第14話 一航戦、二航戦と出撃


「それ俺抜きで戦って何とかならないの?」


「……本土を護る事を考えなければ可能です」


 いまいちまだ提督スキルについてピンと来てない影ではあったが、赤城の様子から察するに影が考えている以上に局面を大きく変える力を持っている気がしてきた。

 ここで視点を少し切り替えてみる事にする。

 あくまで赤城を刺激しないように、慎重に言葉を選んで。


「さっき赤城は俺のスキルも強力だと言ったけど、具体的にはどういった感じで強力だと思ったの?」


「簡単に言うならば、スキル効果範囲内に艦隊少女がいればいる程、提督が強くなります」


「なるほど。ちなみに加賀と後は二航戦はフェルト島にいるの?」


「はい。ただし飛龍は前回の戦闘で大破し、武装の修理と本人がまだ戦えるまで回復しておりません」


「駆逐艦は?」


「今すぐとなれば菊月と夕月の第二十三駆逐隊でしたら動かせます。戦艦の金剛艦隊もフェルト島周辺の警戒任務を外し帰還させれれば動かせますが。後は今すぐにとなるとかなり戦力的に厳しいです」


 この世界にも戦艦中心の大艦巨砲主義世界の常識が当てはまるのであればもしかしたら有効かもしれないと影が考える。どちらにしても影の中での航空戦力はとても貴重だった。歴史について詳しくない影ではあるが、そこは何となくそう感じていた。


「――へぇ。動かせるんだね」

 まぁこのまま黙って死んでいくわけにもいかないので作戦を考える。

 素人提督による、超単純な作戦を。


 ――それでも単純だからこそ、強いと言う事は歴史的に見てもよくある話し。


「とりあえず、ありがとう。今すぐ艦隊を動かす必要はないから今の話しは気にしないで」

 そう今の影の実力では何をするにしても不十分だった。

 だからまずは急がず準備をすることにする。

 そして当面の最終目標は『フェルト資源庫の奪還』に決定した。


 その時、建物全体に鐘の音が響き渡る。

 影はこれを知っている。

 前回影が出撃した時の音だ。今回は何事かと思い耳を澄ませて状況を確認する。


『非戦闘員の皆さんは避難を開始してください。繰り返します。非戦闘員の皆さんは避難を開始してください。これは訓練ではありません。ただいま北北東方面から敵攻撃機がフェルト島に向かって侵攻して来ています』


 すると赤城が立ち上がり、影を力強い視線で見てくる。

 影はコクりと頷き、二人は司令室へと向かう。

 どうやら前回と同じく敵はこちらの準備が終わるまで待ってくれる程優しくないらしい。


 二人が司令室に行くと、通信兵の少女達の視線が向けられる。

「状況は?」


「あっ、赤城さん。敵機、数は34です」


「誰が交戦してるの?」


「今北北東方面で精霊艦隊と第五航空戦隊並びに第11駆逐艦隊が交戦中です」


「戦況は?」


「均衡状態です」


 赤城が頷いて影の隣に来る。


「提督どうしますか?」


 影が考える。

 今まで見た事すらない機器を見ても何となくでしか分かるはずもなく。

 赤城と通信兵の会話から状況を想像する。

 そして書斎から聞いた赤城の言葉を思い出しながら、指示を出していく。


「加賀と蒼龍をハッチに呼べる?」


「可能です」


「俺と赤城も迎撃に向かうから急いで準備をお願い。それと近くを巡回中の……あれは金剛かな?……金剛を念のため第五航空艦隊の所に向かわせて」


「了解しました」


「提督宜しいのですか? まだ実践は不慣れのはずですが」


「赤城ありがとう。まぁこれもちゃんとした理由があっての判断だから」


「わかりました。では一緒にハッチに行きましょう」


 そのまま出撃ハッチに着くと加賀と蒼龍と思われる艦隊少女二人がいた。

 二人共、影と赤城が来るのを待っていたみたいだ。

「赤城さん?」


「挨拶と説明は後。それより急いで」


 そして四人は気持ち長い滑り台をつかい所定の位置に着く。

 両サイドを見れば、赤城、加賀、蒼龍の三人はとても落ち着いていた。

 影も三人の艦隊少女のようにしっかりしなければと自分に言い聞かせる。


 すると、ガガガッと言う油が切れたような音を鳴らしながら目の前にある巨大な扉がゆっくりと開く。そのまま目の前に見える青一色の世界。


 影が一度深呼吸をして気持ちを整理していると、アナウンスが流れてくる。


「装備の確認終了。問題なし。進路オールグリーン。提督影、航空母艦赤城、加賀、蒼龍出撃してください!」


「了解! 影出撃します」

「了解! 赤城出撃するわ!」

「了解! 加賀出撃するわ!」

「了解! 蒼龍出撃します!」


 そのままアイススケートのように四人が滑るようにして出撃する。二回目と言う事もあり影は前回の経験を活かして海上を移動していく。ここで大事なのは僅かな重心移動である。まだ慣れていないのでバランスを取る事に集中しながらも手を前方に伸ばす。

 そして四人がそれぞれ通った道筋をなぞるようにして弓と飛行甲板がハッチから飛ばされ空中で装備される。


「やっぱ、これすげぇ~。一体どうなってるんだが」


 正直、まだ戸惑いはある。

 だけど、これからの事を考えるならこれくらいでビビッてちゃいけない。

 自分一人ではどうにもならなくてもここには赤城や加賀、蒼龍そしてまだ会った事のない沢山の艦隊少女がいる。

 そして護るべき人達もいるのだ。


 とは言っても、まだ素人には変わりがない。だからこそこの窮地にも仲間の力を借りて対処する事に決めた。出来る事ならある程度は自分一人でやりたいところではあるがそれはまだ出来ない。むしろ出来たらそうしてる。いつかは艦隊少女達から認められる提督になりたいと影は心の中で誓う。


 かくして――影と赤城達の敵機迎撃作戦は開始される。

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