第2話 有限会社DIUD ①

俺は、スマホから得た情報を手に考え、妄想した!


時給、通勤距離、自分の性格、そして、一緒に働く女の子。


俺との相性診断だ!


だが、俺が思い描くようなバイトに出会えない。


―――そうだ!


大家の源さんに相談してみよう。


複数のアパートやビルを持ち、居酒屋を経営する人だ。


それに大家さんの経営する居酒屋で、可愛い女学生も働いていたぞ。


俺の状況を理解した上で、良いアルバイトを紹介してもらえるかも知れない。


学生で時間制限のある俺でも、1か月の生活費が稼げる割の良い高額バイト、高額でなくても将来の彼女に巡り合いたい。


意気揚々にアパートを出たのに・・・・・


「すまんな、小坂君。今、私の所で君に紹介できるアルバイトは無いのだよ」


「そうですか、そうですよね。そんな都合よく、行きませんよね」


「おっと、忘れるとおろだった、これを渡すように正人君から頼まれていたんだ」


手渡されたメモには、有限会社DIUDと書かれていた。


住所は、京都市上京区下小川・・・


「これは?」


「君が、私の所を尋ねてきたら、これを渡すように言われていてね」


「なんだろう?仕事でも紹介してもらえるのでしょうか?」


「分からんが、行ってみる価値はあると、私は思うよ」


「そうですか、今から尋ねてみます。有り難うございました」


住所から考えると、俺のアパートから自転車で行けるな。


京都御所と二条城の間に位置するこの住所・・・何も問題は無いか。


深く考えても、答えは出ないし、とりあえず行って見よう。


愛車の自転車にまたがり、京都の町を颯爽と駆け抜ける。


京都で生活するなら自転車は、必需品だな。


住所の場所は、ここだよな?


ビルの看板には、『有限会社DIUD』と書かれているし。


しかし、ボロいビルだな。


4階建て、築何年だよ。今にも崩れるんじゃないか?


薄汚れた表面のコンクリートの色、黒ずんでる。


入り口は狭いし、あの急な階段は昇り難そうだし。


隼人が自転車を止めビルの入り口で入ろうか入らまいかと迷っている時、

4階の有限会社DIUDとステッカーが貼られたドアの向こうの会話・・・


「長老の言う通り、彼は来ますかね?」


「必ず、ここに来る。そのために源に言付ことづけを頼んだんじゃろ」


「そうですが、長老が見たその青年は、本当に使えますか?」


「お前は、見ていないからな。あいつは、使えるぞ」


「本当ですかね?」


「儂の勘が信じられないか!平八郎もそうじゃった、忠告してやったのにアイツは、儂の勘を無視して行動したから失敗したのじゃ!」


「何ですか?平八郎って?」


事務の山本 茜(やまもと あかね)27歳が長老に問いかけた。


「大塩平八郎だ!天保8年の話じゃ。知らんのか?」


「知りませんよ、生まれていませんし」


「龍馬もそうじゃった、暗殺の気配があるからと、わざわざ近江屋まで行って伝えたのに。逃げもせず、儂の言う事に耳を傾けなかった」


「分かりましたよ、長老の勘を信じます」


「正人、分かれば良いんじゃ。そろそろ、来るから。茜、お茶の準備を」


「分かりました、長老」


山本茜が、自分のデスクから立ち上がり給湯室に向かった。


ビルの入り口で、隼人は悩んだ末に急階段を昇り、有限会社DIDU事務所のドアを開けた。


「あのー、失礼します」


「儂の言った通り、来たぞ!」


うーん? ――――― 聞き覚えのある声がした。


「さあ、どうぞお入り下さい」


事務服なのか、今は、オフィスウェアとも呼ばれる服を着た女性が居る。


ボーとした表情の年上の女性。


グリーンのタータンチェックのオーバーブラウス、胸元に大きなリボン、グレーのスカート姿から、この事務所で働く女性だと理解した。


俺と同じ、普通の人の様だ。


俺が来ることを察していたのか、既にお茶が用意されている。


「入りなさい」


黒のスーツ姿の男性が声を掛けて来た。


この人、部屋の中なのにグラスが薄い茶色のサングラスをかけている。


俺は、言われるまま、案内されたソファに座った。


部屋は、15坪ぐらいの広さ、奥に給湯室とトイレがあるのかな。


机が5つあったが、パソコンや資料が並んでいる机は2つしか無い。


「あのー、僕が住んでいるアパートの大家さんに、ここの住所が書かれたメモを渡されたのですが」


「儂の読み通りだろ」


また、聞き覚えのある声がした。


何処だ、誰か年配の方が居るのか?


事務所の中を見ても、スーツ姿の男性と事務服を着た女性しかいない。


あれ、昨日、アパートの廊下で見た猫だ。背の低い棚の上に居る。


まさか、あの猫じゃないよな。


「単刀直入に聞くが、アルバイトをしないか?」


スーツの男性が、キョロキョロする俺に話してきた。


「そうです! 俺、いや、僕はアルバイトを探していたのです」


「それじゃ、丁度、都合が良かったのかな」


「仕事の条件と給料の金額にもよりますが・・・」


「条件は、良いと思うが。私は、ここの支部長をしている鬼塚正人だ」


鬼塚 正人(おにづか まさと) 28歳 男性 


ここの支部長? 


全国に支部がある会社なのか?


どんな仕事をしているのだろう、興味が沸いて来た。


「僕は、大学生なのですが、生活費を稼がないといけないので、バイト料は幾ら貰えるのでしょうか?」


「時給で3千円。日給なら2万5千円でどうだ」


「そんなに貰えるのですか?」


ヤバい、これは、きっとヤバい仕事に違いない。


この人の風貌、大家さんのような高齢者の知り合い、もしかして・・・


詐欺グループのリーダーじゃないだろうな!


怖い、怖い、俺に善良な老人を騙す度胸など無い。


電車では席を譲り、町中で困っていたら手伝ってあげる。


これが、俺だ。だから、こんな高額の訳ありバイトは出来ない。



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