第四十四話 出発の準備

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フェラルの宿で目を覚ます。

昨日あんなことがあったんだ、早く準備をして王都に向かわないといけない。

俺はベッドから素早く身を起こし、着替えてレナとセリカの部屋に向かった。


「レンさん、おはようございます!」

「おはよう、朝から悪いんだけど話がある」

「な、何でしょうか……!」


俺は部屋の中に入り、昨日起きた事を二人に説明した。


「そんな事が起きていたなんて、私も知りませんでした。 昨日玲奈はすぐに家に帰ったもので」

「多分まだニュースにもなってないだろうな、誰も連れ去られなかったのは良かったけど、今後も侵攻は続くと思う。 だからできれば今日の午前中に買い出しを済ませて午後には王都に向かいたいんだけど……」

「分かりました」

「分かりました!」


レナとセリカはそう言うと身支度みじたくを始めた。

俺は部屋を出て支配人の部屋に向かう。

部屋には朝礼のメンバーが集まっており、今日から王都に向かう旨を従業員全員に伝えた。


「急な話ですみません」

「いいんだ、いつかはこうなるって分かってたしな!」


フェラルはニコニコ笑いながら俺の退職を了承してくれた。


「じゃあレンとレナさんの仕事についてどうみんなで割り振るか後で相談しよう! じゃあ今日の朝礼は終わり!」


皆は俺に一言挨拶をした後、各々の持ち場に戻って行った。

部屋には俺とフェラルだけが残っている。


「本当はもう行っちゃうのかって感じだ、寂しくなるな……」

「ごめんな、どうしても行かなきゃいけないんだ」

「いつでも遊びにこいよな! レンならいつでも無料で泊めてやるよ!」

「ああ、絶対にまた来る」


フェラルが俺の体に手を回す。


「……待ってるから」


聞こえるか聞こえないかの小さな声でフェラルが呟く。


「ああ、世話になったな」

「よし、じゃあチェックアウトの手続きはダリアさんに任せたぜ!」


俺は支配人の部屋を後にした。

あと挨拶をしておくべき人といえばハウエルだろう。

俺はセリカを連れてハウエルの衣服店に向かった。


「あらセリカちゃん、お早う。 あれ、今日は珍しいのも来たわね」


"珍しいの"とは俺のことらしい。


「あのー実は今日から王都に向かうことになりまして……」

「ついに時がきたのねェ、看板娘がいなくなっちゃうのは寂しいわァ……」

「看板娘なんてそんな、短い間ではありましたがお世話になりました!」


セリカがハウエルに礼をする。

ハウエルは笑顔でセリカの頭を撫でた。


「またおいでね、また売り上げアップに貢献して頂戴!」

「はい!!」


ハウエルは俺の方を向く。


「今のアンタならそう簡単にやられる事はないと思うけど、死なない様にね」

「もちろん俺もそのつもりですよ。 ちなみにハウエルさんがついてきてくれたり……みたいな事はありませんかね?」

「アンタがぶっ飛ばそうとしてんのは私の元職場よ? 戦力としてワタシが欲しいってのは分かるけど……」

「そういえばそうでした…… じゃあ何か情報だけでも……」

「欲張りな男ね、でも良いわ知ってる事は教えてあげる。 ワタシの後任は知らないけど、他の三人の能力スキルなら分かる。 それぞれ振動、雷、水系の能力スキルを使うわ」


振動ってのはアウゼスとして、それ以外は雷と水か。

うまく吸収して会得できれば、能力結合スキルドレインで強力な技を使える様になりそうだ。


「ありがとうございます、それを知っているだけでも有利に戦えると思います!」

「あ、ワタシが言ったって言わないでね! 王都の奴らに目をつけられるとストーカーみたいなのが現れるから」

「それは黙っときます! じゃあ、本当にお世話になりました」

「ええ、無事生きて帰ってこれたらまた戦いましょう」


俺とハウエルは拳を合わせ、別れを告げた。


「さて、挨拶回りも終わったし、あとは最低限の食料を買うだけだな」

「そうですね! レナさんもお声かけしましょう」


俺たちは宿に戻り、レナに声をかけて再び街に出た。


「西の都からここに来るときより王都は近いんだよな?」

「はい、何でそんなに食料は買わなくてもいいかもしれませんね!」

「じゃあそうしよう、そういえばフェニーは?」

「基本的には放し飼いです、頭が良いので呼べばちゃんと来ますよ」


そういえばフェニーの世話はレナがしてくれていたんだった。


「餌とかは買った方がいいか?」

「いえ、あの子は自給自足です」

「手がかからなすぎるだろ…… じゃあ人間用の食料だけでいいか」


俺たちは街の中心部を散策し、数日分の食料を購入した。

以前は常温でも持つ食料だけにしていたが、絶対零度アブソリュートゼロのおかげで生モノも持ち運べる様になった。そして地獄業火インフェルノで簡単に火を起こす事も可能だ。 


「さて、買うものはこれだけでいいか?」

「はい、大丈夫だと思います」

「オッケー、じゃあ荷物を回収して馬小屋に行こう」


俺たちは宿に戻り、荷物を纏めて受付に向かった。


「すみません、チェックアウトをお願いします」

「本当に行っちゃうのね、用事が済んだらまたいらっしゃいね」

「はい、本当にお世話になりました」

「ちょっと待ったぁ!!」


フェラルの叫び声が聞こえる。

階段をドタドタと降りてくるフェラルは小袋を持っている。


「忘れてた! レンとレナの給料!!」

「あ、そういえばもらってない!!」

「危ない危ない、タダ働きさせた事になる所だったぜ」

「ありがたく頂戴します」


俺はフェラルから小袋を受け取った。

これで当分お金に困る事はないだろう。


「じゃあ、また!」

「ああ、また必ず来てくれ!!」


俺たちは、王都に向かうためボルグランを後にした。

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