第23話 セシル提督との会話



「提督一つだけ我儘を言ってもいいですか?」


「いいよ」


「……私達艦隊少女を救っては頂けませんか?」

 赤城の真剣な瞳は、影だけの姿をしっかりと見ている。

 提督としての答えはただ一つだけ。


「わかった。できる限りの事はやってみるよ」

 すると赤城が笑顔になる。

 その時、影は急な睡魔に襲われ、大きなアクビをする。

 久しぶりに頭を使って、疲れが溜まっていたみたいだ。


「もしかして、眠いのですか?」


「うん……ふぁ~、まぁね」


「ならお部屋にご案内しますね」

 そのまま寝室に案内された影はお布団の中に入って深い眠りについた。



 ――ここはどこだろう。

 辺り一帯は暗く身体が沈んでいる感覚。

 海? しかし水の冷たさは感じられず、全身に力が入らない。しばらく身を流れに任せていると一筋の光が目に入ってきて、さっきまで真っ黒だった視界が急に真っ白になる。

 真っ白な世界の中から今度は、人の声が聞こえてくる。

 その声は少し前に聞いたことある声だった。

 そして声の主が影の前に姿を現す。


「久しぶりじゃの。 どうだ影、元気にしておったか?」

 影は疑問に思っていた事を聞いてみる。


「誰?」

 男は影と同じく提督の軍服を着ており、貫禄がある。

 顔にはたくさんの傷があり、白髪混じりの黒髪短髪で体格が良かった。


「そうか。この姿で会うのは初めてか。名はセシル。お主をこの世界に呼び、フェルト鎮守府提督だった男と言えばわかるか?」


「貴方が……セシル提督……」

 セシルは懐から煙草を取り出すと、火をつけ吸い始める。


「お主はやかったのぉ。まさか赤城だけとはいえこんなにも早く信用されるとは正直予定外じゃ」


「……はぁ。それで幾つか聞きたい事があるのですが宜しいですか?」


「よいぞ」

 そう言ってセシルは煙草を吸いながら、近くにあった椅子に腰を降ろす。


「聞きたい事は三つです。一つ目、なぜ赤城に最後の事を伝えたのか。二つ目、なぜ俺をこの世界に呼んだのか。三つ目、どうやったら元の世界に戻れるのかです」

 セシルは煙草の煙を吹かしながら、「ふむふむ、そうくるか」と言って無精ひげを触り始める。

 影はそんなセシルを黙って見る。


「まぁ良いか。一つ目の質問の解は、赤城を救いたかったからじゃ。もっと言えば赤城以外の艦隊少女もじゃが流石に全員に伝えるのはどうかと思ったからと答えておく。二つ目の質問の解は、お主この手のゲームは得意じゃろ。ただそれだけだと言いたいが理由はもう一つある」


「もう一つ……」


「そうじゃ。ワシは厳しい統制を取る事で艦隊少女と共に精霊と闘った。だが、彼女達は次第にワシの厳しい統制に疲れを見せだした。そこでワシとは違う者で後任が務まる人間が必要だったのじゃ。知識や経験はなくとも相手の気持ちを理解し寄り添える者がな」

 あの時赤城が言っていた通りセシル提督はセシル提督で赤城達を護ろうとしていた事がわかった。そしてゲームの知識、つまりこの手のゲームが得意と言う事はこれもゲーム感覚ですれば現状を打破できると言う事なのだろか。影が色々と頭の中で考えているとセシルが二本目の煙草に火をつける。


「最後の質問の解はお主がもうしてあげようと思っとることじゃよ。赤城達と共に精霊王を倒せば元の世界に戻れる。ただし精霊王を倒した異世界から来た提督一人だけが戻れる。連合艦隊本部はあてにするな。だが異世界から来た提督は皆自分達の世界に戻る為にラスボスの役目を果たす精霊王の命を狙っておる。それ故、基本仲が悪い時には嘘を付き、騙す事もある」


「…………」


「だが、気を付けろ。ワシもこの世界から戻ろうと何度も思ったが精霊王は強い。今まで何人者提督を返り討ちにしてきた。いざ闘おうとすると可笑しい事が沢山出てくるのだ。こちらの奇襲は全て読まれており、作戦も筒抜けだったりと……」


「……それは」


「そうまるでミッドウェー海戦の日本軍のようじゃ。ワシより凄腕で仲が良かった友人の提督もそれで負けた。遂には誰一人勝てなかった。結局ワシは自分の願望より赤城達に一日でも長く生きて欲しいと思い戦いはしなかったがな」

 まさか精霊王を倒す事がここの世界を脱出する方法とは思わなった。


「ちなみにこの世界で死んだらどうなるんです?」


「現実世界でも肉体が死ぬ、ただそれだけじゃ。故にワシはこの世界でも元居た世界でももう死んでおる。そして、お主に全てを伝えた後、ワシは最後の役目を終えこの世界から抹消される」

 影が大きくため息をつく。

 つまりこの世界を脱出する為には精霊王を倒さなければならない。

 だがその精霊王はかなり強く、一度も負けた事がない。

 かと言って一か八かの特攻を仕掛けるにも、こちらの手は全て読まれている。

 そして一度でも死ねば、その場でゲームオーバー。

 かなり部が悪いゲームだなと影は思った。


「まぁ、そう悩むな。ワシと同じく知識に縛られた人間では無理じゃったが、お主は知識がないゆえに縛られることも少ない。それがお主の強みじゃ。後は優しい所かのぉ。お主がこの世界に来てずっと見ておったが少なくともワシはそう思った。だから申し訳ないが後は頼んでよいか、影提督?」

 セシルは二本目の煙草を吹かし終わると、影の顔をジッと見つめる。


「わかりました」


「ならワシから最後のヒントをやろう。フェルト島資源庫の奪還は第一航空戦隊を起用するといい。そして見事奪還できた暁にはフェルト鎮守府にて反撃ののろしを上げると良い。さすれば多くの者から認められるじゃろう。これがワシに出来る最後の事じゃ。では、期待しておるぞ影提督……」

 そう言うとセシル提督の身体がどんどん透けていき、最終的にはこの場からいなくなった。


「セシル提督……貴方は最初からこうなる事を予想していたのですね……。フェルト資源庫から一部の資源を運搬させていたのもこうなる事を……予想してですか……。だとしたら貴方は……」

 影は鼻で笑いながらそう言った。

 しばらくすると、強い光に影の意識が飲み込まれた。


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