第58話 遊園地 ②

城の調査は最後にして、遊園地の外側を歩く二人は、アドベンチャーゾーンと書かれたゲートの前で足を止めた。


上を向いて桜はゲートを見た、「動物園の跡地についたわね」

「そうだね、ゲージは全て空の様だけど」


「生きている動物は、もちろんいないわよね。動物霊もいないと思うけど、調査してみましょう!」


場所的に、もし野生動物がいるとすれば、野良猫か野良犬。

それと忘れてはいけない、ここは奈良なので鹿がいる可能性がある。

 

懐中電灯の光が、空の檻やゲージを照らす。

 

ガサガサと、草むらから音がすると猫が飛び出した。


「猫がいるのね、もしかしたら捨てられたのかな」

 

触ろうと近づいた桜から距離をとるように、白黒模様の猫は逃げて行った。

 

残念だが、飼い猫や飼い犬を捨てる人は未だ多い。遊園地の跡地なら自由に生きられると、勝手な解釈をした元飼い主に捨てられたのだろう。


「こんな場所でも、生きて行けるのかな?」、隼人は考えるより先に言葉が出た。


「猫は、元々狩りが上手だから。生き延びていけると思うわよ」

 

隼人の方を向いて後ろ歩きをする桜の後ろに、大きな影が見えた。


「さ、桜、後ろ! 後ろだよ!」


「何言っているの? 何か出た・・・、あっ、あーあ」

 

桜の後ろには、体の至る所が白骨化したゾウが立っている。

 

 

ゾウの後ろから、顔が二つある目の赤い犬が二匹出て来ると、ゾウの横に並んで座った。犬は、口から牙を剥きだし舌を出す。


「ちょっと、正人! 何よコレ、ケルベロスらしき物が出て来たけど、何か隠しているでしょう」


「すまない、桜を呼んだのは、そいつらが居る可能性が高かったからだ。肝試しや悪魔召喚、霊の呼び出しと、良からぬ事をする為に園内に侵入する者が多くて困っていると聞いて。もしかしたら、間違って悪魔などの類が召喚されているかもと、思っていたのだが、勘が当たったな」と、イヤホンから正人の笑い声が聞こえた。


「もう! そういう事は、先に言ってよ。後から伝えないで欲しいわ」

 

地団太を踏む桜の前で、隼人は、噛みつこうとするケルベロスの口を両手で掴んでいた。


「桜、気を付けろ! もう一匹、そっちに行ったぞ」


「えっ、ダメダメ、物理攻撃は、隼人の役割じゃないの。私には、無理よ」と、飛び掛かって来るケルベロスから身を守ろうと、桜は顔を隠す様に両腕を上げた。


「ここは、僕に任せるです。今から、桜ちゃんの護衛します」

 

今までどこに隠れていたのか、桜の前に四郎が現れると、全身の毛を逆立てケルベロスを威嚇し始めた。

 

舌を出しながら、自分より小さな四郎を捕食しようとでも考えたのか、ケルベロスがゆっくりと視線を外さず近づいて来た。


「僕を食べても、美味しくないよ」と、四郎は全身をプルプルとねじって見せると、炎に包まれた。


「ウッ、ガッ、ガガガ―」、立ち止まったケルベルスは口から炎を出した。


四郎の炎とケルベロスの炎が、ぶつかり合う。

炎の威力は、お互い互角なのか、勝負がつかない。


「僕をただのてんと、思うなよ。うーん・・・えーい」

 

四郎は二本足で立ち上がると、両手を天にかざした。

カラカラと地面に落ちる小枝や葉っぱが、四郎に向かって転がって行く。

四郎を中心に風が集まり始めた。


ゴーと音が大きくなると、火炎龍とでも言うのか、四郎を中心に炎の竜巻が発生する。火力に勝った四郎は、ケルベロスにダメージを与えた。


「な、何だ。四郎、凄いじゃないか」と、隼人はケルベロスの口の中に右手を突っ込み、雷撃を放っていた。


「守ってくれて有り難う、シー君。準備は出来たから、もう大丈夫よ」

 

桜は、天に向けて上げた右のてのひらを握りしめると、振り下ろし目の前のケルベロスに向けた。


「我が御名と守護天使の命により、扉を開き鉄槌の裁きを」

 

夜空に現れた金色に輝く扉が、ゆっくりと開く。

完全に扉が開くと、槍を持つ能天使が二人現れ、手に持つ槍を放った。


「グッ、ギャアアアア・・・」

 

それぞれの槍は、ケルベロスの顔を貫いた。

 

槍が消えると、ケルベロスは黒いチリとなり崩れ落ちた。


「いい加減に、くたばりやがれ!」と、隼人は電撃を食らい、ふらつくケルベロスの首を龍の爪で切り落とした。首を無くしたケルベロスは倒れると、チリとなって消えてしまった。


 

隼人と桜は、ケルベロスを倒した達成感に浸っていた。


「油断しちゃ、ダメ。まだ終わっていないよ」

 

隼人と桜が振り返ると、ゾウの幽霊がじっとしていた。


「そうだわ、ゾウが残っていた」


「動かないけど、どうやって倒す?」

 

桜は片膝を地面に付けると、両手を地面に当てて祈り始めた。


「彷徨える魂にやすらぎを、ピュリフィケーション」

 

ゾウの足元から光が上に伸び、ゾウの幽霊を包み込んだ。

ふわっと、穏やかな空気が流れると、きらきらと光の欠片が天に昇って行った。


「大人しい性格の動物霊で、良かった」


「そうなのか? 動物によって違うのか?」


「そうね、肉食獣の霊だったら、ケルベロスと一緒に襲って来たかも」

 

顎に手を当て難しそうに考える隼人の肩に四郎が乗ってきた。


「あまり難しく考えない方が良いよ」


「そうするよ。この仕事は、常識では図れないからな。それより、四郎は風の力を使っていたよな」


「エッヘン、僕は風も使えるのだ」


「凄いね、シー君。普通の妖怪鼬とは、違うのかな」


「そうなのだ! 僕は、妖怪鼬とかまいたちの両親を持つのだ」


「だから、両方の能力を使えるのか?」


「うん、だから僕は、体の色が兄弟達と違うって聞いたよ」

 

小さくて可愛い姿に相反して四郎の秘める能力は、どうやら強力なようだ。どうりで長老は、四郎を相手にしたがらない訳だ。

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