有限会社DIUD 実は国際機関です

川村直樹

第1話 はじまり

俺は、小坂 隼人(おさか はやと)。


名古屋の実家を出て、大学に通う為、ここ京都に住み始めて早1年が過ぎた。


アパートの一人暮らし、大学生活にも慣れてきた。


多くは無いが、親しい友人も出来た。


―――全員、男友達だけど


宮田 千尋(みやた ちひろ)

大阪出身・見た目は体育会系だが、妹系大好きアニメオタク。


林 勇樹(はやし ゆうき)

三重出身・彼女を作る事に奔放する、俺から見れば勇者だ。


小川 傑(おがわ すぐる)

北海道出身・人目を気にしない大自然が産んだ野生児。


彼奴らが揃って実家に帰ってしまったから、授業が始まるまでの期間あいだを利用して俺も実家に帰ろうかと迷っていた所だった。


そんな矢先、母親からの電話で俺のスマホが鳴った。


「隼人、ごめんね。お父さんの次の仕事が見つかるまで、仕送りが出来なくなったの」


「親父、仕事クビになったのか?」


「そうなの、会社の業績悪化による人員削減だそうよ。こんな時に困るわよね」


「母さん、仕送り無しはキツイよ。何とかならないかな?」


「大学の授業料だけでも手いっぱいなのよ」


「でも、・・・・・」


「あなた、今年で20歳になるのでしょう。もう、大人なんだから、しっかりして。自分の生活費ぐらいは、稼いで、協力しなさい!葵だって来年、高校受験だからうちには余裕が無いの!」


ああ、母さんの口調が強くなった。


怒っているよな、息子の不甲斐ない言動に。


兄として、中学3年生になる妹の事も考えてやらないと。


「分かったよ。生活費は、バイトして何とかするわ」


「お願いします。休みの間、帰って来なくて良いから。しっかり稼いでね」


「帰らなくて、良いのかよ?」


「交通費、バカにならないでしょう。その分、そこでバイトしてくれた方が、こっちは助かるから」


母さんは、言いたいことを伝えたら電話を切った。


ワンルームの部屋 ――― ベッドに横たわり天井を見つめる。


困ったな、バイトするにも今から探さないと。


“しっかりしろよ、馬鹿野郎”


声が聞こえた、気のせいか?


俺の頭の中から聞こえたような気がしたが。


チクショウ! 


突然、不幸が俺にかってきたようで腹が立ってくる。


ごく普通の家庭、そこで育ったごく普通の大学生、そこにごく普通の不幸か?


休まず身を粉にして会社に貢献した親父は、あっけなく会社をクビになった。


現実とは、こんなものなのかな?


来年になれば、就職活動しなきゃいけないけど、会社勤めに夢は無いな。


いっその事、公務員試験を受けるか?


身を引き締めて勉強に精を出す・・・楽しい生活を犠牲にして・・・出来るか?


そんな事を考えていたら、廊下から大家さんの声が聞こえた。


壁も薄いけど、よく声が響くアパートだな。


「すいません、正人さん。他に頼れる知り合いが居なくて」


「気になさらないでください、源さん。毎晩、お世話になっているのですから」


毎晩、大家に世話になる?


そうか、大家さんの経営する近所の居酒屋の常連さんか。


このアパートの大家さん、泉源(いずみ げん)


複数のアパートと居酒屋を運営する70歳近い爺さんだ。


常連さんや近所の人は、源さんと親しみを込めて呼んでいる。


俺もたまに居酒屋で余った料理を貰うことがある。


親切な爺さんなのだが、何かあったのかな?


「正人さん、この部屋の子なのだが。家賃を滞納する子じゃないから変だと思って、部屋に行ったら別人みたいになっていて」


「そうですか、俺に出来る事だったら良いですが」


気になるので玄関のドアを少し開けて、覗き見た。


大家さんと黒のスーツを着る男性。


男性の肩に?――――― 猫が乗っている!


青いスカーフを巻いた、茶白の猫。


猫好きの俺にとって、可愛い存在だ。


うん?・・・あの猫、明らかに俺をジッと見ているぞ。


それにおかしいな、尻尾が2本?3本?・・・あるように見えるが。


俺、ゲームのやり過ぎで目を悪くしたのかな?


「源さんは、ここで待っていてください」


「お願いしますね」


猫を乗せたままスーツ姿の男性は、隣に住む同じ大学生の部屋に入っていった。


高木 誠二(たかぎ せいじ)


大学3回生(近畿地区では、○年生では無く○回生と呼ぶ)


見た目は、真面目な学生。そんな印象が強い。


廊下やエレベータで会ったら、挨拶するぐらいの関係でしかないけど。


頻繁に友人をアパートへ呼んだり、部屋で騒ぐタイプの人では無い。


家賃を滞納するような人には、思えなかった。


俺は、隣の部屋の状況を知りたくなる。


部屋に戻ると、キッチンでコップを手に取り壁に当て、聞き耳を立てた。


隣の会話が聞こえる。結構、このアパートの壁、薄いな。


「高木さん、部屋に上がらせてもらいますよ。私は、鬼塚と申します」


「ヒ、ヒ、ヒ、ヒ、ヒィー・・・」


人ならざる者の声!


何が、隣の部屋で起こっているのだ?


「長老、やはり取り憑かれていますね」


「そうじゃな!低レベルの悪霊のようだが」


「シャーロットを連れてきた方が、良かったですかね?」


「これぐらいの仕事、儂らだけで充分」


あれ、どうして? ・・・ スーツ姿の男性が一人で隣の部屋に入ったよね。


誰と会話しているの?


「私のやり方だと、この若者を傷つけてしまいますが」


「そうじゃの、お主の威圧で中の霊を体から出してくれ。それを儂が食らふ」


霊・・・?・・・今、霊って言った?・・・食らう?


部屋が揺れている! 窓ガラスが小刻みに揺れてカタカタと音を出している。


隣の部屋で、一体、何が起こっているんだ?


「今です、長老」


「うーん、不味い!」


「旨い訳、無いですよ」


「そうじゃな、こやつはこれで元にもどる。源を呼んでも良いんじゃないか」


「そうですね。呼びますので元の姿に戻ってください」


会話の意味が分からない、理解できない。


大家さんの声が聞こえて来た。


「正人さん、どうでしたか?」


「もう、安心です。この若者は、元に戻りました」


「やはり、ですか?」


ですね。が、原因でしたよ」


「もう、居ないと思っていましたが、まだここに居たのですね」


「でも、これでは、もう出てきませんよ」


? って何? だけで会話が成立しているよ。


霊とか、食らうとか、とか、何か気味が悪いよ。


ふと、我に戻る。


手にしていたコップをベッドの横にある机の上に置いた。


俺は、こんな事をしている場合じゃないんだよ!


早く、アルバイトを探さないと!

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