第12話 牛鬼 ①
「桜、まだか、まだ時間が掛かるのか?」
「祈りに集中できないでしょ! 黙って私のサポートをして」
桜は、ロザリオの
俺は、老人に憑依した悪魔が桜に近づかないよう格闘していた。
抑え込もうとして飛び掛かったのに、俺は馬乗りになった老人にマウントを取られてしまった。
老人なのに尋常じゃない力・・・こいつ、強い。
必死になって上半身を起こし、老人の顔めがけて頭突きした。
「ぐわぁ、貴しゃま・・・人間、大人しく殺しゃれろ」
「悪魔に殺されるのは、御免だ!」
両手で顔を抑え体勢を崩した老人に、今度は俺が馬乗りになる。
腕を掴み動きを止めようとするが、暴れる老人は俺の首に噛みついた。
しまった!・・・が、痛くない、歯が無いじゃないか。
入れ歯を忘れたのか?
「離れて、隼人!」
桜の掛け声で俺は、老人から離れた。
外では、一人暮らしの老人の家、一戸建ての家が上空から降り注ぐ光に包まれる。
6畳の居間で悶え苦しむ老人から悪魔が出てきた。
背中に翼を持つ黒い影は、頭がフクロウ、体は人間。
悪魔だけあって、異様な姿。
空を取り巻く天使から放たれた光の矢が、天井を突き抜けフクロウの額に当たった。
悪魔は、耳の鼓膜が破れそうな悲鳴を上げ、倒れ込んだ。
うずくまる黒い影となり、吹き消されるように消え去った。
倒れる爺さんに桜が呼びかけた。
「お爺さん、大丈夫ですか?」
「ああ、お嬢しゃんは誰かな?」
「悪魔から解放されているわ、もう、大丈夫よ」
仕事が重なり正人さんと長老は餓鬼退治に行ったので、俺と桜の二人で一人暮らしの老人に憑依した悪魔祓いを引き受け、大阪府高槻市に来ていた。
「終わったのなら、引き揚げよう」と、俺は桜の方に手を置いた。
「帰るけど、気安く触らないで」と、桜に手を払われた。
この子とのコミュニケーションは難しい。
円滑に仕事をするために気を使っているのに、分かっていないのか?
自意識過剰では無いと思うので、単純に彼女は俺の事が気に入らないのかも。
良いけど、仕事中はお前も俺に気を遣えよと言いたくなった。
帰りの電車の中では会話どころか、彼女は俺から離れて座るし、どうしたら良いのかお手上げ状態だった。
事務所に戻ると、正人さんと長老は、仕事を終え帰っていた。
「上手く悪魔祓いは出来たか? 二人とも不機嫌そうだな」
「どうして、私のサポートは正人じゃないのよ」
「そんな事を言うなよ、隼人君だって一生懸命に仕事をしているのだから」
「彼は、まだ、頼りないの!」と、膨れっ面の桜。
「生意気だぞ小娘!儂から見れば、お前も未熟だがな」、長老が口を挟む。
「何よ、長老。じゃあ、正人とじゃなくて私と一緒に来てくれたら良いのに」
「それは、遠慮する。正人の肩に乗って行く方が楽じゃから」
「もう、良い! 仕事、終わったから私は帰ります」
正人さんは、やれやれと言った表情を見せた。
「桜に悪気は無いから、気にしないでくれ」と、正人さんは俺の背中を軽く叩いた。
「気にはしませんが、気を使いますよ」
茜さんがパソコンの画面を見ながら、「女の子には、優しくね」
ごもっともです、茜さん。
ここで、腹を立てて愚痴を言っていたら、心の小さい男だと証明するようなものだ。
帰り支度をしようとすると、正人さんがソファに座るよう俺を促した。
「話でもあるのですか?」
「ちょっと、頼みたい事があって」
「急用ですか、明日から週末ですけど」
「すまないな。急ぎの仕事が、あって。今からなのだけど」
やっぱり、俺の考え通りだな。
仕事が多ければ、収入は良くなるから助かるけど。
しかし、週末の仕事になると、ちょっと気が引けるな。
「どんな仕事ですか?」
「
正人さんの話では、ショッピングセンター内で働く人やお客さんが行方不明になる事件が発生したとの事だった。
初めて聞くし、ニュースになっていないから、表沙汰に出来ない案件だよな。
ショッピングセンターを封鎖して警察が調査すると、仮囲いをしていた空き店舗に潜む牛鬼と行方不明になっていた人達の遺体を発見した。
愛媛県警が総力を挙げて牛鬼退治を試みたが、被害を拡大するだけで何の成果もあげられず、こちらに依頼が来た。
牛鬼は、人を食い殺す
頭は牛、体は巨大なクモの姿をしている。
主に海岸に姿を現すらしいが、人が集まるショッピングセンターを
「愛媛県まで車で行くのですか?」
「そうだよ、早く終わらせたい。今から出発したいのだけど?」
「そんな、獰猛な鬼を放っておく訳には、行かないでしょ」
「君は、仕事をよく理解しているな。嬉しいよ」
「儂も行くぞ!獰猛な奴じゃ、二人だけでは心もとないだろ」
車を飛ばす、京都南インターチェンジから名神高速道路に入り、大阪を通り抜け、明石海峡大橋を渡る。
途中、兵庫県の淡路サービスエリアで休憩した。
「正人さん、高速だし運転変わりましょうか?」
「それは、助かるが、くれぐれも安全運転で頼むな」
「無茶は、しませんよ」
淡路島を通過した後は、休むことなく一気に高松道を通り抜けた。
新居浜インターチェンジを降り、ようやく目的のショッピングセンターに着いた。
瀬戸内海に面する愛媛県の東側、
有数の工業都市で大企業傘下の会社も多く、県内では11万人と人口の多い地域だ。
国内のタオル産業で有名な今治市から車で1時間、電車なら30分の距離。
京都からは、車で約5時間かかった。
時計を見ると、午前3時を過ぎた所だった。
「直ぐに始めますか?」
「ああ、人目に付かないほうが良いからな」
複数のパトカーが誰も入れないよう、ショッピングセンターを取り囲む。
搬入口で車を止めると、複数の警察官がライオットシールドを構え入り口を警戒していた。
「DIUDです、署長はおられますか?」
規制線の前に立つ警察官が無線で呼び出しをする。
「DIUDの方が来られました」
直ぐに署長らしき人が、正人さんに声を掛けた。
「署長の安田です。ご面倒をお掛けして申し訳ない」
「ええ、中の様子は?」
「中に入ったものの話では、寝床にしている空き店舗の周辺に潜んでいるようで」
「生存者は?」
「残念ながら、居ないかと思います」
「そうですか」
正人さんは、腕を組みながら考えている。
「隼人君、金砕棒を持って行くから」
俺は金砕棒の入ったスーツケースを車から降ろし、長老を肩に乗せる正人さんと一緒に戦場へ向かった。
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