第33話 奥の手


「――全軍後退する。 赤城、飛龍はそのまま加賀、蒼龍を連れて撤退! 菊月と夕月は索敵を続けながら四人を無事にフェルト鎮守府に! 急げ!」

 影が拳を握りしめながら、全員に撤退を認める。


「加賀、今のうちに」

「えぇ」


「飛龍ゴメンね。迷惑かけて」

「大丈夫」


「では皆さん私達が誘導します」

「ついて来てください」

 菊月、夕月が四人の動きを見て言う。


 そして全員が撤退を始める。

 それを確認した影が叫ぶ。


「全攻撃隊、怯むな。突撃しろ!」

 仲間の撤退の時間を稼ぐため、影の指示を聞いた攻撃隊全機が最後の力の一滴までを振り絞り突撃を開始する。


「悪いがここから先は行かせねぇ」

 そう言って、影。

 一人戦場に残る。


 赤城、加賀、蒼龍、飛龍、菊月、夕月が動かしていた足を止め、反転して止まる。

 そして、影を助けに赤城が動こうとした時。

 影が命令する。


「来るな! そのままフェルト鎮守府に戻って、すぐに敵の反撃に備えるんだ!」

 別に囮が加賀や蒼龍がする必要は何処にもない。

 だったら影がしても問題はない。

 何が何でも影には彼女達も守らなければならない理由がある。


「……かげていとくっ」

 砲撃が影に向かって容赦なく飛んでくる。

 そして六人の艦隊少女が影に逃げるように叫ぶ。

 だが――影は最小限のダメージで攻撃を受け流し前だけを見ていた。


「――セシル提督。これが私の提督としての意地です!」

 聞こえるはずもない相手に影は力強く宣言する。


 …………。


「加賀、蒼龍はここに。菊月、夕月は索敵をして周囲を警戒。ここならギリギリ提督のスキル効果範囲内。飛龍、後はお願い。私は影提督と最後まで戦います」


「……赤城さん」


 そして赤城が影の元に行こうとしたとき。

「「「「「「――――なに……あの攻撃機?」」」」」」


 全員が唖然とした。

 影は提督スキルの能力の効果を少し勘違いして覚えており、自分一人でも発動できると思っていたが、赤城の判断によりその誤差がなくなる。


「提督影。第三次特殊攻撃隊全機発艦!」

 影が最後の一本の矢を手に取り、敵戦艦に向けて放つ。

 矢は一直線に飛んでいき、五機の九七式艦上攻撃機となって飛んでいく。

 が、艦隊少女が知る影の九七式艦上攻撃機とは違った。

 まるで熟練のパイロットが操縦しているかのような熟練された動き。

 敵戦艦からの対空砲撃の隙が出来るまで、様子を伺い。

 敵が隙を見せたタイミングでの攻撃。


 正式名称:提督固有スキル。

 効果1:使用者を中心とした半径十メートル以内の味方の能力を五%上昇

 効果2:使用者を中心とした半径十メートル以内の味方の総合値の三%を自身の能力に付加

 効果3:効果2を付与した特別攻撃機の発艦5機 ※特別攻撃機は搭載機と同じ


 影が加賀達にずっと黙っていた効果2と効果3の力を持った攻撃機は影の最後の切り札であった。


「全機に告げる。提督機を援護!」

 その言葉に闇雲に攻撃する事を止め、全機が提督機の援護に入る。


 今までどちらかと言うと一方的だった敵の攻撃がやむ。

 また苦戦しているのか、影に対する攻撃がおろそかになる。

 影はこの時効果2の有効効果範囲をスッカリと忘れていたが、赤城の機転により助かる。


「全員ここにいましょう」


「でもそれは……」


「加賀達には言ってなかったけど、影提督のスキルは全て私達が提督を中心とした半径十メートル以内にいる事で発揮されるの。だから今はここにいましょう。幸い敵の目は今提督に全て向いているわ」


「……わかったわ」


「加賀さん」


「ここは提督を信じましょう」


「はい」

 そして赤城達は影をその場で見守る事にする。

 影は集中しており、赤城達が後方にいる事に気付かない。

 全神経を敵戦艦に向けているからだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る