第13話 赤城さん……それ初耳なんですけど……


 そのまま影は腕を組んだまま、黙り込む。

 その静寂を赤城はジッと見る。


「それで私は具体的にはどうすればいいですか?」

 黙り込んだ影を見て、赤城が質問をする。

 影は「う~ん」と言いながら今後の事を考える。


「そうだね。とりあえず、知識が欲しいから色々聞いてもいいかな?」

「はい」

 赤城は心の中で安心した。

 もしかしたら影が現実逃避をして、何処かに行ってしまうのではないかと心配していたからだ。

 そのまま影が真面目な顔で言う。


「精霊って皆一言で言ってるけど、具体的にはどんな存在がいて、どんな力を持ってるの?」

「簡単に言えば、駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、軽空母、空母、戦艦と言った装備武装によって精霊の呼び名が変わってきます。後は提督と同じく自身や仲間を強化するスキルを持った者も中にはいます」

 つまり精霊は艦隊少女と同じような力を持ち、その中でも一部の者は影と同じく提督スキルに似たスキルを使えると言う事だとわかった。


「後は私達と同じく、海上に基地を作る者、基地から作戦を送る通信兵もいます」


「つまりは……俺達と変わらない存在かつ敵に対して使う名前って所か」


「ですね。ただ私達と比べると全体的に身体能力が高い少女が多いです」

 これはまた大きなハンデを背負っているなと痛感する。

 武装が同じぐらいの性能しかないと仮定すればそれは致命的だった。


「ちなみに正面から精霊と闘った場合どうなるの?」


 その言葉に赤城が視線を影から逸らす。

 それから、少し間を空けて。


「多分、ジリ貧になるかと思います。こちらの装備の方が性能が高いので、限りなく精霊との差は埋めれますが、それでもやはり最後の一押しが出来ないと思います」

 良かった。

 どうやら影が思っている程状況は深刻ではないようだ。


「ちなみにセシル提督は皆の中でどんな存在で何をしたの?」


「一言で言うならば上下関係に厳しく徹底的に統制がとれた指揮の元、私達と一緒に精霊艦隊と闘っておられました。そして歴代の提督の中でもとても優秀なお方でした。壊滅寸前のフェルト鎮守府をここまでお一人で立て直されましたから」


 なる程ね。

 と影は心の中で理解する。

 つまり、今の鎮守府はとりあえずは危険な状態ではない事が確認できた。

 そして、大方予想がついたが敢えて質問してみる。


「それでもセシル提督は元の世界に戻る事が出来なかった?」


「……はい」

 となると、影が元の世界に戻るなら敵の親玉を倒す方法以外に道はないように見えた。

 鎮守府を立て直しただけではダメだった。

 ならばそれ以上の事と言えば、今の影にはそれしか考えられなかった。


「ちなみに今は戦争状態にあるんだろうけど、現状どうなの?」


「……はい。お互いにかなり疲弊しており、今は大分落ち着いています。それにこちらは残りの資源も少なく、あまり余裕はありません」


「なるほど。資源は有限……だけどその資源を得る為に限りある資源を使うとなれば……」

 影はここまで言って大きなため息を吐く。


 どちらかが滅ぶまで争いはなくならない。

 と気付いたからだ。


 ――もっと言えば、世界が誰かの者になっても終わりはないと言うこと。

 全てが自分の物にならないと嫌だと誰かが考えている以上、争いは決してなくならない。

 それは影がいた世界も、今影がいる世界も変わらない事実なのかもしれない。


「ちなみに精霊を統括している者の正体はわかってるの?」

 資源がないとなると短期決戦が良いわけではあるが……。


「はい。名は精霊王。武装は戦艦。残念ながら居場所はわかりませんが、その者が精霊達の親玉である事は間違いありません」

 と、そう上手く話しは出来ていないらしい。

 かと言ってここで諦めては影自身もセシル提督と同じくいずれこの世界で死ぬことになる。


「提督が戦場に出るだけでも俺は驚きなのにそこにスキルがあるって事はやっぱり……そうゆうことだよな……」

 とりあえず現状を良くするために、脳をフル回転させる。

 資源が尽きればどの道、負けが確定するならば……。


「ここから一番近い敵の施設ってわかる?」


「はい。ここから南西に五キロほど進んだところに精霊艦隊に先日取られた施設……と言うか……予備資源庫が……実は……あります……」

 急に手遊びを始めた赤城が、影の顔色を伺いながら口にする。


「つまりそれがないから資源に余裕がなくなってるの?」


「……はい」


「何で取られたの?」


「深夜に夜襲を受けたからです。ちょうどセシル提督の指示で本土の方に資源を移動させてる途中で防御が手薄な所を狙われました」

 最後に盛大にやらかしてくれたな! と影は心の中で叫んだ。


「ちなみに敵はそこに集まってるの?」


「いえ……戦艦が二隻と駆逐艦が六隻の水雷戦隊が二つです」


「それなら赤城達なら何とかなるんじゃないの?」


「ただ向こうの戦艦の一人が味方の攻撃力を上げるスキルを持ってまして……駆逐艦が駆逐艦とは思えない程火力が向上しており、戦艦はもはや化物級でして……提督なしでは対抗が難しい状況にはなってます」


「……あっ、なるほどね……」


「それとそっちに戦力を裂くと先日見たく敵が別方向から接近してくる可能性が大いにありまして、身動きがあまり取れない状況です。敵もそのことを理解してか通称フェルト資源庫にはそんなに人数を裂いていないんです」

 ため息しかでない影。

 顎に手をあて、これ以上ないほど真剣な眼差しで書斎の天井を見て考え込む。


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