第17話 後は頼んだよ
「赤城一つ教えて。何秒あれば第二次攻撃隊を飛ばせる」
赤城が表情を歪めながら、手を繋いでいる相手――影を見る。
「赤城!」
戸惑う赤城に叫ぶ影。
「……五秒です」
影の頭が五秒をどうやって算出するかを考える。
現状このままではいつまで経っても普段なら簡単に作れる五秒を作る事は出来ない。
こんな時だからこそ、どうすればいいかを考える。
弱者である提督だからこそ出来る反撃の一手を。
敵は誰が強くてどれくらい強いかを知らない。
だけど影は何となくそれを知っている。
この中では赤城と加賀の戦闘機が一番強い。
ならばこの二人の戦闘機を発艦させることが出来れば。
あるいはこの状況を解決できるかも知れない。
「無茶なことだけは考えないでくださいよ」
赤城はそう言って視線を元に戻す。
このままゼロ距離になるのにそう時間はかからない。
影の頭が初めての危機にも関わらず正常に動いてくれている。
多分、心の何処かで赤城を信用しているから。
だったら、仲間を信じ戦う事も提督の役目ではないのか。
護られるだけの存在にはなりたくない。
そうだ。
着任式で言ったではないか。
『先に言っておきます。私が足手纏いだと思った場合は切り捨てて貰って構いません。それで私が死ぬことになっても絶対に皆さんを恨みません。私の変わり等世界的に見れば幾らでもいますから』と。
赤城はそれでも影を護ろうとしている。
『聞こえる。そっちに余力はある?』
『現状殆どないです。こちらにも敵機の増援部隊が来て限界です』
『わかった。後数分耐えて。その間にまずはこっちを何とかするから。そしたら赤城の攻撃隊にすぐ援護に行ってもらうから』
『了解!』
この時、影の戦闘機部隊の子達の返事が力強くなった。
この子達は影の言葉一つ、モチベーション一つでも影響を受けるのだと知った。
まるで自分の分身のような感覚になった。
おかげで色々と吹っ切れた。
文句を言わず頑張ってくれるあの子達を護る為にも、ここはやるしかないと。
「赤城、これは提督としての命令だ」
「えっ!?」
急に雰囲気が変わった影に赤城が戸惑う。
いつもの影が指示をしたところで赤城が素直に言う事を聞くとは思えなかった。
だから気が進まなったが、こうすることにした。
「俺が時間を作る。その間に第二次攻撃隊を発艦させ、早急に後方の敵機、並びに加賀、蒼龍の救出。それから加賀に指示を出して第二次攻撃隊を発艦させて向こうの戦闘機の救援をしろ! 出来るな?」
「……無茶はしませんよね?」
赤城の顔色が変わる。
どうやら良くない事をしようとしているのを感じ取ったみたいだ。
だけど、全滅だけは避けなくて行けない。
「赤城!」
「……はい」
赤城が渋々頷く。
「ゴメンね。でもありがとう」
そう言って影は赤城が力強く掴んでいた手をもう片方の手で外す。
そして、赤城とは違う方向に移動しながら、すぐさま腰にある矢に手をかける。
それに気付いた後方の敵戦闘機三機が狙いを影に変更する。
「だよな……この状況で強引に反撃する姿勢を見せたらそりゃ警戒するよな……」
そして影が飛行甲板を盾にするように左腕を構え防御姿勢を取る。
刹那、敵の機銃が飛行甲板を攻撃しダメージを与える。
飛行甲板はすぐに大破し、影の身体が機銃で撃ち抜かれる。
影の身体から朱が舞い、青い海を赤く染めていく。
そのまま激痛に耐えながらも一秒でも時間を稼ぐために全身に力を入れる。
まだ倒れるわけにはいかない。
そして人間の身体にはこんなにも血があるのだと痛感していると。
敵の攻撃が止む。
いや敵機が赤城の第二次攻撃隊――零式艦上戦闘機からの攻撃を受け撃墜された。
そのまま赤城の攻撃隊は影の指示通り、加賀、蒼龍の救出に向かう。
「……グハッ!!! ……それで良い。後は頼んだよ、三人共」
影は薄れゆく意識をギリギリのところで繋ぎ止め、赤城の攻撃隊による救出劇を見届ける。そして敵機を撃破した赤城攻撃隊と加賀攻撃隊が合流し、戦闘機部隊の救出に向かったのを確認すると同時に意識が暗転していく。
「ていとく~!」
声が聞こえると同時に身体が倒れていく浮遊感と共に影の視界に近づいてくる海面。
そして何か柔らかくて弾力がある何かに頭が触れ全身を支えられた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます