第11話 書斎でお勉強



 大広場が盛り上がっているうちに、さり気なく存在感を消して退場する影。

 そのまま出迎えるようにして後ろにいた赤城と合流した影は一目散に執務室へと向かった。そのまま部屋の扉を勢いよく開けてソファーにダイブする影。


「ふぇ~……ありえねー。マジで緊張した……」

 そのまま緊張の糸が切れた影が心の声を吐き出す。


「お疲れ様です。それにしてもまさか本当に等身大で話すとはビックリしました。いつもの優しい提督では威厳がなぁ~と内心密かに心配しておりましたが、その心配も必要なかったみたいですね」


「……赤城、次からはもっと前もって言って。マジで心臓に悪くて、死ぬかと思ったから……頼む」

 死にかけの声で影が言う。


「はぁ~い」

 疲れ切った影を見て楽しいのか、扉を閉めた赤城が対面にあるソファーに座りながら冗談まじりの返事をする。

 何かを言う気力すらないのか、全身の力を抜いてぐったりする影を見て。

 赤城は自身が徐々に影に対して気を許している事に気付く。

 そしてある事に気付く。

 ――影もまた気を許している事に

 それがまた嬉しい赤城であった。


「ところでここって調べもの出来る本とか置いてない?」

 ソファーから首だけをクルっと赤城のほうに向けて影が質問する。


「ありますよ。でも私で答えられる内容でしたらわざわざお調べしなくても答えますよ?」


「ありがとう。だけどそれじゃ赤城に迷惑がかかるから自分で調べるよ」

 影が全身に力を入れながらゆっくりと立ち上がる。

 ちょっとだけ残念な気持ちになった赤城。

 前の提督の時はそれが当たり前だと思っていたが、やっぱり影はセシルとは違う。

 そう感じれずにはいられなかった。


「では書庫にご案内致しますので付いて来てください」

 二人はそのまま書庫へと向かう。


 書庫に案内――違う。

 どちらかと言うと小中学校の図書室程度の広さの書斎に案内された影。

 赤城が鍵を開けて中に入ると、壁一面に沢山の本が本棚にビッシリと並んでいた。

 確かにこれだけあれば影の知りたい事はわかる気がしなくもなかったが……。


「これは……広すぎだな……」


 想像以上の広さと本の数に影の笑みが引きずってしまう。

 これでは本を探すのにも時間が掛かってしまうのと、さりげなく本棚を見ただけでも似たようなタイトルの本が沢山ありとても一日では読み切れる量ではなかったのだ。


「……赤城?」


「はい?」


「しばらくここに居てもいいかな?」


「別に構いませんが……提督でしたら必要な本を全て執務室に運んで読まれても構いませんんが」


「あっいや、それはいいや。下手したら数が……凄い事になりそうだから……」


「んっ?」

 影の言葉に赤城が首を傾げる。

 そのまま影はとりあえずフェルト島の歴史について書かれた本と精霊について書かれた本と初心者向けの闘いの基本について書かれた本を手に取り、書斎の中央にある対面式で六人掛け用のテーブルと椅子がセットになった席に腰を下ろす。


 唯一の救いはここでは日本語が通じ、本の文字が日本語で書かれた物が殆どだった事だ。


 すると赤城が近くにあった椅子を持って影の近くに来て座る。


「ねぇ、赤城?」


「はい」


「何してるの?」


「お側にいようかと思いまして」


「……用事がある時は探して呼びに行くし、何かあればここにいるから来てくれれば別にいいよって事で後は好きにしてていいけど?」

 影としては逆に赤城が近くにいると、赤城が気になって集中が出来なかった。

 そう言った意味でも一人の方が読書に集中できるわけだが。


「私が近くに居たら邪魔ですか?」

 赤城の気持ちを考えたら、ここまでよくしてくれる人に邪魔とは言えないので影が考える。そもそもなぜそこまでして一緒にいようとするのか。これも提督の補佐をする艦隊少女の役目なのかもしれないと考え方の視点を変えてみる。もしそうなら下手に何かを言っては逆に赤城を傷つけてしまう。


「ちなみにこれは仕事?」


「ん~まぁ、お仕事と言えばお仕事ですし、違うと言えば違いますかね?」

 赤城が何かを考えながら答える。


「今日の赤城の仕事は?」


「提督の補佐です」


「もしかして、暇なの?」


「はい」


 影が納得する。

 赤城は今仕事がなくて暇なのだと。

 ここは提督として仕事をと考えるわけだが、まだ何をしていいかわからない以上とりあえず仕事と呼べるかは置いといてまずは情報収集を含んだ会話をすることにした。


「なら赤城に甘えて、色々と聞いてもいい?」


「はい!」

 ここに来てから表情一つ変えなかった赤城の顔に笑みがこぼれる。

 どうやら頼って欲しかったみたいだ。

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