第32話 加賀と蒼龍のピンチ


 そして影達の元に来て合流する。

 それを見守ってから、今も交戦中の敵戦艦に向かって飛龍の攻撃隊が飛んでいく。


「二人共お疲れ様。よく頑張ったね。少し休んでていいよ」


「「はい。提督ありがとうございます」」

 そう言って、全ての弾薬を使いきった二人が影達の後ろに隠れるようにして待機する。


 そして戦況の流れが変わり始める。

 護衛艦を失った戦艦は二隻とも戦闘機部隊との交戦でこちらに攻撃する余裕がなくなり始める。


「入電です。敵航空母艦を沈めました。第三次攻撃隊そのまま第一次攻撃隊並びに第二次攻撃隊の援護に向かわせます」


「わかった、二人共お願い」


「了解しました。こちら蒼龍です。攻撃隊の皆さん、そのまま味方部隊の援護に向かってください」


「こちら飛龍。全機爆速。急いで提督機の救援にお願いします」


 徐々に集まり始める影率いる攻撃隊の猛攻に敵戦艦一隻の砲塔が撃ち抜かれ、火を噴かなくなる。そして戦艦のあちらこちらから煙を上げだす。

 こちらの戦闘機も徐々に数を減らしながらも全力で奮闘する。


「赤城、加賀の第二次攻撃隊戻します。このままでは燃料が底をつきます」


 影がコクりと加賀の言葉に頷く。

 そして赤城、加賀がそれぞれの攻撃機に指示を出し、戦場から離脱させていく。


「こちらの皆さんも後五分が限界です。第三次攻撃隊の皆さんが合流したら戻して宜しいですか?」


「わかった」

 どうやら二航戦の方も限界が来たらしい。

 いまいち流れに乗っているようで乗れていない感はあったもののこればかりは仕方がないと思い、諦める事にする。

 砲塔が壊れ、攻撃の手数が減ってきているのは敵も同じ。

 ならば後はどちらが先に力尽きるかだけだった。


 しばらくすると、別方向から第三次攻撃隊が到着する。

 敵の注意を引きつけながら、攻撃に加わる第三次攻撃隊。

 それを確認した、蒼龍と飛龍が第二次攻撃隊を戦場から離脱させる。


 流石は敵の主力艦と言わんばかりにかなり苦戦を強いられる攻撃隊。

 こちらはもうすぐに出せる攻撃隊は残っていない。

 これで決めなければと覚悟を決め、再び再開された敵の攻撃に被弾しないように気を付けながらその様子を見守る。


 対空砲が次々と影の戦闘機を撃墜していく。

 他の戦闘機部隊はやはり慣れているのか、躱しながらも攻撃していく。

 そして影の戦闘機部隊を囮として、赤城、加賀の航空爆撃機から敵戦艦の直上から急降下し爆弾を投下する。

 まるで完璧なタイミングと言わんばかりに、敵戦艦に直撃する爆弾。

 そして戦艦の一隻が悲鳴をあげながら力尽き、夜の海に沈んでいく。


 後はスキル持ちの戦艦だけとなった。

 お互いに最後の力を振り絞り、戦う。

 だがこの敵戦艦があまりにも強く、攻撃機が中々近づけない。

 そう最後の一隻が。

 これだけ頑張っていても殆ど無傷とボス感を丸出しにしていたのだ。

 それはあまりにも怖く、気を抜けば全員を一掃してしまう火力を持った敵として。

 慢心はしてはダメだと思う。


「よくやったわ。そのまま最後の一隻をお願い!」


「全機、赤城隊の後ろに続いて!」


「皆さんも一航戦の方々の後に付いて行ってください!」


「蒼龍と同じく、皆さんお願いします!」


 残念ながら今の戦闘で影の戦闘機部隊は全滅してしまった。

 だがすぐに赤城が指示を出し、戦況を支えながら最後の一隻の撃墜に向かう。


「提督すみませんでした。提督機を囮にしてしまい」


「気にしないで。赤城の判断は正しかったと思うよ。おかげで後一隻になったんだから」

 と、申し訳なさそうに謝る赤城に影は笑顔で答える。


「そう言っていただけると助かります」


 だが影は薄々気づいていた。

 徐々にではあるが、向こうのスキル持ちの戦艦少女が少しずつ砲身を微調整し精度を向上させていた事に。そして対空砲でこちらの戦闘機部隊を相手にしながら、影達を狙う砲身の数に苦笑いしかできなかった。


「「きゃぁぁぁぁ!」」


 その時、少し離れた所にいた加賀と蒼龍が被弾する。

 一瞬で大破した加賀と蒼龍を見て、影が言葉を失う。

 これではもう戦えない。


「加賀!」


「提督、私達が囮になります。その間に逃げてください。あれはもはや戦艦ではありません。ただの破壊兵器です。残念ですが今の戦力ではあれに打ち勝つのは無理かと思います」

 それは撃沈を前提とした囮になると加賀が遠まわしに影に言った言葉だった。


「蒼龍!」


「はぁ、はぁ、はぁ。提督申し訳ございません。どうやらここまでのようです」

 蒼龍が片腕を抑え、息を整えながら謝る。


 赤城と飛龍が負傷した加賀と蒼龍に手を伸ばし、身体を支える。


 ……まずい。

 ――――まずい。

 まずい、まずい、まずい、まずいっ!


 このまま撤退した所で、航空部隊は殆ど壊滅。

 さらには加賀と蒼龍を失った状態で、フェルト島資源庫を奪還するだけの戦力はもうない。

 フェルト島の防衛を考えると、あちらには常にある程度の余裕を持たせておかないといけないのは明白。

 航空隊の壊滅は今後大きなハンデを背負う事になる。

 だがこのまま無理しても攻撃隊はいずれ一回戻さなければ弾薬切れを起こし戦えなくなる。

 戦艦との戦闘が始まってから、かなりの弾薬を使っているのは目に見えている。

 後何分持つ? 後どれくらい燃料が持つ? 後どれくらい攻めれば相手の余裕を奪える……と沢山の事が一斉に頭の中で沸きあがり情報の交通渋滞を起こした。

 ――何故気付かなかった。

 敵が仲間に被害が及ばないように火力をあれでも下げていた事に。

 どうして、あれが敵の全力だと思ってしまったのか。

 護衛艦が邪魔だと思い、周りから排除。

 それは一見正解のように見えて、不正解だった。

(考えろ、考えろ、何が今一番……正しいのかを)

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