第一章 新米提督として

第6話 赤城と一緒にお風呂


 ――三年前。

 精霊達は世界各地で同時に姿をみせ、武装で身を固めており、世界相手に戦った。

 それはそれは、二年以上来る日も来る日も戦いに戦った。

 沢山の海で、数え切れないほどの死者を出しながらも。

 海も空も争いが途切れる事はなく、毎日悲鳴の届かぬ日はなかった。

 人間と同じく、知性を持つ者は共存を望まず殺し合いを望んだ。

 精霊達の旗艦を務める戦艦精霊王を中心に陣を組み人類を滅ぼそうとせんとした。

 大地の奥深くに逃げた人類に対しては航空戦力を使ってきた。

 その為人類と精霊の戦争は非戦闘員も巻き込まれる程に大規模戦闘へと発展した。

 豊かな森は精霊航空戦力によって焦土と化し、豊かな大地は失われた。

 そんな世に、多くの国が疲弊し、機能しなくなり、ついには資源も失われた。

 人間以上の身体能力を有した精霊の前では人は弱者でしかなかった。

 それでも人類は生き延びた者達で協力し、徒党を組む。

 そして反撃の機会を伺い、まずは生き残る事に専念した。

 そんな中、精霊達と同じく機動力を最大限に活かし戦う艦隊少女が誕生する。

 この空と海、そして大切な人を取り返す為、精霊達に立ち向かうのであった。

 または愛する者を殺された者は復讐の為に立ち上がり、少女達の反撃が始まった。

 だが、それでも失われた領土の一部しか取り返す事が出来なかった。

 空が、海が、戦場となる世の中。

 朝も昼も夜も、少女達の闘いは行われた。

 そんな時、艦隊少女の力を受け継いだ男児が誕生する。

 人はこれを進化と呼んだ。

 艦隊少女の力と提督としての力を手に入れた男児は世界でその数を少しずつ増やす。

 そして、艦隊少女達は自分達の力を更に強力にしてくてくれる者をこう呼んだ。

 ――提督と。


 提督となった者達は、まず人類に残された領土の確認をし。

 艦隊少女達と協力して、自分達の生存圏の確保に全力を注ぐ。

 そして艦隊少女達に力強く語りかけた。


 ――提督として伝える。

 復讐心だけでは、精霊には勝てない。

 上位個体である精霊に勝つには、

 まず自分達が弱者だと認める事から始めなければ、

 いつか人類は滅ぼされるだろうと。

 そして弱者だと知った時、更なる力を手に入れる事ができる。

 その時、提督の力は更に向上し艦隊少女に更なる力を与えるだろうと。


 それから各鎮守府に着任した提督を中心に艦隊少女達は戦い続けた。

 だが人類と精霊の闘いは両者の力が拮抗し、戦争そのものが停滞し始めた。

 特定の艦隊少女しか強化できない提督の力はそこまで万能ではなく。

 それ以外の艦隊少女に対する後押しは出来なかった。

 ついには提督自ら戦場に出るように時代へと時は進んでいく。


 かつて最も多くの艦隊少女から支持を得た提督の名は『セシル』。

 そしてそれは精霊王すらもが警戒した提督の名。

 彼の提督スキルは配下の艦隊少女全員の能力と。

 自身の能力を大幅に強化する物だった。

 まさに神の力だったとある者はそう言った。




 ライト王国――首都フェルト島――中央区二番地。

 あれから影と赤城は鎮守府に戻る前にある所に立ち寄っていた。

 海にダイブし、初めての戦闘に冷や汗をかいた影の身体がベトベトしている事に気が付いた赤城は影を自分の家に案内していた。


「てかこれどう見ても広すぎだろ……」

 タオル一枚腰に巻いた影は色々と驚いていた。


「そうでもないですから、ほらそこに座ってください」

「あ……うん。てか何で二人でお風呂なの?」

「説明ですか? それは簡単です。鎮守府ではまだ正式に提督として着任してない影提督が鎮守府の女性しかいないお風呂場に行けばどうなるか目に見えているからです」

 ここで影はこの鎮守府に男は自分一人しかいない事を思いだす。

 男と女が半々ぐらいいる世界にまだ感覚が慣れているせいか、どうもこの世界は日常生活においても慣れるまでが色々と大変そうだった。


「……うん。そうだね、それでなんで俺、赤城に頭洗って貰ってるの?」


「それはもしや……私じゃ不満と言う意味ですか?」

 赤城の声が急に弱々しくなり、頭を洗っていた手が止まる。


「そうじゃなくて。自分で洗えるからわざわざしなくてもいいよって意味……です」

 赤城が安心したのか安堵してから手を動かす。


「それは……ほら……あれですよ……。若い男性は今一人しかいませんし……提督がほら……見てて可愛い……から、その……あれです……私も女ですし……今のうちに……好感度を……です」

 と急に照れ始める赤城。

 それにさっきから感じてる背中に当たる二つの塊が影の若い身体を刺激する。

 これは俗に言う……ハーレムフラグ!

 と喜びたいところではあるが、迂闊に表に出せばドン引きされるかもしれないのであくまで冷静を装う。


「ちなみにこの大浴場は私が家族と住んでいた時に使っていた物です。だからまぁ気にしないでください」

 その時、ふと思う。

 赤城に身体を洗ってもらう事は今まで生きて来て一番気持ち良かったかもしれないと。

 一応言っておくが、変な意味ではない。


 指の腹で程よい力加減で優しくマッサージをするように洗い、最後にリンスをして洗い流す。これがまたとても気持ち良かったのだ。


 後は背中を洗ってもらった。

 流石に前は恥ずかしいので自分で洗ったが。

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