第39話 怒りの炎 ②

DD事務所で資料を読みながら隼人は、真剣な顔でパソコン画面を睨みつける正人に話しかけた。


「正人さん、あの・・・」


「なんだ? 黒薔薇十字軍の件は許可しないぞ」

 

黒薔薇十字軍の集会後、隼人はミハエルとマモンを取り逃がした事をずっと気にしていた。


もちろん宮田の事も気になるが、隼人には後味の悪い結果になってしまった事が残念でならない。


正人からは、警察が殺人事件として捜査しているので、彼らに任せれば良いと言われていたのに。


「分かっていますが、何かしないと落ち着かなくて」


「警察が手掛かりを見つけるまで、大人しく待っていろ。気になるのは分かるけど、俺達の役割を考えるんだ。それに、奴らも馬鹿じゃない。暫くは、目立たないように地下に潜るさ」


「確かに表立った行動は、しないと思いますが・・・」

 

正人の言う通りだ、今更彼らの事を調べても何も出てきやしない。

 

それでも隼人は自分のおかした失敗が、気になってしょうがなかった。

 

不満そうに資料を見る隼人の考えは、正人からすれば全てお見通しだった。


彼は、隼人が暴走しないようストッパー役に徹する。


「警察が奴らの尻尾を捕まえたら、俺達の出番だよ。それより、放火事件の犯人の絞り込みを早くしよう。」

 

正人と隼人は、三重県内で起こっている連続放火事件の犯人の目星を付ける為に、資料を引っ張りだして調べていた。

 

放火なのに特定した火元には、使用した道具や材料などの痕跡が見つからない。


警察と消防は、出火原因不明の不自然な事件にお手上げ状態になる。


その上、最近では火柱を見たと、住民からの目撃情報が多数入ってきた。

 

何かの祟りでは無いかと、人々は噂し始める。


そんな声を聞きつけた地元政治家が、こちらに仕事を依頼してきた。


支持者へのアピールが、目的だったのだろう。

 

隼人がチェックする資料は、火に関係する妖怪をまとめたリストだ。


その中から地域や現象を今回の放火事件に当てはめて、該当する物の怪を探していた。


「正人さん、怪火かいかとしては、鬼火、ヒザマ、輪入道、姥ヶ火うばがび、じゃんじゃん火などが該当すると思いませんか」


「そうだな・・・、ヒザマは鹿児島に伝わる伝説の生き物だから除外だな。それと輪入道も炎を纏っているだけで、火柱にはならないと思う」


「それなら、鬼火か姥ヶ火が怪しいですね」


「うーん、何か、違うような気がする」と、正人は思案に暮れてしまう。


「お前ら、深く考えすぎじゃ。もっと単純に考えて見ろ。たとえば、事件が起こっているのは三重県だ。そこを拠点にする妖怪は、どれじゃ?」


「そうですね、海の妖怪を除けば髪切りに悪路神あくろじんの火、肉吸いや大猫などがいますね。一部地域ではてんが居たはずです」


「それ見ろ、正人の答えの中に犯人に当てはまる奴がいるじゃないか」


「どれですか? 長老」


「鼬じゃ。奴らは格子状に絡み合って火を放つ、その姿は火柱に見えると言い伝えられておろう」


「それですよ、長老。隼人、現場に入って鼬を探そう!」

 

プリントアウトされた資料を手に取った隼人は、漢字で書かれた妖の名前を見てイタチではと思う。


イタチなのにテンと読むのか。

 

しかし、資料の絵からあまり危険な感じを受けない。

 

本当にこの妖怪が犯人なのだろうかと、彼は首をひねった。


不審火による火災が多発している現場へ到着すると、正人達は車で市街地を巡回する。


深夜にすれ違う車はほとんど無く、町は静まり返っていた。


「火災の多くは、深夜から明け方にかけて発生しているのですよね?」


「そうみたいだな、何か引っかかる事でもあるのか?」


「はい。幸か不幸かこんな時間に発生しているのに、火事による死者が居ないので」


「偶然だろうな。鼬が人を傷つけないように火災を起こしているとは思えない」


「分からんぞ、鼬とは言え妖怪だ。奴らには、何か考えが有るのかも知れない」

 

鼬が犯人だとして、火災を起こす切っ掛けになった事が何かあるはずだと、隼人は正人より長老の推測に賛同したくなった。


「あと、家だけでなく車への放火の報告も多いですね」


「俺も資料を読んで気になったが、黒い乗用車だろ」


「何か狙いがあるのではないでしょうか?」


「車にか? 黒い車に恨みがあるとか? それは考え過ぎじゃないか、隼人」


「可能性は、あるかも知れませんよ。長老が話す通り、人間に警告を与える目的があると思うので」

 

助手席から注意しながら隼人は外を見るが、通りは暗く静かだ。


正人は、気になる家や店舗を見つけると、車を道路脇に駐めて車内から観察するが、彼らの探す妖怪の姿は無かった。

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