第42話 気付いた想い



 あれから赤城に作ってもらった夜ご飯を食べ、お風呂に入り目が覚めてしまった影は赤城がお風呂に入っている間に赤城から取り上げられた本を手に取り読んでいた。読むと言ってもソファーで横になりゴロゴロしながらではある。


「やっぱり可笑しんだよな~。何でセシル提督の時だけ精霊王自らが進行してきたんだろう」

 影は今後すぐにというわけではないがいつか内政面でもフェルト鎮守府の提督として携わり良くしていきたいと考えていた。だけどその為には精霊王が攻めてこないと言う確信が欲しかった。もし精霊王が攻めてくる可能性があるならば、先にその対抗策を練る必要があるのだ。影は水雷戦に対しての知識があるわけでもなく航空戦に対する知識があるわけでもない。知っているのは誰でも知っているような内容だけである。その為、セシル提督のように臨機応変にすぐにどうするかを決める事が出来ない。


 だけど精霊王が仮に直接攻めて来ないのであれば先日同様にある程度何とかできそうと言う気持ちはあった。精霊王の襲撃に備えてから内政面となるとそれはそれでかなりの時間が掛かりそうだったのと、今より治安が悪くなるのではないかと言う不安があった。かと言って内政面に力を入れて精霊王が直接攻めてきた日にはフェルト鎮守府は間違いなく火の海となり地図から名を消す事になるだろう。


 だからこそ迷っているのだ。

 内政面の強化をしてから精霊王対策か、精霊王対策をしてからの内政面の強化かを。


 影がソファになり、仰向けになって寝転び、本の文字を見上げながら考える。


「う~~~~~~~~~ん~~~~~~~~~~~~~ぁ~~~~~~~~~~」

 声にならないうめき声をあげながら。

 やはり精霊王のスキルこれがわからないのが一番のネックだった。


「そもそも俺と同じでスキルに複数の効果があるとしても…………ふくすう?」


 何気なく発した言葉が影の中で妙に引っかかる。


「確かにスキルは一つだとして、なぜだれも効果は複数と思わなかったんだ……いやもしかしてそれについても書いているのか」


 影は手に持っていた本をしっかりと両手で持ち、ソファーから起き上がり、急いで本のページをペラペラとめくっていく。

 もしかしたら何かがわかるかも知れない。

 はやる気持ちを抑えながら、しっかりと目を通していく。


 ――十分後。


「やっぱりそうだ。精霊王の能力はここには一切予測でしか書かれていないが、スキルの数もしくは効果が一つじゃないような気がする。そしてそれらには恐らく何かしらの制約がある……?」


 もし精霊王が本当に未来を見る事が出来るなら今頃各地に広がり存在している鎮守府を全て消すことだってできる。だけど精霊王が本当の意味で無敗を誇ったのはこの本を通して知る限りだが防衛線においてだけだった。


 つまり精霊王は自分の本拠地でしかその力を扱えないのか、発揮できない可能性が高いと見た。もしそうならばセシル提督の作戦を見やぶれなかった行動にも納得できる。

 そしてこの時、影の頭の中ではもう一つの可能性が浮かんでいた。


「あの提督スキルに精霊王のスキルを邪魔する効果があった可能性もあるわけだが……仮にそうだとしても俺にはない。そして死ぬ前に後世にとスキルの能力を開示した者達の中にもそれはなかった……。そしてその者達がいた鎮守府はこの本にある場所に限りだが精霊王は自ら攻める事をしなかった……つまり今のフェルト鎮守府が精霊王に直接攻め込まれる可能性は限りなく低い気がする」


 確証はないが二つの可能性を影は考えた。

 だが、その二つの可能性を現状可笑しいと思わせる物は何もない。

 と言う事は少なくと現状は間違っていないのか、と影。


「と言う事は本当に精霊王の事は一旦無視していいと言う事か?」

 持っていた本を目の前にあるガラスのテーブルの上に置き腕を組む。

 ここの判断はフェルト島の未来にかかってくると思うと、これでもかと言うぐらいに慎重に考えさせられた。本音を言えば経済が回らなくなる前には何とかして内政には携わりたいと考えているのだ。

 今までそう言った事をゲームの中でしかしたことがない影が一から何かをするとなれば出来る事が限られている。

 そうなると急がないといけないわけだが……やはり精霊王。

 本当に一つの世界の小さな救世主にでもなった気分だった。


「う~ん、何とかしてもう一度セシル提督に会いたいところではあるが……それは無理となると自分で判断するべきなんだろうけど……これは悩む」


 天井を眺めて見るがやはり答えは出ない。


「ここは赤城に一回相談……いやこの話しを持ちだした時点で怒られるか」


 赤城からは今日はもう疲れているだろうから仕事の事は考えないでゆっくり休んでくださいと言われており、帰って来てから一回、夜ご飯を食べ終わって一回、赤城がお風呂に入る前に一回と何度も言われているのである。その為、この話しをすれば良くない事態に追い込まれる事が想像出来たのでしない事にする。


