っています。 セリカとどんな関係なのかは分からないけど、ありがとうございます」


 よし、後は宿に帰って脱出プランを……

 --ん、待てよここにいる全員が空間転移テレポート持ちなら、各々能力スキルで逃げれるんじゃないか? なぜ能力スキルも使わず大人しくこの牢獄につかまっているんだ?


「どうかされましたか?」

「あ、いや皆空間転移テレポート持ちなら、なんで自分の能力スキルで逃げないのかなと思いまして」

「……私の首を見てください」


 セリカの母親が髪をかき分け、俺に首の後ろ側を見せる。

 そこには見たことない紋様のあざがついていた。


「これは……?」

「私につけられた刻印です。 これのせいで私たちは自由に能力スキルを使う事ができない」

能力スキルを使う事ができない……? なんでそんな事に」


 その時だった。 牢獄の奥から足音が近づいてくる。


「おい! 話し声が聞こえるぞ!!」


 足音の主が大きな声で怒鳴る。


「今日はこのままお帰りください。 あとにはご注意を……」

「白髪の男? 分かりました。 ではお元気で……」


 俺はその場を後にし、元来た階段を上り自分の宿を目指した。



〜〜〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜〜〜



完結させた後、どんな小説を書こうか考えています。

(この小説はもう結末は決まってます)

もしよろしければ、次回作も読んでいただけると嬉しいです。

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