エピローグ
第46話 勘違いによる修羅場
――翌日。
影と赤城は翌日の朝を、赤城の家で迎えていた。
太陽の陽がカーテンの隙間から差し込み赤城が瞼を擦りながら目を覚ます。
隣を見ればまだ気持ちよさそうに寝ている影。
影ならば身の危険もないと判断した赤城は添い寝をしていたのだが、気持ちよさそうに寝ている影を見て朝からため息を吐いてしまう。
――ため息と言っても影にではない。
昨日の夜、執務室と寝室であんなお話しになったために内心何処か期待していたのだ。影の気を引くためにわざわざ薄着の物を選びベッドに入って寝ていた赤城に欲情してくれるかなと。なのに影は何もしてこなかったのだ。
女の子だって当然性欲はある。好きな人になら……と思ってしまう事も当然あるわけなのだが影は手を出してこなかった。その事に落ち込んでいる自分に対してため息を吐いていたのだ。
「なんで手をだしてこないのよ……ばかぁ」
寝ている影の頬っぺたを指先でツンツンして呟く。
すると、笑みを溢しながらニヤニヤする影。
どうやらいい夢を見ているようだ。
そんな影を見て、可愛いなと思っていると。
「ひりゅ……うぅ………で…たべて……いい……? ありゃひゃとう」
自分には興味を示さないくせに胸が大きい飛龍に対しては夢の中とは言え、積極的な影を見て赤城朝からイラっとし一気に機嫌が悪くなる。
――この時影は、夢を見ていた。
夢の内容は赤城が用意したお昼ご飯を食べないかと聞かれ、『お昼ここで食べていいの? ありがとう』と言っていたのだが、時に勘違いは嫉妬を生み、我が身に振る掛かる事になるとは夢の中でステーキを頬張る影が知るよしはなく……。
――バチ―ン!!!
と、平手が飛んできた音だけが部屋に響き、影は強制的に現実世界へと呼び戻された。
ジンジンする頬を擦っているとある事に気付く。それは、それは、まるでゴミを見るような冷たい視線で影を見つめる赤城がとても怖かったのだ。頬が痛くて目から涙が零れてくるが、今は朝からとても機嫌が悪い赤城から目を離す事が出来なかった。
「……赤城?」
「おはよう! そんなに私を見つめて何か文句でも?」
今までに聞いたことがないぐらいに乱暴な言葉と低い声に身体が身の危険を感じ取る。
赤城が本気で怒ってる……とは思わずにはいられなかった。
きっと寝言で余計な事を言ったのだろうと、頭が高速で解を導き出す。
だが何て言ったかがわからない。
いや……もしかしたら赤城の今の体勢からやらかしたのかとも考える。
赤城はベッドから上半身を起こし、シーツで胸元を隠している。
つまり、寝ている間に赤城の胸に触わったか揉んだのかもしれないと。
――ゴクリ
そう考えると、赤城が朝から最高潮に機嫌が悪い理由に納得がいく。
――やらかした、まさかそこまで俺の身体が飢えていたとは……
だが今はそんな事よりも。
これは上官だからとか言う以前に人としてしちゃいけない事だと影の頭が判断し寝起きにも関わらず高速でどうこの修羅場を乗り切るかだけを考える。
「……ありません」
「ハッキリ答えて。嘘ついたら許さないから」
「……はい」
全身が恐怖で支配される。
どうか社会的制裁だけは許して欲しいところではあるが……。
現状赤城の身体に我慢できずそう言った行為をした以上全ては赤城次第と言うわけで。
影を生かすも殺すも赤城次第……。
「どんな夢を見ていたの?」
それはつまり赤城の柔らかくもしっかりと弾力がある胸を触ってしまうぐらいに気持ちいい夢を見ていたという事だろうか。
だが影はその記憶がない。
レム睡眠とノンレム睡眠が繰り返し起きていたと考えればその時に別の夢を見ていた可能性がないわけではないが、どうも思い出せない。
脳細胞を壊す勢いで全神経を集中させるがそれでも思い出せない。
一体自分はどんな夢を見ていたのだろうか……。
いや……夢の中で赤城がステーキを執務室に持ってきてくれた事は覚えているのだが、不祥事に繋がる夢の内容だけが思い出せないでいた。
それもそのはず、そんな夢は見ていないのだから。
だが、このまま黙ったままでは赤城の機嫌が更に悪くなる。
そうなれば理由すら聞いてくれなくなるかもしれない。
いや金輪際口すら聞いてもらえないかもしれない。
だが、答えが出ない、どうする、どうする、どうすればいい……。
「かげ?」
「はい」
「答える気ないの? あるなら早く答えて」
ゴクリ。
嘘は良くない。
こうなったら、ありのままを話そう。
「……はい。夢の中で赤城が執務室にステーキを持ってきてくれて……」
赤城の顔色を伺いながら慎重に言葉を紡いでいく。
「お昼がまだだったので、執務室で食べていいのかを確認して赤城に良いと言われたので、『お昼ここで食べていいの? ありがとう』と言ってそのまま口いっぱいにステーキを頬張っていたら……起こされました……そのホント、下心とかはありませんでした」
赤城の表情に変化はなかったが。
頭の中では。
「飛龍を食べていいの? ありがとう」と性的な関係を前提とした言葉ではなく、
「お昼ここで食べていいの? ありがとう」と言っていたのだとようやく納得のいく答えをもらったと赤城は一人納得を始めていた。
そして安心した赤城は心の中で
「良かった。それにしても夢の中でも私と一緒なんだ」と喜んでから、いつもの笑顔で言う。
「わかりました。では勘違いしたお詫びに今日のお昼はステーキにしましょうか。ほら着替えてください。鎮守府に行きますよ。朝ごはんは私がお金を出しますので途中のパン屋さんで買っていきましょう」
まるで何事もなかったかのように平然とする赤城。
これは何か裏があると考える影。
「うん」
少しばかり、不器用な笑みで答える。
いつもならダラダラと朝の身支度をする所ではあったが、素早く着替え、洗顔、身だしなみを整える。
あんなに本気で怒っていた赤城が何もなしに許してくれない事を影は知っている。
現実はそんなに甘くないのだ。
そして。
「影提督? 今日は少し内政面でお力をと思うのですが、お力を貸して頂けませんか?」
「はい。喜んで」
(ダメだ……断りたいけど断れない)
「あらあら。急にどうしたんですか? 今日の影提督少し変ですよ」
(何か新鮮で可愛いから、これはこれでありかも)
「……そうかな」
(こうなったらちょっとズルいけど……未来技術の導入で何とかするか……)
「ちなみに内政については後で現状を詳しくお話ししますが、何とかなりそうなんですか?」
(可愛いからって抱きしめたら、流石に優しい影提督でも怒るか……今はやめておこう)
「……はい。必ずなんとかします」
(スマホ頼むぞ。その手の参考書確か入って……あれ? 何か急に不安になってきた……大丈夫だよな……)
これではもはや、どちらが上官なのかがわからない。
だが二人共真面目な会話をしながらも、考えている事は全然違った。
そのまま何処か朝一とは変わり、若干上機嫌に見えなくもない赤城と一緒に影は鎮守府へと向かった。
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