第20話 夜襲作戦
「なるほど……スキルは自分のレベルが5上がる毎に強化されるのか……」
影が本を読みながらブツブツと何かを言い始める。
どうやら影が知りたい内容があったらしい。
それにしても本当に何も知らないのだなと赤城は思う。
前任のセシル提督も影と同じく異世界から来たと言っていたが、その時はこんなにも苦労している感じは一切しなかった。どちらかと言えばわからない事は誰かに聞いて確認し、多くの艦隊少女の前では苦労している姿は見せない人だった。同じ異世界人でもここまで差があるとなるとただ異世界と言ってもセシル提督がいた世界と影がいた世界は全くの別の世界だったのだろうか。そんな疑問が頭に浮かんだが、それは恐らく影に聞いてもわからないと言う事だけはわかっていたのでいつかわかるといいなぐらいの感覚で留めておくことにする。
「う~ん。こうなると……提督は必要なのか……」
「どうしました?」
「いや……。提督がいない鎮守府って結構危険なんだなって思って」
「そうですね。私達もスキル持ちの精霊はやはり警戒します。それと同じく精霊も提督スキルを警戒していますので、提督の不在は結構危険だったりします」
「つまりそれだけスキルって言うのがお互いにとって脅威ってこと?」
「はい」
赤城の言葉に本に視線を向けながら頷く影。
影は一度小さくため息を吐いて、本を閉じ天井を見つめる。
「……はぁ。これは知識もだけど、感覚の修正もしないとダメだな」
ため息交じりに影が呟く。
実際に異世界に来て見ると、元居た世界が基準となっているため色々と苦労する面があるのだなと影は感じていた。
よくアニメや漫画では異世界転生した主人公が異世界を満喫したり、異世界にすぐに順応したりとしているが、どうやら現実はそうもいかないらしい。もしかしたら影の順応が遅いだけなのかも知れないが、一般人にはここら辺がお似合いだと思う事にする。でないと、早くも心が折れそうだった。
「とは言っても赤城が隣にいてくれるだけ幸せ者か……」
と影が自分一人ではない事に安堵し吐いた言葉。
それを自分と一緒にいれて幸せ者だと言っているのだと勘違いした赤城。
赤城の心臓の鼓動が速くなり、顔が赤くなる。
「あっ、あの……その提督?」
急にモジモジして影を見つめてくる赤城。
不覚にも可愛いと思ってしまった影。
「どうしたの?」
「今夜は私の家で……もし良かったら寝泊まりしていきませんか?」
今の影にはまだ自分の家がない。
寝泊まりするなら、鎮守府の執務室なわけだが。
流石にこの怪我した身体でソファーに寝るのは気が引ける。
そう考えた影は赤城の気遣いに甘える事にする。
「ありがとう。なら今夜は赤城の家にお世話になるね」
「はい。提督ありがとうございます」
「うっ、うん」
影は一体何のお礼なのかよくわからなかったが、とりあえず返事をしておく事にした。
すっかり忘れていた寝床の確保も出来た影は赤城に今後の事を少し相談してみる事にする。
「ねぇ、赤城。ちょっと相談があるんだけどいいかな?」
「はい」
「フェルト資源庫ってやっぱり取り返した方がいい?」
「出来るならそうしたいところではあります。あそこは鉱山や物資共に恵まれた島です。フェルト鎮守府の資源の7割はあの島からの供給です。このまま、失った状態が続くといずれ燃料すらなくなります」
やっぱり赤城が前回言ってなかっただけで、大事な事を黙っていたなと影は内心思ってしまった。もし赤城からこれを聞かなければ下手したらフェルト資源庫を無視していたかもしれない。まぁ名前に資源庫と付くぐらいだから何となく違和感はあったわだが。
「ちなみに飛龍はいつから動けるようになるの?」
「後二日もすれば、任務に復帰する予定です」
「なら悪いけどその任務外してくれないかな……」
影はそのまま自分の身体を一回見て、自分もそれくらいあればある程度は動けるようになるだろうと判断する。少し不安はあるが、敵が動く前に動きたいと言う面ではそっちの方が得策だと考える。それに資源が限られている以上、早めに動かなければ影の手ではどうしようもできない状態になる可能性も否定が出来なかった。
「……そのまま二日後の深夜にフェルト島の奪還をしようと思う。どうかな?」
「それは本気ですか?」
「うん。俺、赤城、加賀、蒼龍、飛竜、それから第二十三駆逐隊で夜襲を仕掛ける。その前に金剛艦隊をフェルト鎮守府に帰還させて護衛に。それ以外の所からも余裕があるなら防衛に当たらせて欲しいんだけどどうかな?」
その言葉に赤城が真剣な表情で考える。
「確かにあの島は貴重ですが……提督のお身体で戦場に出れば次こそ死ぬかもしれません。私は反対です」
「……だろうね」
赤城は驚いた。
まさか影が否定される事を承知で相談してきたとは思わなかったから。
「……あぁーあ。俺は赤城なら俺の事を護ってくれると思って提案したのに残念だなぁ~」
と赤城に聞こえるか聞こえないかの声で影が呟く。
「あっ、いや……」
赤城の気持ちに迷いが生じる。
提督がこんなにも私の事を信用してくれていたと思うと……。
「て、ていと……くは、私の事が好きですか?」
赤城が立ち上がり質問する。
好きか嫌いかで言えば好きなので影は正直に答える事にする。
「好きだよ」
すると、赤城の顔が真っ赤になる。
「わかりました……今回だけですよ。私が提督を必ず護りますので夜襲作戦を認めます。……ていとくのばかぁ。そんなに素直に言われたら恥ずかしいじゃないですか……」
途中から声が小さくなり何て言っているかわからなかったが影はとりあえず赤城が作戦に賛同してくれたので一安心する。
「赤城、ありがとう。それより顔赤いけど大丈夫?」
「はっはい。だ、だ、だいじょうぶです!!!」
「なら悪いんだけど、ここに加賀、蒼龍、飛竜、菊月、夕月を連れて来てくれるかな?」
「わかりました。ちょっと待っててくださいね」
赤城は皆を呼びに一回書斎の外へと出ていく。
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