第52話 殺人鬼 ➄
茜は、目隠しをされガムテープで口を塞がれている。
口の中にハンカチの様なものを入れられているので、声が出せなかった。
手足は縄で縛られ身動きが出来ない。
小田川が茜の頬に触れると、彼女は体をビクッとさせた。
「怖がらなくて良い、ようこそ俺の秘密基地へ。これから楽しませてくれよ」
小田川は茜の縛った手を掴むと、天井に設置されている手動式クレーンのフックに縄を引っ掛ける。
ゆっくりと茜の足が、地面から離れた。
「いっ、いやあー。やめてよ、何するのよ。誰、誰がこんな事をするの?」と、茜は叫んだが、塞がれた口から漏れる声は濁音にしか聞こえない。
「騒いでも無駄だよ、ここには誰も来ないから」
壁際に使われなくなった機械が並ぶ工場は広くて薄暗い。
クレーンにぶら下げられる茜は、工場の真ん中に居る。
小田川は、木製の椅子を吊り下げられる茜の前に置いた。
工場の入り口付近には洗い場があり、傍にステンレス製のテーブルが見える。
テーブルの上には、ナイフ、包丁、のこぎり、千枚通しなどが置いてあった。
小田川は、茜を中心にグルグルと円を描くように歩き出すと、これからどう彼女を調理しようか考える。
彼女は、程よく肉が付き良い体をしている。
Tシャツとジーンズ姿の彼女に彼は、良いと呟いた。
縛る前にジャケットを脱がしておいて正解だったなと自分を褒める。
茜の正面で立ち止まると小田川は、平手で茜の頬を力一杯叩いた。
「ふっぐ・・・」、突然の衝撃と痛みに茜は混乱する。
「時間はたっぷりあるからな。恐怖と苦痛で歪む顔を見せてくれ」
小田川の執拗な暴力が始まった。
しつこく平手で顔を叩かれ徐々に茜の頬が赤く腫れてきた。
小田川は、拳を作ると不意に茜の腹を殴る。
彼女は、息が出来なくなり体をよじった。
茜がぐったりとすると、彼女の尻や太ももを小田川は短い足で蹴り上げてくる。
恐怖と痛みで頭がおかしくなりそうな茜は、心の中で正人の名をずっと呼び続ける。
きっと彼は助けに来る。
何時だってそう、自分が危機に瀕すれば必ず正人は私を見つけ助けてくれた。
今回もそうなると、茜は信じていた。
正人は、工場近くの空き地に車を停めた。
人間が相手なら警戒されると困るので、気付かれないよう慎重に行動する。
工場の入り口に着くと正人は、「長老と四郎は、中の様子を見てきて欲しい」
「分かったのじゃ。儂と四郎で中の様子を見て来よう」と、長老と四郎は建物の中へ入って行った。
「僕はどうしたら良いですか?」
「武器を持っているかも知れないから、いつも通り龍神化して待機だ」
了解と隼人は籠手を装着し龍神化する。
その姿に傍に居た源一郎は、興味が沸いたのか腕を組みながら眺めていた。
「師匠は、どうしますか?」
「俺は、お前達の後方支援で良いよ」
「では、お願いします。隼人、俺の合図で飛び込むからな」と、鬼神化した正人と一緒に隼人は、表面が錆びた鉄扉の前に立った。
建物の中に入った長老は、工場内で組まれた鉄筋の上から茜を暴行する小田川を見つけた。
周りには引き裂かれた服が散乱し、茜は下着姿でクレーンに吊るされている。
疲れたのか小田川が椅子に座り、ぐったりする茜を見つめた。
四郎は小田川から姿が見えない様に気を付けながら、茜の背中をよじ登った。
「茜ちゃん、みんなで助けに来たよ。もう大丈夫だから」
「うっぐ・・・ぐっ・・・ぐ」
四郎の声を聞いた茜は、安堵し泣いていた。
「もう、我慢ならん」、下着姿の茜の無数の痣と傷を見た長老が頭上から飛び降りて来た。
「なんだ、猫か」と、椅子に座る小田川が呟いた。
「猫では無いぞ、猫又じゃ。儂がお主を成敗してくれるわ」
長老は白い煙に包まれると、猫又の姿に化けた。
「駄目ですよ、長老。先に正人達を呼ばないと」、慌てて四郎は茜の手を縛る縄を噛み切った。
コンクリートの上に座り込む茜は、口のガムテープを剥がす。
小田川は、長老の姿に怖気づくこと無くゲラゲラと笑い出した。
「猫と鼬が喋っているぞ。いよいよ俺の頭も変になったか」
「そうじゃ、お主は狂っているのだ。儂が喰ってやるよ」
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