第16話 旗艦は提督です


「恐らく撃墜されたのかと思います。でも大丈夫です。どうやら私達の戦闘機達が戦場に合流したようですから」

 赤城が指をさした方向に視線を移す。

 赤城の言う通り戦闘機部隊が交戦に入った瞬間だった。


 数多くの戦闘機部隊が戦場を飛び回る戦場。

 影が思っていた以上にそう簡単に敵機を撃墜できるわけではなく、戦闘機による激しい攻防に思わずゾッとしてしまった。

 これが戦争。と言わんばかりに手汗が湧き出てくる。


 そして一機、また一機と、煙を上げながら海に沈んでいく戦闘機。


 ――凄い……これが本物の航空戦なのか……


 想像以上の光景に影の意識は戦闘機達だけに向けられた。

 四人は安全区域から静かにその戦いを見守る。

 すると、影の戦闘機が一機煙をあげ、海へと沈んでいく。


「やっぱり。搭載機の皆さんの動きがいつもより速い……それだけじゃない……」

 ここで蒼龍が口を開く。


「そうね。これが影提督のスキル。提督の半径十メートル以内にいる艦隊少女全員の能力を五%向上させてくれるの。そこに回数制限はないわ」


「……これはまた良いスキルですね。回数制限がなく効果対象が全員のスキルは珍しいですし。流石、提督です!」


「ありがとう」

 微笑みながら影が答える。

 すると、青色のショートカットが良く似合い少し幼さが残る蒼龍が笑みを向けてくれる。


「これはまた良いスキルですね。それに影提督は何処かセシル提督とは違って優しい感じがします。これからよろしくお願いします」

 今度は腰下まである黒い髪に顔が整っている加賀挨拶をしてくる。

 何処か赤城に似ている雰囲気もあるが、どちらかと言うと見た目的から赤城の実の妹みたいだなって感じがした。


「ありがとう。こちらこそよろしくね、加賀」


 すると、被弾した戦闘機部隊が影達の元へ帰還してくる。


 影が前方に視線を向けると敵機は残っている。

 これをそのままにするのは良くないと考えていると蒼龍が影に確認をしてくる。


「提督。伝令でカワ……じゃなくて皆さんが第二次攻撃隊をと言われております。宜しいですか?」


「お願い」


「第二次攻撃隊準備急いでください。攻撃隊発艦してください!」

 そのまま蒼龍の第二次攻撃隊が上空に飛び立って行くと、ほぼ同時に四人の元に新たに増援で来た八機の戦闘機が突撃してくる。


「しまっ――ッ!!」

 それにいち早く気が付いた加賀。

 そして赤城、蒼龍が気付く。


 加賀と蒼龍はすぐに回避行動に移る。

 反応が一人遅れた影を赤城が手を引っ張り誘導する。

 赤城の助けがなければ戦闘機に撃たれ今頃ハチの巣になっていた影。


「ありがとう」


「はい」

 赤城が後方から追尾してくる戦闘機の攻撃を躱しながら答える。

 今も動きを止めれば間違いなく三機の戦闘機によってハチの巣にされるだろう。

 同じく、加賀に二機、蒼龍に三機の敵機が攻撃をしている。


 この状態では反撃に移る事が全員出来ない。


 かと言ってこのまま何もしなければいずれ戦闘機に距離を詰められ撃たれてしまう。

 影は逃げるのに全神経を注ぎ込みながらも、赤城に助けを求めようと顔を見た時。

 戦場で手慣れている赤城ですら見る限り影を連れているせいなのか逃げる事に精一杯の様に感じられた。

 加賀と蒼龍も自分達の事で手一杯そうに見える。


 影は赤城を信じて、後ろをついて行きながらも打開策を考える。

 この状況では戦闘機を呼び戻すにも、それが最善なのかわからない。

 もしこれより劣勢な状況に追い込まれればそれこそ全滅と言った最悪の展開になるかもしれない。

 影が脳を脳回路を焼き切らんばかりに、加速させる。

 正しい状況の把握とここでの最優先事項は何か。

 それに対しての優先順位は何か。

 ――この状況になった時点で、綺麗ごとを言ってる暇はない。


 …………。

 …………――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る