第53話 殺人鬼 ⑥
中が騒がしい、不穏な空気に正人は隼人に鉄の扉を開けろと声を荒らげた。
床に座る茜の姿を見た正人は、ウガァーと一叫びする。
椅子に座る小田川に飛び掛かると、彼の胸ぐらを掴み顔面を殴った。
壁際の機械に体を打ちつけた小田川は、床に倒れて動かなくなった。
理性を失った正人に隼人は、ヤバイと思い慌てて正人の体にしがみつく。
「正人さん、落ち着いてください。やり過ぎると相手を殺してしまいますよ」
「ウッ、グッ、グッワー。邪魔するな、殺してやる。絶対に許さない」
普段の正人と明らかに違う。
怒りに支配された正人は、相手を殺す事しか考えていない。
必死にしがみつく隼人を振り払い、ヨロヨロと立ち上がった小田川の方へ歩いて行った。
「駄目だよ、それ以上やったら死んでしまう」と、隼人が叫んでもその声は届かないのか、正人は右足で小田川を蹴り上げた。
入り口の方に蹴飛ばされた小田川は、床に倒れピクリとも動かなくなった。
それでも、怒りはおさまらないのか正人は小田川の方に足を向ける。
「それ以上は、駄目」と、茜は正人に抱きつき怒り狂う彼にキスをした。
「うっ、あ、茜。大丈夫か、こんなに怪我をして。遅くなって悪かった」と、正人の鬼神化が解けた。
茜だけが、正人の理性をコントロールできるのか。
二人の過去に何があったのか、改めて隼人は気になる。
「まだじゃ、まだ終わっていないぞ」と、長老が声を上げた。
隼人が小田川を見ると、彼は額から血を流しながら立ち上がる。
「終わったんじゃないのか? どうして立ち上がれるんだ」と、隼人は背中に寒気を感じた。
正人の方へ歩く小田川の姿が変化していく。
額の左右から角が伸びてくると、口から牙がむき出しになる。
体と手足が巨大化し始め、体の色は赤く変化した。
鬼の色には、意味がある。
貪欲の赤鬼、憎悪の青鬼、執着の黄鬼、怠惰の緑鬼、疑心の黒鬼。
「鬼? 人間が赤鬼に変化したのか」と、隼人は龍の爪を出し身構えた。
「はぁー、もう人間じゃないから仕留めて良いか?」と、長老は大きな口を開ける。
茜の肩に乗る四郎は、「すごーい、赤鬼になった」
正人は走り出すと、赤鬼に変化した小田川の腹に拳を入れた。
赤鬼は片足を地面に付けたが、正人の腕を取ると地面に彼を叩きつけた。
龍の爪で攻撃しようと、隼人は小田川の前に立ちはだかった。
「全員、動くな」と、入り口から源一郎が歩いて来た。
「小坂君、人間は鬼になる事があるんだよ。彼は、殺人鬼だ。邪な思いや欲望のままに身を委ねるとね、理性を失い鬼と化す。覚えておきなさい」
「鬼になったら、もう、人間に戻れない・・・?」
隼人の疑問に源一郎は、「彼、次第だな。戻れなければ、鬼のまま捕縛するかこの世から消えてもらまでだ」
鬼と化した小田川は両手を組み腕を振り上げ、源一郎を頭上から叩き潰そうとする。
源一郎は、難なく片手で小田川の攻撃を受け止めた。
何か強い力が働いているのか、源一郎が手をかざすと、小田川は両膝を地面に付け跪いた。
源一郎は、
「
長く難解な
「ガッ、ガ、グガァー。俺は・・・誰だ、グッ、ガァー」と、小田川は床にうずくまると元の姿に戻った。
「す、凄い。これは、何が起こったのですか?」
「小坂君、驚いていないでそいつを縛り上げてくれ」
「は、はい。直ぐにやります」と、隼人は四郎が見つけて来た縄で小田川を縛った。
「正人、お前はまだ修行不足だな。父親の俺より動揺してどうするんだ」
源一郎の言葉に正人は頭を掻きながら、「すいません。気を付けます」
今回の事件で隼人は、人間の恐ろしさを知った。
悪魔に魅了されたり憑りつかれたりするのとは違い、自らの行いで鬼と化してしまう人間。
連続殺人犯の小田川の所業は、常識では理解出来ない領域だった。
物の怪や悪魔なんかより、人間の方が遥かに残虐なのかも知れない。
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