第25話 動き出した心
「それからセシル提督が病で戦場に出れなくなってからは残ったこのフェルト島に全ての残存勢力を集結させることで何とか生存圏の確保だけはできました……」
赤城の手すりを握る手に力が入る。
きっと――とても悔しいのだろう。
――生存圏の確保と言っても時間稼ぎにしかなっておらず。
このままではいずれ滅ぶ運命なのは間違いなと思いながらも影が質問をする。
「……赤城……フェルト島に未来ってあると思う?」
「……――あって欲しいと願っております」
作り笑顔で赤城が答える。
あまりにもぎこちない笑顔でそれが意味する理由。
「……そっかぁ」
やはり赤城も心の何処かではこのままではダメだと思っているのだとわかった。
これを立て直すのは難しい。
例え影の知識を全て使っても出来る気がしなかった。
なぜなら。
「でもまぁ、一回も失敗できない状況に追い込まれれば普通そうなるよな……」
「――ていとく?」
「現実を見る事を止めて、昔はこうだった、あの時は良かっただの意味もなく嘆き、今を見ようとしない、そんな者達に未来はないのだと誰一人気づかないのだから」
「――えっ?」
「だからセシル提督は前だけを見て、戦おうとしたんじゃないかな」
――………………。
長い沈黙が二人の空間を支配するが、しばらくしてその沈黙が終わる。
「それはどうゆう意味ですか?」
赤城が影の方に身体を向け、質問してくる。
――そうセシル提督はきっと気付いていたのだろう。
これ以上の負けは許されないと。
だから厳しい統制で艦隊少女達を始め、この島に住む多くの者に前だけを見るように仕向けたのではないだろうか。
それでも結果はジリ貧だったわけだが。
そしてセシル提督は他界した。
それを機に厳しい統制にヒビが入り崩壊したのだろう。
「簡単に言うとセシル提督は最後まで希望を見た。他の者達は過去の栄光を見た。って所かな」
赤城が困惑顔になる。
例えそれが好きな人であったとしてもその後ろ向きな発言はイラッとしてしまった。
そして感情的になって影に言う。
「いい加減にしてください! 私達は今も一生懸命このフェルト島を護るために頑張ってます。それにセシル提督に会った事もない癖に知ったような口を聞かないで! セシル提督は貴方と違って偉大で優秀でとてもお強い方です! 思い違いも……あっ……」
赤城が何かに気が付いたように口を止めて、両手で口元を隠す。
影はそれを横目でチラッと見て、夜の街を眺める。
「言いたい事はそれだけ?」
「…………はい」
影はこれが赤城の本音なんだと確信する。
そしてこれがこの島に住む全員の意見の代弁なんだと。
プロセスではなく全ては結果で評価が決まる。
まるで社会人みたいだなと影は思った。
実にシンプルで実に単純な仕組み。
まるでゲームみたいだなと影は思った。
「それが答えか……」
影がスマートフォンをポケットから取り出し時刻を確認する。
そしてポケットに直して大きく背伸びをする。
「――うぅーん。そろそろ加賀達が来る頃か」
そのまま執務室に戻ろうと身体の向きを変えた影に赤城。
「……待ってください。そのさっきは……」
「あれが赤城の本音なんでしょ。ならそれでいいと思うけど?」
怒るわけでもなく、責め立てることすらしない影の言葉に赤城の胸が締め付けられる。
追い打ちをかけるように嫌われたくないと言った感情が赤城の胸を攻撃する。
いつもなら嬉しい影の微笑みがとても辛かった。
「…………」
思うように言葉が出なくなった赤城。
そんな赤城を見て影。
下を向き困った顔をする赤城の頭を撫でる。
「とりあえず今はフェルト資源庫の奪還に集中。それからありがとう。本音で話してくれて」
「え?」
顔を上げた赤城の目には涙があった。
そのまま影は赤城の涙を指で拭いてあげる。
「セシル提督はまだ生きてるよ。俺の中でね。そして後を託してくれた。短い時間だったけど色々と教えてくれた。だから……」
赤城がグズグズと鼻をすすりながら影を見る。
「――ここから始めよう。人類の本格的な逆転劇を」
「――――――え、ていとく?」
そのまま影が最後に赤城の頭をポンポンと優しく叩いて執務室の椅子に座ると、赤城が小走りで隣にくる。
「今から、提督として、奪われた領土を取り戻しに行くから。黙ってついておいでよ。そしたら良い物を見せてあげるからさ」
――赤城の心の中の不安が消えていく。
影のその言葉はセシル提督の言葉と比べるととても軽く威厳がなかった。
だけどそれは赤城の心の中で木霊するように何度も何度も何度も響いた。
目の前にいる提督はあくまで等身大で皆を導いていく人だと気が付いた。
そしてあの時死を覚悟し平然として身体を張った影は嘘を付く人物ではないと知った。
ならばきっと今の言葉にも嘘はないのだろう。
「――ここから始めよう。人類の本格的な逆転劇を」という言葉にも。
影の笑顔を見た時。
赤城の鼓動が高鳴る。
この人のお側にずっと一緒にいたいと。
だって近くで見れば見るほど、カッコイイんだもん。
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