第二章 徐々に認められていく者
第18話 目覚め
あれから日が沈み気付けば月が空に昇っていた。
影の指示通りに赤城と加賀の第二次攻撃隊が第一次攻撃隊に合流し、敵戦闘機部隊の排除に成功する。同時刻、北北東方面で精霊艦隊と闘っていた第五航空戦隊並びに第十一駆逐艦隊も見事敵艦隊を撤退に追い込む事に成功。
戦闘が終わると、赤城は加賀と蒼龍に護衛をしてもらいながら急いで血だらけで意識を失った影を背負い鎮守府へと帰還する。
それから救護班の艦隊少女に影を引き渡す。
今は容体が安定し安らかにベッドの上で寝ている影の看病をしている。
普段あまり祈らない神に祈りながら、赤城は影の汗を水で濡らしたタオルで拭いてあげていた。
どのくらいの時間が経っただろうか。
「……赤城、加賀……蒼龍……逃げて……」
「えっ?」
突然聞こえてきたか細い声に、赤城の手が止まり、影の顔に意識が集中する。
よく見れば影が夢の中でうなされていた。
ベッドの中で暴れる影を赤城は必死になって抑え付ける。
「俺の事はいい。早く……でないと赤城達が……」
「提督?」
「……俺は、赤城達に生きて……欲しい」
一体どんな夢をみているのだろうか。
だが影の寝言は夢の中の赤城達に対しての呟き。
「……本当にゴメンね……頼りない提督で……」
「……提督?」
「……良かった、赤城……後は頼んだ………そのまま行くんだ……」
赤城は影の口元に耳を近づけ、微かに聞こえる声に集中する。
「……第二次攻撃隊までの五秒……稼げて良かった……」
それを最後に影の寝言は終わった。
それからは悪夢にうなされることなく、落ち着いていた。
「かげ……ていとく……なんであんな無茶を……無茶しないでって……言ったのに……」
赤城は一人涙を流す。
赤城は影の口からこぼれた言葉を聞いて推測する。
恐らく内容的にも、今日の最後の光景でも見ていたのだろう。
まだ会って間もない影はあの状況下で逃げる事を考えていなかった。
ただ後悔し、三人の事だけを考えていたのだと推測できた。
この人は本当に命を懸けて私達を護ってくれるのだと実感する。
そして思い、気づく。
あの時の演説に嘘はなかったのだと。
こんなにも弱いはずの影提督が誰よりも強く見えるのはなぜだろう。
そう考えた時、これが影の提督としての覚悟だと感じた。
決して人には見せない優しさに隠れた強さ、これが影の覚悟だと思った。
そして赤城は影の手を握り無事に目覚める事を祈りながら深い眠りについた。
どれくらい眠っていたのだろうか。
意識の片隅で影を呼ぶ声が聞こえる。
その声は異世界に来てからいつも隣にいた赤城の声だった。
――ここはどこだ?
辺り一面見渡しても暗闇しかなく何も見えない。
そう思った時、一筋の小さな光の点が前方に出現する。
そしてその小さな光はどんどん明るくなっていく。
「――ッ!? ここは?」
影が目を開けると見覚えのある光景が視界に入ってくる。
そこは影が異世界に来て、初めて赤城と出会った医務室だった。
手に感じる暖かな温もりの正体を確かめると赤城が手を握っていて、目にクマを作ってベッドにもたれかかり眠りについている。きっと影が倒れてからずっと看病をしていてくれたのだろう。
ベッドから見える窓の外の景色を見れば、太陽が輝いている。
ちょっと寝ていただけのはずなのに、とても懐かしく感じる。
「ありがとう」
影は寝ている赤城に向かってお礼の言葉を言う。
すると疲れて寝ているはずの赤城が瞼を擦りながら起きる。
「あっ、提督。やっとお目覚めになられましたか……良かった」
その瞳には涙があった。
赤城の顔をよく見ればクマだけでなく、泣いていたのか目が腫れていた。
「心配かけてゴメンね」
「いえ」
「それよりあれから大丈夫だった?」
「はい。あれからすぐに敵戦闘機を撃墜し、第五航空隊と第十一駆逐隊が勝利し敵艦隊が撤退しました。それから今日までの三日間は特に何もありませんでした」
赤城の報告を受けて影は驚いてしまった。
「俺……そんなに寝てたんだ……」
「はい。本当に心配したんですよ。もうあんな無茶はしないでくださいね?」
「わかった。今後は気を付けるよ」
「お願いします」
この二日間寝ていた事を知った影は表には出さなかったが、内心不安に思った。
ただでさえまだよくわからない世界なのに、自分の知らない所で何か合っていては対応が後手に回ると。
ただ今回に限っては、赤城の顔を見る限りだが大丈夫な気がしたのでまだ良かったのだが……。もしフェルト資源庫のように実は聞かれなかったら黙っていましたとかだったら正直面倒くさい。影はこのような根本的な原因の一つしてやはり自身の知識不足が原因だと判断する。
正直今から仕事をしたいかと言われれば、怪我人と言う事でもう少し休みたいところではあったが、そうもいかない。
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