第35話 報告
――これが。
これが、唯一影達に残された勝利への道だった。
かつてアメリカ軍艦船の最悪の脅威ともされた作戦。
実際の戦力以上に戦況に影響を与える潜在能力を有していたと結論づけされた作戦でもある。
あぁ、これからこの道を歩んでいくと気が遠くなる。
だけどあの子達のおかげで最初の一歩を辛くも踏み出せた気がする。
そして終局までの流れが影の頭の中にハッキリとイメージされる。
「……悪いな。精霊戦艦これが戦争らしい」
影の提督機達が精霊戦艦の注意をギリギリまで引き付ける。
そして、残りの攻撃機が海面スレスレで四方八方から飛んでいく。
……そこで赤城も気付いたのだろう。
影が今何をあの子達に命令したのかを。
もしかしたら赤城達は酷く影を怒るかもしれない。
自分達の可愛い子達になんて事をさせるのかと。
「まさか!?」
「提督!?」
赤城と加賀の声が聞こえてきた。
どうやら加賀も気付いたらしい。
「止めなさい! 今すぐそんな無茶は止めなさい! これは命令よ!」
そして赤城の叫び声が深夜の海に響く。
その声は影の胸を締め付ける。
影は両手の拳を悔しそうに握りしめ震わせる。
――万を護るために一を犠牲にする
こんな手、そう何度も使えるものではない。
もしこんな事を続ければ影の信頼は一気にマイナスになり、夜寝首をかかれるだろう。
だけどそれでも選ぶしかなかった。
万を護るため、そして赤城達の未来を護るために。
「全戦闘機に告ぐ。旗艦である影が命令する。自分の信念を貫いてこい!」
赤城達にバレないように、涙を必死に堪えて叫ぶ。
心臓が締め付けられる。
影の叫び声に。その意図に。
ここで全員が気付く。
どこの国だっただろうか。
上官の命令は絶対であると言った言葉があったのは。
そんな事を思いながら影が前方に視線を向けていると。
低空飛行していた戦闘機が敵戦艦前で急上昇して深い角度を付けて突撃していく。
その事に反応が遅れた敵戦艦に対処する時間はもうない。
もっと言えばもう逃げ道もない。
そして悪あがきなのか砲塔がこちらに向けられる。
その射線軸上に影はいない。
影は慌てて敵戦艦の砲塔の射線軸上まで全力で移動を開始する。
次の瞬間。
砲塔が火を噴き、スキルで馬鹿みたいに威力が上がった砲弾を発射する。
ドガ―ン!!!!
爆音が全員の耳に聞こえる。
だが次の瞬間、特攻機となった戦闘機が敵戦艦に次々と突撃していく。
敵戦艦は火を噴き、誘爆を起こし、最後は大爆発で最後を飾る。
そして、特攻と言う。
死を前提とした作戦を指示した影に天罰が下るように。
固まっていた赤城達を狙い放たれた最後の砲撃の一撃が影を襲う。
「この勝負、俺の勝ちだ」
影はニヤリと笑って勝利宣言をする。
その顔は泣いていた。
だけど、何処か嬉しそうだった。
ド―――――――――――――――――ンッ!!!!!
影の飛行甲板に砲弾がぶつかる。
影の飛行甲板だけでなく、砲弾は左腕までも粉砕する勢いで襲い掛かり大爆発を起こす。
真っ黒な闇に覆われたはずの夜空と海面が夕焼けのようなオレンジ色に焼ける。
その光景を見た赤城。
「うそ……かげ……ていとく……」
とその場で膝から崩れ落ちながら呟いた。
最後の特攻の時、赤城達には戦闘機の子達からそれぞれに入電があった。
『影提督の命令ではありますが、勝つために私達からお願いをして許可を頂きました。ですからご心配は無用です。フェルト鎮守府の未来を願って』
この言葉が精霊戦艦と一緒に海に沈んでいった戦闘機の最後の入電だった。
「赤城、立って。泣いてる暇はないわ」
加賀が言う。
そして無線でフェルト資源庫奪還作戦が成功した事だけを伝えた。
フェルト島から予め影が休養中に赤城が手配していたフェルト資源庫立て直し部隊全員が今から急いで向かうとの報告を受けた加賀は無線を切る。
「私達の提督を今から探すわよ」
「でも……提督は……」
「まだ死んだと決めつけるのは早いわ。それに約束したじゃない。私達の今の提督は影提督なのよ。正直この戦力だけであの化物級と言ってもいい水雷戦隊を倒したのよ。」
「でも……どこにもいない……」
「ほら泣かないの。正直言うとね決戦前はこの提督本当に敵戦力を正しく把握しているのかと不安はあった。だけど影提督はできると言った。そして信じてみた。そしたらこの通り。更には私達を本当に護ってくれた。私達がここにいなければきっと影提督は笑ってたのだと思う。だったら、また影提督の笑顔をもう一度見る為に皆で探しましょう。可能性は低い。それでも影提督ならばきっと生きていると信じて」
「……うん」
赤城が泣くのを止めて、立ち上がる。
そして。
「皆も手伝ってくれる?」
「赤城さん勿論です。加賀さんの言う通り影提督ならきっと生きてますよ」
「ですね。着任してから僅か数日で私達の子に信頼されたんですから」
「私もそう思います。影提督はきっと生きていると」
「わたしも~、そう思うよ~。だって影提督良い人だもん!」
「そうね。なら広範囲に探しましょう」
赤城の言葉に全員が頷く。
それから索敵範囲をギリギリまで広げ、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、菊月、夕月で影の捜索をおこなった。
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