第67話 吸血鬼達の反乱 ③
男は、ヘラヘラと笑い声を出す女を抱き寄せると、彼女にキスをした。
「楽しいか、そうか、俺も楽しいよ」と、不敵な笑みを浮かべる。
「ちょっと、此処でするのは嫌よ」、女は男の体を引き離そうと、手を彼の胸元に伸ばすと、男は彼女の細い腕を掴んだ。
「ひっ、は・・・離して。痛い、痛いじゃない」
抵抗する女の腕に男の鋭い爪が喰い込む。
男は、女の口を手で塞ぐと、彼女の二の腕辺りを先端が尖った細く鋭い爪を這わせる。ツーと、爪を這わせた跡から血が流れた。
「はっ、良い色だ。とても美味そうな血の色をしている。今日の俺は、ツイているようだ」
男が女の首筋から血を吸おうと顔を近づけると、ピュッと水が顔にかかった。
驚いて顔を上げた男に向かって、桜は執拗に水鉄砲で聖水をかけた。
「あなた、吸血鬼でしょ。成敗してくれるわ」
腕で聖水を拭った男は、「な、何をする。何なんだ、これは。何をかけやがるんだ」、そう話すと聖水のかかった皮膚から湯気が立ち上がった。
「聖水よ! 隼人も、早く来て聖水をかけて」
「あ、ああ。分かったよ」
吸血鬼が女性を襲おうとした瞬間に、真っ先に飛び出して行ったのは、桜だった。
出遅れた正人と隼人は、お互いの顔を見合わせた後に慌てて彼女の元へと、走り出したのだった。
「食事中に悪かったな。この辺りで、女性を襲っているのはお前か?」
「熱い、ぐうっ、あ、熱い。クッソー、どうしてそんな事をお前に話さなくてはならない。俺の食事の邪魔をするとは、良い度胸だ!」
顔の皮膚が爛れる吸血鬼は、壁にもたれさせていた女を払いのけた。
地面に倒れた女を助けようと、桜が彼女に近づこうとした。
吸血鬼は、横切ろうとした桜の腕を掴み、後ろから彼女に抱き付いた。
「上玉のようだ。あの女は、お前達にくれてやる」、吸血鬼は尖った爪の先を桜の頬に当てた。
桜の頬に丸くしみ出た血を吸血鬼は、彼女の背後から顔を近づけ舐めた。
「うーん、最高級品じゃないか! こんな血に巡り合うとは、やはり俺はツイているな」と、勢いよく桜の首筋に噛り付こうとした。
ガキッと、音がして吸血鬼の牙が欠けた。
噛みつきながら吸血鬼が目を下に向けると、赤色の籠手が見える。
隼人は、咄嗟に右腕を出して桜を吸血鬼から守った。
「彼女から、離れろー!!!」と、吸血鬼が加える右腕を強引に引き抜き、思いっきり顔面を殴りつけた。
「ぐっはあー・・・」、弾き飛ばされた吸血鬼が顔を上げると、顎は砕かれ口を閉じられなくなった。
隼人は、桜の腕を取り自分の後ろに移動させた。
「信じられない、こいつ私の血を吸おうとした」
「藪から棒に突っ込んでいくからだよ、気を付けないと」
「うっ、隼人達が居るから安心しちゃって。ごめん・・・」
両手をぶらりとさせて立ち上がった吸血鬼の顔が元の姿に戻って行く。
爛れた皮膚は再生し、顎の骨も元に戻ったのか、吸血鬼は顎に手を当て白い歯を見せながら食いしばって見せた。
「やはり、化け物じゃな」と、吸血鬼の頭上から猫又に変化した長老は、爪を出した前足で攻撃を仕掛けた。
スーッと、スライドするように移動して長老の攻撃を避けた。
間髪入れず四郎が攻撃する、「きりきざまれろ!」
クルクルと回りつむじ風を起こした四郎から、無数の鎌の形をした風が出現し、吸血鬼に襲い掛かった。
スパ、スパ、スパと吸血鬼を切り刻む。
全身を切り刻まれ血を流す吸血鬼は、地面に落ちた自分の左腕を拾う。
左腕を元の位置にくっ付けると、全身に力を入れて叫んだ。
「う、うおー!」、叫んだ後に彼は大きな笑い声をあげた、「こんなことで、俺を殺せると思っているのか? 俺達は、不死身だぞ」
「それなら、何度でも攻撃するだけだ!」
両手をクロスさせた隼人は、「くらえ、雷撃!」
轟音と共に天を切り裂き、雷が細い路地裏に立つ吸血鬼目がけて落ちて来た。
ブスブスと焼けた匂いを漂わせながら、黒焦げになった吸血鬼は、脱皮するように焼けた服と皮膚を脱いだ。
上半身裸になった吸血鬼は、何事も無かったかの様にお辞儀した。
「素晴らしい。雷を落としてくるとは、お前も人間では無いな」
笑いながら拍手する吸血鬼は、突然、ぐふっと声を上げた。
「後ろからで悪いな、こうでもしないとお前達の動きを封じられないから」
鬼神化した正人の腕が、吸血鬼の胸を貫いていた。
吸血鬼は口から血を吐き出す、「後ろに居たとは、油断したな」
腕を引き抜いた正人は、吸血鬼を力強く抱きしめた。
バキバキと骨が砕ける音が、鳴り響く。
嫌な音を聞きたくないのか、桜は両耳を両手で塞いだ。
胸に穴が空き、全身に力が入らない吸血鬼は、うつ伏せで倒れた。
ヒュー、ヒューと呼吸音を漏らす吸血鬼を押しつぶす為に、正人は彼の背中を踏みつけた。
「これで、再生するまで時間が稼げるだろう」、正人は吸血鬼の髪の毛を掴み、顔を上げさせた。
「お、俺をどうするつもりだ。はあ・・・はあ、俺を殺しても終わらないぞ」
「ほう、どう言う意味だ。お前以外に関西で活動している奴が居るのか?」
「それは、教えられない。俺達は、ついに立ち上がったんだ。もう、あいつ等を気にしながら行動しなくて良いのだ」と話し、くっくっくと笑い出した。
「まあ、どうせ喋らないだろうから。長老、こいつの首を落とそうか」
「待て、待ってくれ、首を落とされたら俺は・・・」
「時間稼ぎは、もう良いよ。首を落としてから、数分かな。十分だろ」
吸血鬼の首を落としても、直ぐに絶命しない事を正人は知っていた。もしかしたら、意識がある間なら首を繋げられるのかも知れない。
「や、やめろー」、ぺろりと舌を出した長老は、前足を吸血鬼の首目がけて振り下ろした。
正人は吸血鬼の頭を持ち上げ、切断された胴体を見せた。
「は、早く戻してくれ。何でも話すから・・・、お願いだ、助けてくれ」
「余興は、これぐらいにしておくよ。じゃあ、最後は四郎にお願いしようか」
青白い炎に身を包む四郎が、吸血鬼の頭と体に火を付けると、彼の断末魔が路地裏に響き渡った。
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