第45話 これが本当の私



「あら、肩も凝ってますね」


「うぅぅぅ~~~~~~~~~~~~」


「あらあら、気持ちいいんですか?」


「きもちぃぃよぉ~~~~~~~~~」


 これだったらお風呂に一緒に入って、その時にしてあげた方が良かったかなと赤城。

 気が付いたら、影の喜ぶ顔を見たいがために、色々とどうしてあげたらいいかを考えていた。少し前まではちょっとでも時間があれば影の事を考えるとかはなかったのだが、今はちょっとでも時間があれば影の事ばかりを考えてしまう。

 これも恋心が知らず知らずのうちに成長し、大きくなっているせいなのかもしれない。

 何より今は仕事だけでなくプライベートでも同じ空間で時間を共有している。

 そのせいか、影と会う回数も単純に増えている。

 もっと言えば影を見る回数が増えているのだ。

 心理学的には単純接触効果と言うものがある。

 まさに今の赤城と影はこれに近い状態だった。


「あの、影提督?」


「うぅ~ん?」


「影提督にとって私ってどんな女の子ですか? プライベートの私って意味です」


 赤城は影の目に自分がどんな感じで映っているのか聞いてみる。

 すると影が「う~ん」と言って考え始める。

 そしてちょっとだけでもいいからと内心褒めて欲しいなと期待してみる。


「正直言っていいの?」


「はい」


「とても優しくて頼りになるお姉ちゃん的な存在かな。後は一緒にいて安心できる存在」


 その言葉に赤城。

 心臓の鼓動が速くなり、全身を駆け巡る血の流れが急に速くなる。

 お風呂上りでようやく冷めてきた身体が、凄い勢いで熱を取り戻していく感覚に襲われる。


「なっ、なら、わ、私と今晩一緒に寝ませんか?」


「え? でも赤城女の子だし、それは赤城が困るんじゃないの?」


「困りません! むしろ今日は…そ、その……なんて言いますか……お側にいたいです」


 赤城、ゆでだこのように顔を真っ赤にして答える。

 影が疑問に思ったのか後ろを向こうとするが、すぐに手を使い阻止する。


「今は見ないでください。ちょっと恥ずかしいです」


「……うん、わかった」


「それで……今日……私と一緒に寝てくれますか?」


「いいよ。赤城が望むならいつでも寝てあげるよ」


『このバカ提督、こんな時間に勘違するような事言うな! あぁ~もぉ内心違うってわかってても期待しちゃうじゃないのよ! おかげでドキドキして逆に目が覚めちゃったじゃないの! ばかぁ~』と心の中で言い返して。


「もお、マッサージは終わりです。その代わり、私頑張ったのでちょっとだけ甘えさせてください。それと絶対に後ろは見ないでください。見たら金輪際口聞いてあげません」

 そう言って赤城は高まった心臓が元に戻るまで、影の背中から抱き着く。

 赤城の胸の高まりが影の背中に伝わっているのかはわからない。

 だけど、少しは伝わって欲しいなと赤城は思った。


「影提督?」


「なに?」


「他の女の子にその言葉は言ったらダメですからね? 中には勘違いしちゃう女の子もいますから」


 赤城は影に念をおすようにして、ボソッと呟く。

 影の人柄から考えて、相手が望めば誰に対しても同じ言葉を言ってしまうそうだなと思ったから。


「うん。赤城にしか言わないよ」


「はい」


「ねぇ赤城?」


「なんでしょう?」


「最近甘えん坊さんで可愛いね」


 ようやく落ち着いてきた胸の鼓動が再び高まってしまった。

 ここまで来ると、自分がどれだけ影の事を好きで好きで好きで好きで仕方がないかが嫌と言う程思い知らされてしまった。身体は正直らしく、過敏に反応してしまう。

 いっそのことこのまま告白をして想いを伝えた方がいいのではと思ったが、やはり振られた時のショックを考えるとそれは出来なかった。

 それならこの曖昧な関係でずっと片想いをしている方が百倍マシだった。


「むぅ~、意地悪ばかり言うならもう甘えてあげませんよ?」


「ならもう何も言わないよ」


「やだぁ、可愛いって言ってください」

 ボソボソと。


「え? でも……」


「言ってください!」

(なんで言葉通りにしかいつも受け取ってくれないのよ! ばかぁ)


「あっ、うん、わかったよ……」

 影は戸惑いながらも返事をする。


 しばらくして赤城の心臓がある程度正常運転に戻って来た所で影から離れ、そのまま布団の中に一緒に入る。

 正直まだドキドキはしてる。

 でもこれが恋なのだと思うと、納得ができた。


「我儘ばかり言ってすみませんでした。でもこれが本当の私なんですよ。おやすみなさい」


「うん。おやすみ」


 二人はそのまま静かに眠りに入る。


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