第34話 私達の想いを無駄にしないで



 ――影の第三次攻撃隊の増援により、対応が後手に回る精霊戦艦。


 ――ドカーンッ!!


 と、砲台が壊されていく。


「よし! 急降下爆撃機全機爆速! 敵戦艦に風穴を開けろ!」


 影の指示で上空で待機していた爆撃機から敵艦直上から急降下し、その身体を貫かんとして空襲を仕掛ける。

「ウァあぁぁううううァァァ」


 精霊戦艦の叫び声が影の耳に聞こえてくる。

 それと一緒に爆撃による爆風と火花が影を襲う。

 そして巻き起こった爆炎が視界を遮る。


 空が赤い炎で照らされ、暗い夜の海も赤い炎で照らされ、これで勝った――そう見えた。


 ――だが違った。


 影が勝ったと思い安堵のため息を吐いた瞬間、燃え盛る火の中に動く何かが見えた。

 こちらは最後の切り札を使い何とかここまで追い詰める事が出来た。

 だが、それでも僅かばかり足りなかったと言うのか。

 このままではどの道『敗北』の二文字しかないだろう。


(――どうする。どうする、どうすればこの状況を打破できる――ッ!)

 火の海が消えないうちにありとあらゆる手段を考える。

 一航戦の第二次攻撃隊と二航戦の第三次攻撃隊は今の攻撃でガス欠寸前。

 まともに戦えるのは影の第三次攻撃隊のみ。

 影は全霊でどうにかこの状況を打開する方法を探していた。

 いや―—正確にはあるにはある。

(だが――この方法はあまりにも残酷だ)

 ――それは影の良心が酷く痛み、とても命令できる内容ではなかった。

 そこに命があると思えば尚。

 ゲームの中みたく無機質な世界だったら出来た。

 だけど、今はそうじゃない。

 皆に命があるんだ。もし影だけが命を懸けるなら出来る。

 それが結果だけで見れば一番の最善の手だと分かっていながら思考を巡らす影。

(他に手段はないのか……。あの子達の未来があるのであれば……何でもできると思っていたが……クソッ)


 その時影の攻撃隊から入電が入る。


『提督、ご命令を』


 影が頭の中で戦闘機に指示を出せると言う事は。

 逆を考えれば頭の中で考えた事は向こうにも常に聞こえているわけで。


『待って。今別の作戦を考えてるから』


 影は決断を躊躇い、別の手段を模索する。


『母艦赤城、加賀第一次攻撃隊、母艦蒼龍、飛龍第三次攻撃隊はもう殆ど燃料がありません』


 今さら分かり切っている事を報告してくる提督機の子達。


『知ってるよ』


『失礼ですが、後方に皆さんがまだ残っているのにお気づきですか?』


 その言葉に影がもしやと思い後方に視線を向けると、先程帰還させたはずの赤城達がいた。皆心配そうな目で影を見ていた。


『なら丁度いい。全軍赤城達の所にいくように伝えてくれ。悪いが提督機第三次攻撃隊は最後の仕事だ。俺と最後まで戦ってくれ』


『…………』


『…………ん?』


『…………』


『どうしたの?』


『どうやら全員覚悟が決まったようです。提督が生きててさえくれればフェルト島に未来が残るそんな気がしました。今度は私達ではない、新しい子達と新しい世代を作ってください。提督ならば提督らしく、私達を失望させないでください! ご命令を』


 火の海が静まり中から精霊戦艦が姿を見せる。

 どうやらかなりダメージを受けているようだがまだ戦闘不能になってはいない。

 存分タフらしい。

 ――そうだ――彼女達も又護るべき者の為に――戦場に出て戦っているんだ。

 ここで中途半端な命令は彼女達のプライドを傷つける事になる。

 そしてそれは最後の勝機を逃す事になる。

 再び、影は自分に言い聞かせた。


 ――忘れるな。

 お前の判断に数多くの者の命がかかっていることを。


 ――忘れるな。

 お前は一般人ではない。


 ――忘れるな。

 セシル提督との約束を!


 セシル提督が後の事を任せたのは誰だったのか。

 そして何故、その者を後任に選んだのか。

 それが、間違いではなかったと証明するのは。

 ――誰の役目であるか!?


 そして、息を吸い、ゆっくりと吐き出し、目の前の敵だけを見る。


 赤城達の期待に提督として答える為に。

「やるぞ! 全機敵戦艦を沈める事だけを考えろ!」

 ――もう迷いはしない。

 敵の砲塔が再び戦闘機に向けられる。

 がその数は先程の爆撃で半分以下。

 だったら後は力任せに倒すだけだ。


『すまない。悪いが頼むぞ』

 影の申し訳ない言葉に。


『了解!』

 と力強い言葉が返って来る。

 まるで、気にするなと言わんばかりの力強い言葉だった。

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