第6話 祠の封印 ①

宮田君から電話がかかってきた。


彼は同じ大学の友人だが、俺とは違い経済学部だ。


たまたま、構内で漫画を読んでいたら声を掛けられた。


それ以来、同い年だった事もあり気の合う友人となった訳だ。


実家は大阪府枚方市と京都から近く、大学へも実家から通える距離だった。


彼にとって数少ない友人の中で、俺を選んでくれたのか。


「暇でしたら、付き合ってくれませんか?」


「暇と言われれば、暇だが」


「あのですね、梅田に行きたいのですよ、『まんだらけ』に」


「いいよ、今から準備して出るから、1時間後に梅田の紀伊國屋書店前で良いかな?」


「了解です!」


今出川から地下鉄乗って、烏丸まで出たら阪急電車に乗り換えるか。


京都から大阪までは、案外、交通の便が良いよな。


阪急梅田駅から改札を出て、1階に降りると紀伊国屋書店は目の前だ。


平日、休みの日に関係無く、人が多く集まる場所。


待ち合わせする場所としては、分かりやすいが、相変わらず人は多いな。


「待ちましたか?」


宮田君の方が先に俺を見つけた。


「いいや、今、着いたとこだよ」


「すみません、僕の趣味に付き合わせてしまい」


「そんなこと無いよ、この間、宮田君に借りた漫画は面白かったし。一緒に見て、面白そうなのがあったら、また、借りたいしね」


「僕のお勧めをこの機会に教えますよ!」


楽しそうな宮田君、相変わらず、服装にこだわりは無い。


よれよれのシャツをしっかりとジーンズの中にしまい込んでいる。


そんな彼を周りがどう見ようが、俺は別に気にならないし、恥ずかしくも無い。


これはこれで、彼の個性みたいなものだから。


「どうする?先に紀伊國屋に寄って行くかい」


「そうしましょう」


店の奥にある、ラノベと漫画コーナーへと慣れた足取りで、宮田君は人混みをかき分けていく。


店内では二人で会話するより、お互いに面白そうな本を探しては、手に取るのを繰り返す。


ただ、それだけ。


「宮田君、妖怪とか妖なんかが載っている図鑑みたいな本は何処にあるかな?」


「それなら、ここのコーナーにあるかと思います」


お気に入りの本を見つけた宮田君がレジでお会計を済ますのを待つ間、手に取った本を立ち読みしていた。


本に書かれた数々の妖怪や妖の絵を見る。


普段は見えないけど、こんなのが本当に世の中に居るんだよな。


この間の餓鬼には、ビビったけど。


「いつも以上に真剣ですね、小坂君」


レジで会計を済ました宮田君が俺の読む本を覗き見た。


「妖怪とか妖とかが出てくる漫画を今度、ピックアップしておきましょうか?」


「それそれ、宮田君、お願いするよ」


『まんだらけ』には、ここから5分ほど歩いて行ける距離だ。


大通りの横断歩道を渡り、東通り商店街に入る。


「小坂君は、妹がいますよね?」


「ああ、居るけど」


「良いですよね、妹。僕は、一人っ子だから姉妹に憧れます」


宮田君は、妹系のラノベやアニメなどが大好きだ。


きっと、彼の妹イメージはそこから作られているのだろう。


「妹なんて、兄に対して素っ気ないよ」


「そうなんですか?」


「俺の妹は、中2だけど、実家に帰っても会話無いね。あいつも俺に干渉してこないから、自分への干渉や詮索はされたくないんだと思うよ」


「現実は、そんなもんなのですかね」


残念そうな表情をする宮田君、ああ、彼の夢を俺が壊しては駄目だ。


「でも、実際にあんな妹が居たら兄としても嬉しいかも」


「そうですよね、萌えますよね!」


彼の目に輝きが戻った。


宮田君は、癖があるだけで、決して悪い人間では無い。


勉強は出来るし、自分の弱さを人並み以上に知っている。


だからこそ、他人の目や会話の内容に敏感だ。


それだけ、人を良く見ているのか。


お気に入りの本を購入して、ご満悦の友人と同じ通りにあるゲームセンターで、一時を楽しみ、彼と別れた。


梅田は、始発駅なので急行に乗っても座れる。


電車の揺れは、とても心地良い。


約1時間ほど寝て過ごせる至福の時間。


「次は西院、西院」


電車のアナウンスで目が覚めると、スマホの振動、電話がかかってきた。


DIUD事務所と表示されている。


このまま、アパートに戻らず、直接事務所に行くか。


事務所のドアを開けると、何やら長老と正人さんが言い争っていた。


「ちわー、お疲れ様です」


「隼人君、仕事が入ったのだが、長老も行くと言い出して」


「行くのじゃよ、儂も行くの」と、長老が仰向けで駄々をこねている。


「長老が一緒だと、何か問題でもあるのですか?」


「あるんだよ、問題が」、正人は長老を叱りつけるような目で見た。


「何を正人!儂はいつでもキチンと仕事をしているぞ」


「長老は、弱い妖怪だと、直ぐに苛めるでしょう!」


「何でじゃ?弱い妖怪を苛めても問題なかろうに」


「そこですよ。今回の仕事は、再封印ですよ。長老が妖怪を追い掛け回すと封印出来なくなるじゃないですか」


「ちゃんと、自重するから連れていけ」


「はいはい、じゃあ、どうするのですか?一緒に行かれるのですか?」


茜さんが、呆れて口を挟んだ。


「仕方がないですね、約束ですよ長老。それと、茜さん、皇宮警察本部に行って今回使う封印札を貰ってきてください」


定時の時間が気になるのか、茜さんは、壁の時計に目をやった。


「時間的に着替えて、単車を使っても良いですよ」


「それなら、OKです」


茜さんが戻るまでの間に正人さんから仕事の説明を受ける。


「今回の仕事は、兵庫県と岡山県の県境にある町に行くのだが」


「山の中、田舎になりますね」


「人口の少ない町らしいが、道の駅の建設中に祠を壊したらしいのだ。かつて妖怪を封印した祠、そこに住む人々はすっかり忘れてしまった遺産だな」


「長老が、言うように封印が解けても弱い妖怪なら問題は無いのでは?」


「弱くても、人を怖がらせるのが趣味みたいな妖怪だから。町の人達が気味悪がって、排除を希望している」


「町の活性化を望んでいるなら、いっそのこと、その妖怪を活用したら良いのに」


「人の恐れは、そんな簡単なものでは無いよ」


人は、受け入れるより先に恐れるか・・・。


恐れが勝ると、俺の考えるような商売人根性は出てこないよな。


「今晩出発するけど、泊まれる宿が無いから車中泊になるけど問題無いか?」


「僕は、屋根があるならどこでも構いませんよ」


「儂も、問題ないぞ」


長老、その体のサイズならボックスカーは、俺たちと違って広くて快適だろ。


問題が有る分け無いじゃないか!


「正人さん、何故、皇宮警察本部で御札を貰うのですか?」


「あそこには、陰陽師がいる。彼に再封印のための御札を頼んでいたのだよ」


「陰陽師は、今も実在するのですか・・・」


「意外かな?」


「いえ、餓鬼や妖怪、悪霊など僕も見たので、陰陽師も実在しますよね。僕らが勝手に、過去の存在にしてしまっていただけで」


「そうだな、餓鬼を退治したと夕方のニュースで流れたら、大変なことになる。俺達や陰陽師の活動を公にされると、こちらが困るからな。暗躍なら、良い意味で人々は知らずにいてくれる」


茜さんから封印を受け取ると、二人と1匹の旅が始まった。

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