第10話 赤のエクソシスト ①

京都駅に出てから、勇樹にラインで送ってもらった店の住所をグーグルマップにペーストして貼り付けた。


京都駅の正面口を出ると、ライトアップされた京都タワーを撮影する観光客が多い。


指定されたお店は、此処から歩いて3、4分の所だな。


時間は、18時20分。


店の前には、既に勇樹たちの姿があり、女の子が3人居た。


やけに目立つ女の子がその中に1人居る。


赤いブラウスにシースルーのスカート、中は白の短パン。


持っているバッグは、赤のトートバッグ。


赤が目立つ彼女は、西洋人のような顔立ちをしている。


しかし、どうして彼女は両手を組んで、仁王立ちなんだ?


場の空気が読めない、残念な子なのか?


俺に気が付いた勇気が手を振る。


彼は、合流した俺に肩を組んで来た。


「可愛い子ばかりだろう、隼人も上手くやってくれよ」


「ああ、可愛いな。今日の会費は?」


「女の子は、2千5百円、俺たちは一人3千5百円だ」


店構えは、おしゃれなイタリア料理店。


そんな予算で大丈夫なのか?


後で、追加の請求をされると困るけど。


俺の表情を察してか、勇樹が囁いた。


「安心しろ、お店には飲み物込みで予算を伝えてあるから」


入り口のドアが開き、店員が顔を覗かせた。


「ご予約の林様ですね、6名様、テーブル席にご案内いたします」


適度な明るさの店内。


各テーブルには、シャンデリアが天井から吊るされている。


布で仕切られた個室の様な席に案内された。


「良い、雰囲気のお店ね。さすが、勇樹君!」


勇樹と並んで歩いていた女の子が嬉しそうに話した。


案内されたテーブルに、男女が向かい合うように座ると勇樹が仕切り始めた。


「じゃあ、みんな席に着いたね。今日は、集まってくれてありがとう。楽しい時間を一緒に過ごしましょう」


勇樹と向かい合って座る女の子が立ちあがる。


「最初に自己紹介をします。私は、雨宮朱鷺(あまみや とき)です。勇樹君とは同じバイト先で知り合いました。私の隣は、・・・」


彼女の隣に座る女の子が、軽く会釈した。


「新藤 歩美(しんどう あゆみ)です。雨宮さんとは同じ学部です」


そして俺と向かい合って座る、入り口で目立っていた女の子が照れくさそうに横を向きながら自己紹介した。


「私は、桜(さくら)、マクベイン桜です。よろしく」


勇樹も雨宮さんに続いて男性陣の紹介を始めた。


「じゃあ、改めまして。俺は、林勇樹です。そして、隣に座るのが、小川傑君。奥に座っているのが、小坂隼人君です」


笑顔がトレードマークのような小川君が、さも演説を始めるかのように立ち上がった。


「小川傑、北海道出身です。今日は、綺麗な女性に囲まれて幸せです」


小川君は、なに、正直に自分の気持ちをさらけ出しているんだよ。


女性陣がクスクス笑っているじゃないか。


頭を掻きながら小川君が座ったので、俺の番かなと立ち上がった。


「小坂隼人です。よろしく、俺たちは全員同じ学部の友人です。今日は、一緒に楽しみましょう」


無難な挨拶に留めた。


「じゃあ、自己紹介も終わったので飲み物を頼みましょう。お酒を飲む人、飲まない人がいると思うので何を飲むか自己申告してね」


「じゃあ、俺は、オレンジジュースで」


「私も、オレンジジュース」


桜さんも俺と同じオレンジジュースか、他のみんなは?


「じゃあ、俺たちは、せっかくだしワインを頼もうか」


えっ、勇樹、お酒飲んで大丈夫なのか?


