第5話 初めての戦闘
これからの事を考えると、生き残るためには必要なことと頭では分かっているがため息しか出てこなかった。
「ほら、そんなにため息ばかりついていたら幸せが逃げちゃいますよ?」
「そうだね……」
「とりあえずこの辺から偵察機を飛ばしておきましょう」
そう言うと赤城は「見ててください」と言ってから、その場で止まり矢を上空に向けて一本放つ。すると、放たれた矢が五メートル程直進すると、五機の偵察機に分裂し大空を飛んでその場で待機する。
「提督もこの矢を使ってやってみてください」
赤城が影の腰にある矢の一本を手に取り、手渡して来る。
影はそのままその矢を受け取る。
「うん」
そして赤城と同じように上空に向けて矢を放つ。
すると勢いよく飛んでいくと同時に矢が二機の偵察機に分裂する。
「なら、提督の子達と一緒に偵察をおねがいね」
赤城が上空で待機する偵察機に向かって叫ぶと、早速合流した偵察機隊が大空を飛んでいった。進路は敵がいる南西方面方向だ。
「とりあえずここで偵察機が帰ってくるのを待ってから、迎撃しましょう。本当はもう少し奥でしたいですが、下手に深追いをして敵の増援でも来たら大変ですから」
「うん」
「それより意外に手慣れてますね?」
「そうかな? 昔、弓道してたからかな?」
「なるほど。通りで矢が綺麗に真っ直ぐ飛んでいったわけですね」
納得した赤城が笑顔で返事をしてくれる。
弓道をしていて今日程良かったと思った日は正直なかった。
当時は好きな女の子と一緒にいたい! 仲良くなりたい! と言う不純な気持ちだけで三年間頑張って来た影だったが、これがまさか命を懸けた戦いの手助けとなったのだから。
海上の波は落ち着いており、潮風がとても気持ち良かった。
海の青は心の不安を優しく包み込んでくれるようだった。
深呼吸をしていると、頭の中に伝令が直接入ってくる。
『敵水雷戦隊発見。数、五。今から二分三十秒後に接触します』
「今頭の中に偵察隊の子達が報告をして来てくれています。これに対して声を出すか、頭の中で指示を出すことであの子達に直接指示を送る事が出来ます。まだ敵には見つかっていないみたいなので一度後退するように指示してみてください」
赤城の言葉に頷いてから、目を閉じて、祈るようにして指示をしてみる。
『戻って来れる?』
『了解』
するとすぐに返事が返って来たので、影は驚いた。
まさか本当に会話が出来るとは思わなかったからだ。
それとこれはもはやテレパシーのように感じた。
まるで通信機を必要としない会話だった。
ちょっとした超能力者気分になれた影が目を開けると赤城が視界に入って来た。
「出来ましたか?」
「うん」
「流石です。今と同じようにして自分の子達とはいつでも会話ができますので覚えておいてくださいね。では敵が来る前に攻撃隊の皆さんに倒して貰いましょう」
「わかった」
影が頷くと、赤城が矢を構える。
真剣な表情でまだハッキリとは見えない精霊が見えているかのように、ただ一点を見つめて矢を放つ。
「第一次攻撃隊、全機発艦!」
影も急いで赤城と同じように攻撃隊を発艦させる。赤城の攻撃隊を先頭にして影の攻撃隊も後ろをついて行く。
「後はあの子達が勝手に全部してくれます。多分負ける事はないでしょうし無事帰ってくることを祈りましょう。私の子達はかなり強いですから」
『伝令。前方左45度より急速接近敵艦発見』
突然聞こえてきた声に影と赤城が言われた方向に目を向ける。
すると、一隻の駆逐艦が急速接近してきた。
よく見れば、赤城とは違った50口径12.7cm連装砲と40mm機銃更には6.5mm機銃を装備して近づいて来ていた。砲塔は当然こちらに向けられている。
それを見て、つい動揺してしまう影。
このままでは殺させる。
初めて経験する恐怖に全身が動かなくなる。
そして頭が生きる事を諦める。
「第二次攻撃隊、全機発艦! 速やかに敵を殲滅してください!」
赤城は落ち着いて第二次攻撃隊を発艦させて対処に入る。
「提督、失礼します!」
そのまま影の手を取り、全力で回避行動に入る。
それと同時に駆逐艦の機銃が発砲される。
赤城のおかげで間一髪で躱す事に成功した。
影はそのまま手を引っ張られながら、人型の精霊に目を向けると、赤城の攻撃機と交戦を開始していた。
「あの子達いつもより良く動いている……これが影提督の力」
手を引っ張られながら影が攻撃機と駆逐艦の戦闘を遠目に見ていると隣から声が聞こえてきた。その声は何処からず驚いているようにも見えた。本人としては何もしてないので違和感しかなかった。
影が大丈夫かと心配しながら見ていると、精霊の武装が次々と煙をあげ壊されていく。
そのまま大破した駆逐艦が海に沈んでいく。
これが戦争だと、これが殺し合いだと、知った影はつい言葉を失ってしまった。
気を抜けばいつか自分も沈んでいった敵と同じ運命を辿るのだと。
思わずゴクリと息を飲み込んでしまった。
「提督大丈夫ですか?」
「あ、うぅ、……うん」
「大丈夫ですよ。何かあれば私達が必ず護りますから」
「ありがとう」
とりあえずは命の危険がなくなった。
これも赤城のおかげだと感謝する。
この世界に来て右も左もわからない影に丁寧に色々教えてくれるだけでなく面倒を見てくれているからだと。
でも彼女はミッドウェー海戦にて……。
いやこの話しは考えないでおこう。
何もこのこの世界が歴史を元に動いているとは限らない。
もしそうならきっとそうならない未来だってあるはずだから。
すると、攻撃隊から入電が来る。
『伝令。敵艦隊殲滅。今から帰還します』
『お疲れ様。ゆっくり戻って来ていいよ』
影は頑張ってくれた攻撃隊の子達に頭の中でそう返事をした。
すると、赤城が頷いてくれた。
「早速、一人でも会話ができるようになりましたね」
「うん。赤城?」
「はい」
「いつか赤城達を護れるくらいに俺強くなると約束するよ」
影はこんな自分を受け入れてくれた赤城に恩返しをする為に強くなることを誓う。
すぐに元居た世界に戻れないのであれば、まだ会った事もない艦隊少女達を仲良くした方が益があると判断したからだ。
そしてそんな艦隊少女達が困ったときは、いつかきっと護ってあげられるぐらいの存在になれたらなと思った。
「はい。では近い将来そうなる事を願っております。とりあえず一旦私達の基地――鎮守府に戻りましょう」
赤城は笑顔でそう言うと、まだ水上での移動が慣れてない影のペースに合わせて一緒に帰宅してくれた。
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