第22話 セシル提督の愛


 ライト王国――首都フェルト島――中央区二番地。

 あれから影と赤城は二人で赤城の家に帰宅していた。

 流石に三日間お風呂に入っていなかったせいか、全身が痒い影は赤城に頼みお風呂に入っている。入ると言ってもまだ傷口が完全に塞がってないので、腰にタオル一枚巻いて全身を濡れたタオルで赤城に拭いてもらっていた。


「赤城ホント迷惑ばかりかけてゴメンね」


「いえ。それより気持ち悪い所はないですか?」


「うん。赤城は将来いいお嫁さんになれるね。面倒見もいいし」

 その時、赤城の顔が真っ赤になる。


「て、提督、そ、そ、そ、それは反則です!」

 不意打ちをくらった赤城は影の背中を濡れたタオルで拭いてあげながら、ニヤニヤが止まらなくなった顔を必死になって元に戻そうと頑張っていた。


「え?」


「あっ、後ろ見ないでください!」

 赤城もタオル一枚なので、影はそれはそうだと納得する。

 いくらタオルを巻いていても女性なら、素肌を見せるのに抵抗が合っても不思議ではないと。そもそも自分の配慮が足りなかったと心の中で反省する。


 対して赤城。

 真っ赤になった顔を見られたと思い、赤面する。

 どうせなら身体を見られた方が、色々とバレなかったのではないかと思えるぐらい心臓をドキドキさせていた。


「ていとく、後ろは恥ずかしいから絶対に見ちゃダメですよ。それとやっぱり頭は洗いましょう」

 そう言って、赤城はシャンプーを手に取り優しく影の頭を洗い始める。

 最初は洗剤が落ちて身体の傷口に触れると痛いから嫌だと影が我儘を言っていたが、この罪悪感がある状況では断る事が出来なかった。


「あぁ~気持ちぃ~」


 赤城の指の腹が優しく頭皮をマッサージしてくれる。

 指先に力を入れる為に密着状態となった赤城の胸が影の背中に触れる。

 その感覚が影の若い身体をさり気なく刺激し、赤城を異性として認識していく。


「ていとく? 力加減大丈夫ですか?」


「うぅ~ん、だいじょ~ぶぅ~」

 影が喜ぶ顔を後ろから覗き込みながら洗う赤城。

 好きな人が自分だけに見せてくれる気の抜けた表情がとても愛おしく感じる瞬間だった。

 しばらくして。


「ではシャンプー流すのでそのまま目を閉じていて下さいね」


「うん」


 赤城がシャワーの水圧を弱くして、ゆっくりと影の頭にあるシャンプーを洗い流していく。影の傷口に泡がいかないように慎重に。


「はい。終わりましたよ」

 そして、綺麗サッパリした影がゆっくりと目を開ける。


「なら私は今から身体洗って、少し湯舟に浸かってから出ますのでお先に上がって部屋でくつろいでいてください。冷蔵庫にあるものでしたらお好きに飲んでもらって構いません」


 影は後ろにいる赤城の方を見ないように意識して答える。

「わかった。赤城ありがとう。おかげさまで色々と助かったよ」

 とお礼を言ってからお風呂を出る。

 普段相手の顔を見て言うべき事を逆に見ないで言うとなると少し違和感があったが、二度は同じ過ちを繰り返してはいけないのだ。



 お風呂を上がった影は一人ソファーに座りスマートフォンを使い、少しだけ歴史について調べていた。調べると言っても電波はないので、スマートフォンにPDFデータとして予め保存している歴史の参考書だ。大学の講義の関係で入れておいた物だが意外とこれが異世界に来て役立つとは正直思っていなかった。そしてあの日気付かなかったが、持っていたソーラーパネルを利用した小型モバイルバッテリーに繋いで充電もしっかりとしておく。


「やっぱりそうだ……。一九四二年【昭和十七年】六月のミッドウェー海戦で沈没してる。加賀、蒼龍も同じく。そして少し間を空けて飛龍。そして格納庫内部の誘爆によって内部から焼き尽くされていったのか……」

 この世界に影がいた歴史がどこまで連動しているかはわからない。

 だけど今の赤城を見ていると、いつかあんなに優しくて人思いな赤城が何処か遠くへ行ってしまうのではないかと思ってしまった。

 実際そうなるかはわからない。だけど、自分の指示一つによってはそうなる可能性が否定できなかった。そんな似たような悩みと何度目になるかわからないモヤモヤと影は向き合っていた。

 出来るなら全員を護ってあげたい。

 それはやはり綺麗ごとなのだろうか。

 今度の作戦で例え誰かが死ぬことになっても影の中でのフェルト資源庫奪還作戦はかなり重要だと考えている。だからこそ今最も信頼している艦隊少女である赤城を起用する事は間違っていないはずなわけだが……大切な存在へとなればなるほど不安になるのもまた事実となっている。


「それに赤城だけじゃない……加賀、蒼龍、飛竜もなんだよな。確かにあれは色々とこの資料を見てもわかるように問題も多くあった」

 ミッドウェー海戦は純粋な戦力以前に他にも問題が多くあったのだ。

 暗号解読、偵察の失敗、防空の不備、そして……慢心。

 それらが負の連鎖となり航空より侵入した急降下爆撃機ドーントレスが…………。

 空母、加賀、蒼龍、赤城上空から…………。


「……はぁ」


「提督? もしかして提督も私達の未来について知っているのですか?」

 突然聞こえてきた声に、影が困ってしまう。

 が、聞こえてしまった物は仕方がないと諦める事にする。

 それより、赤城の言葉に気になる単語が出てきた。


「うん。とは言っても俺は殆ど知らない。ただ漠然に知っているだけ。それで提督もってどうゆう意味?」


「セシル提督がお亡くなりになられる前、ずっと秘書官として働いていた私に忠告として未来について教えてくれました。最後は雷撃処分されたと……」


「そうだね……知っていたんだ」

 影はこの時前任の提督が赤城に話していた事に違和感を覚える。

 セシル提督はなぜ赤城にその事を伝えたのかと。


「ちなみに赤城以外に未来……いや最後について知ってる艦隊少女はいるの?」


「いえ。いません」

 赤城は少し不安になりながら影の隣に座る。


「でも何で赤城だけに?」


「それは……セシル提督が……私達の事を愛していたからだと思います」


「……?」


「『必ずこの戦いに勝って皆で生き延びろ!』それがセシル提督が私に言った最後の言葉であり命令でした。恐らくセシル提督は私達の事をお亡くなりになられるその時まで愛していたのだと思います。だから最後にセシル提督がいた世界の事を教えていただけたのではないかと」

 その時、影の頭の中で一つの仮定が生まれる。

 もしかしたらセシル提督と影は同じ世界から来たのかも知れない。

 歴史が全く一緒だと言う事はつまりはその可能性があるのかもしれない。

 そしてそれが影が元居た世界に繋がるヒントになるのかもしれないと。

 確証はない。

 だけどその可能性がある気がした。


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