第37話 二度目の演説の告知


「お言葉ですが……知識がない時点で……いずれ、失敗をする…のでは?」


 影は赤城の頭をポンポンと撫でて。


「だったら失敗を糧にすればいいと思うよ。それにここには赤城や飛龍もいる。俺一人じゃ無理でも皆でなら何とかなるんじゃないかな」

 そして影、笑みを浮かべて。


「相手が精霊王だろうと他の鎮守府の提督率いる艦隊だろうと俺は負けない」

 後がないフェルト鎮守府に負けは許されない。

 だったら負けなればいいと言わんばかりに。

 飛龍の目だけを見て、自信に満ちた笑顔で宣言する。


「――フェルト鎮守府は誰にも渡さない」


 ……その言葉は。

 かつてセシル提督が飛龍に言ってくれた言葉。

 まるで影は飛龍の心の悩みを知っているかのように。

 優しい言葉で安心感を与えてくれた。

 長い戦いの果てに、疲弊しきった心を優しく抱きしめるように。

 ――そして、まだ負けてないと言わんばかりに。


 その言葉は飛龍の胸の中で優しく響いた。


「だったら私からも一つお願いいいですか?」


「いいよ」


「これからも私達の提督でいてくださいね。何があっても最後まで」

 何かを期待した眼差しで言う飛龍。

 すると下の方からも声が聞こえてくる。

 そのまま視線を下に向けると、影の胸で甘えながら赤城。


「そうですよ。これからずっと、ずぅ~と一緒ですよ」

 と照れくさそうに呟く。


 影はそんな二人を見てウンウンと頷いて。

「わかった」

 と返事をする。


 すると、飛龍が座っていた椅子からヨイショと言って立ち上がる。

 そのまま使っていたパイプ椅子を部屋の隅に直して。

 大きく背伸びをする。

 すると大きな胸が更に大きく見え影の視線を釘付けにする。


「んっ? あぁ~やっぱり提督も男の子なんですね……うふふ。可愛いですね」

 そう言って飛龍が笑う。

 どうやら影の視線が飛龍の胸に釘付けになっていた事に気付いたようだ。


「今度二人きりの時だったら、触ってもいいですよ?」

 と飛龍冗談半分で影に言うと、急に影のわき腹が痛みを覚える。


「いてぇぇぇぇぇぇ!!!」

 そのままわき腹を見ると、赤城が上目遣いで頬を膨らませて影のわき腹をグイッと捻っていた。


「影提督! セクハラはダメですよ! これで飛龍が傷ついたらどうするんですか!」

 赤城の言葉は正にその通り名わけで。

 影は落ち込みながら「すみません」と言って二人に頭を下げる。

 飛龍の胸は影にとっては目の保養効果があるぐらいに、動く度にプルンプルンと揺れて、破壊力抜群だった。


「あはは~。半分は冗談なので大丈夫ですよ。なら私は蒼龍とこの後約束があるので失礼します」

 影と赤城に一礼をしてから部屋を出ていく飛龍。

 最後はまぁ……影の気も知らず何とも楽しそうな笑顔で部屋を出て行った。


 赤城と二人きりになった影が無言になる。

 飛龍が最後からかってきたせいで気まずい雰囲気になったのだ。


「影提督?」

 いつもの赤城に戻ったのか、影から離れ、元々座っていたパイプ椅子に座り直す赤城。


「はい」


「あまり女の子をいやらしい目で見ちゃダメですよ。わからないだろうと思っていても見られている方からしたらちゃんとわかるんですからね?」


「……はい。以後気を付けます」


「わかりました。それで今後についてですが、とりあえず明日演説をしましょうか。本当は今日がいいですけど、心の準備がとか言われても嫌なので明日します」

 影に選択権はないと言わんばかりに赤城が言ってくる。


「ちなみに演説の内容は?」


「今後についてです。フェルト鎮守府が抱えていた大きな問題の一つが今回改善されました。そこで提督自ら今後について演説する事で、支持率を得られると私は考えました。なので影提督に拒否権はありません」

 影はその言葉を聞いた時、ついため息を吐いてしまった。

 人前に立つのは苦手な訳ではあるが、赤城が言っている事が最も過ぎて言い訳が思いつかなかったからだ。

 何をするにしても支持率は合った方がいいに決まっているわけで。

 影に演説をしないという道は赤城の手によって封じられたのだ。


「……はい。またしないとなんだね、頑張ります」

 ため息まじりで影が答える。


 すると赤城が影を安心させるように呟き始める。

「今回はそんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。影提督はもう既に皆が認める結果を出していますから。それにさっきの飛龍を見てもらったらわかるように、今回提督と一緒に出た艦隊少女はもう影提督を新しい提督として認めています。だから今の提督はもう一人じゃないですよ」


「そっかぁ。ならちょっとだけ……頑張ってみようかな?」


「はい。期待しております」


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