「あぁ~だめだ~。考えてもわからない。とりあえず今後は確率から考えてタイミングを見て内政の方に力を入れていこうかな……となると赤城に相談なんだが……明日以降タイミングを見てだな」


 お風呂場の方からは赤城の鼻歌が聞こえる。

 どうやら機嫌がいいみたいだ。

 ちょっとだけ一緒に入りたかったなと影は不謹慎にも思ってしまった。


「……にしても赤城ってお姉ちゃんみたいに優しいよな。それに頼りになるしダメな所はダメって言ってくれるししっかりしてる。それでもって容姿も綺麗文句なしだよな~」


 ちょっとだけこの世界にも沢山の男がいたらと思うと寂しい気持ちになった影。

 もしいたらきっと自分には興味すら示してくれないだろう。

 そして素敵な人と結婚して子供を産んで幸せな家庭を作っていたのだろうなと勝手に想像して勝手に嫉妬してしまった。


「あれ……もしかして……?」


 影はもしや? と思ったが気のせいと思う事にする。

 でないと今後どう赤城に接していいかわからなくなりそうだったから。


 いつの間にか隣に居て……。

 違う。

 この世界に来てからずっと気づけば隣にいた赤城に知らず知らずのうちに想いが募っていたんだなと実感する。

 よくよく考えて見れば影がここまで頑張れたのは赤城が隣にいつもいてくれたからなわけで、きっと自分一人だったらここまでは出来なかったと思う。

 だからこそなのかもしれない。

 こんなにも胸の中がモヤモヤするのは。

 赤城の期待に答え続けなければ見放されてしまうのかと思い、一人不安になり、それを誤魔化す為に時間さえあれば知識を身に着けようと必死だったのは。

 だったら今まで頑張ってこれたのは……全部自分の為と思いながらも……実際は赤城の為だったのかもしれない。

 そう思うと今までの自分の行動に全て納得がいった。


 今も何で内政面に影自身が携わろうと思ったのか今一度思い出してみる。

 あの日フェルト資源庫奪還作戦の前に執務室のベランダにて見た、あの顔が。

 手すりを握りしめ、悔しそうに歯を噛みしめる赤城の顔が今も脳裏に焼き付いているからではないのか。

 そう思うと、もうこの感情に気づいていないふりをし続けるは無理だとわかった。


「……気づけば、好きになってたんだな」


 こんな頼りがない提督では才色兼備な赤城が振り向いてくれる事もないと悟ると急に仕事に対するやる気が、モチベーションが、意欲がなくなっていった。

 頑張っても赤城は振り向いてくれない。

 それでも赤城が笑って楽しく住める世界を作ってあげたいとは思う……。


「あぁ~俺、ダメだ……。心の中がぐちゃぐちゃだ……はぁ~」


 既にこれ以上頑張りたいのか頑張りたくないのかそれすらわからない。

 初めて異性として好きになった相手が悪すぎた。

 そう思ってしまった。

 恋は人を弱くすると言うがどうやら本当らしい。

 こんなにもあれほど強く決心していた物が一瞬で脆く儚く崩れたのだから。

 少なくとも内政なんてする意味があるのかなと思えるほどには。


「……これからどうしよ」


 影は小さくため息吐く。

 この想いに気付いたからこそ。

 これからどう赤城と接していいか逆にわからなくなってしまった。

 だけどこの想いを伝えればきっと赤城は困った顔をするだろう。

 それなら伝えない方が絶対にいい。

 赤城の困った顔をこれ以上みたくないと影に訴えてくるもう一人の影がいた。

 明日から本当に平常心を保って接する事ができるだろうか。

 影の中での不安が大きくなる。

 これが恋なのだと。

 そして恋の力は本来であれば信じられない力を発揮させてくれる。

 かつて影がいた世界で恋の一つが国が亡びた程に恋の力は偉大で強力なのだ。

 だからこそ影は今こうしてフェルト鎮守府提督として何とかやっていけている。

 だがそれは偶然にも恋の力を知らず知らずのうちにコントロールし手懐けていたからなわけで、今はその力が影の手を離れコントロールを失っている。どう考えても今まで通りに何もかもが上手く行くとは思えなかった。

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