「悪いな、隼人、俺4月生まれだから二十歳になったんだよ」


しまった!同じ学年だと油断していた。


じゃあ、俺と桜さん以外は、全員、二十歳か。


何故か彼らが俺より大人に見えて、悔しくなった。


「良いんじゃない?」、ドリンクメニューを見る桜が話しかけてきた。


「何?」、俺は油断していた。


「私たちは、お酒を飲まなくても料理を楽しめば」


「そうだな、イタリア料理を楽しむのも悪くないな」


桜さんは、意外と冷静だな。


乾杯をした後は、コース料理が順番に運ばれて来る。


出てくる料理の良し悪しで場の雰囲気は変わるが、女性陣は満足そうだ。


勇樹のおかげで、話も盛り上がり上々な出だしとなった。


「桜さんは、留学生ですか?」


小川君が、変な質問をぶっこんで来た。


「こんな流暢な日本語を話す留学生は、居ないでしょ!私は、日本人です」


「ごめん、ごめん。見た目が外人さんだったから」


悪気の無い小川君は、素直に彼女に謝る。


「良いですよ。私は、父がアメリカ人で母が日本人のハーフですから」


そうか、彼女の話しぶりから幼い頃から日本で育ったんだろうな。


機嫌を損ねた彼女を友人たちが、からかいだした。


「桜はね、本名で呼ばれるのがすごく嫌なの」


「朱鷺、止めてよ」


「それと・・・」


「歩美まで、止めてよね」


「桜、赤いでしょ」


「赤い?」、男三人の声が重なる。


「見た目が、服装とか持ち物とか。赤色が好きなんだけど、必ず、何かしら赤い物を身に着けるか持っているの」


桜さんが、止めて欲しそうに友人たちを見たが、彼女たちは声を揃えた。


「付いた通り名が、赤い豹・・・赤豹なの」


「勝手に名付けないで欲しいわ。単純に私の好きな色、ラッキーカラーが赤なのに」


理由はどうであれ、見た目であだ名を付ける行為は好きでは無い。


「似合っていたら、良いんじゃないですか?」


俺の言葉に桜さん以外、全員が乗っかってきた。


多分、飲みなれていないワインで酔いが回っていたのだろう。


「あれぇー、小坂君は、桜ちゃんを気に入ったのかな?」


「それは、奥手の桜には朗報ね♪」


「ちょっと、朱鷺、歩美まで冗談言わないでよ」


勇樹が、調子に乗って俺に絡んできた。


「隼人、良かったな。彼女いない歴イコール年齢だからな」


「そうなの、小坂君、彼女いないの。見た目は悪くないから良いじゃん、桜、この機会に付き合っちゃえ」


はあ、酔っ払いは節度が無くなる。


みんな、明日になれば、この会話を忘れているよな。


小川君は酔っぱらうと笑顔だけで、話さなくなったけど、笑い上戸か。


「桜さん、ごめん、気を悪くしたかな」


「別に、関係ないわよ。あんたとは、付き合わないから」


そこまで、否定しなくても。


一応、俺も男なんですけどね。


盛り上がりを見せるが、時間も遅くなってきたので店を出る。


勇樹は、雨宮さんと仲良く話している。


みんなから少し離れた所で新藤さんがうずくまっていた。


もしかしたら、気持ちが悪いのか?


「大丈夫ですか、気持ち悪いなら無理しないで」


俺と新藤さんの姿を見て、勘違いをしたのか、桜さんが駆け寄ってきた。


「ちょっと、何しているのよ。歩美、大丈夫?」


「新藤さんが、うずくまっていたから介抱しようと思って」


「ウソ!男はみんな、女が弱っていたら、そこにつけ込むの。お持ち帰りしようと考えていたでしょう!」


何でだ、その発想は何処から生まれて来たんだよ!


男は、みんなそんな考えで行動していないよ、純粋に心配しただけなんだけど。


この子は、気が強いのか?


思い込みが激しいのか?


「吐いた方が楽になるから、あっちへ」


俺が新藤さんの手を取ろうとした時だった。


バシッ・・・桜さんが、俺にビンタした。


「彼女に触らないで、私が介抱して連れて帰るから」


頬を手で押さえながら、「分かりました、俺は退散します。じゃあ、気を付けてね」


勇樹と雨宮さんが、心配そうに俺たちの所に近づいてきた。


「何かあったか?隼人」


「大丈夫だよ、新藤さんが気持ち悪いみたい」


「そうかそれなら、今、桜さんが介抱してくれているから任せよう」


「そうだな、そろそろ、解散しようか」


せっかくの楽しい時間も、後味の悪い終わり方をした。


女の子と連絡先の交換もしていないよ。


店の前でみんなと別れて、トボトボと京都駅を目指して歩いた。

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