第2話 とりあえず記憶喪失
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「う、うぅーん……」
視界を覆っていた闇が少しずつ晴れると、綺麗な天井が見えた、
見覚えはない。
影は視線を泳がせて、自分の状況とこの場所が何処なのかを把握しようとした。
「あら、お目覚めですね」
不意に耳元で声がした。
影は部屋の観察を止め、声が下方向に視線を向ける。
そこには、一人の少女が果物ナイフを持ち、リンゴの皮をむき。一口サイズにカットしている途中だった。
「まったくどこの世界にパラシュートなしでスカイダイビングしてこのフェルト島に着任される提督がいるんですか。流石の私も焦りましたよ?」
少女は少し呆れているようだ。
とは言っても影が少女の立場だったらきっと同じ事を今頃思っていたと思う。
「……こっ、ここは?」
「まだ寝ぼけておられますか? ここはフェルト島と言って人類に残された数少ない領土の一つです。影提督は前任のセシル提督に変わり、このフェルト島を海洋少女達から護って頂く予定なのですが……本当に大丈夫ですか?」
――聞きなれない単語の数々。
――だが何となくわかった事がある。
これは今日ゲーム屋で買ったゲームの中だと言う事だ。
この手のフラグは大体が現実世界に戻れないと言うおまけ付きなわけだが……。
となるとやる事は一つだった。
提督としてこのフェルト島を護るため、少女達と協力し戦っていくこと。
この世界で死んだらどうなるかわからない以上、そうするしか道はなさそうだった。
となれば、まずは演技をしながら、状況の確認をする。
「まぁさっきのエンターテイメントって事で気にしないで。それよりゴメン。自己紹介と現状を教えて欲しい。後は俺のやるべきこと等を詳しく」
目の前にいる少女が首を傾げる。
「環境が変われば細かいルールとか違うのと、コミュニケーションと言う意味でも自己紹介をしてくれた方が皆の事を早く覚えられるからね」
とりあえず笑って誤魔化しながら適当に即興で作った言い訳をあたかも正論かのように言ってみる。
「なるほど。これは失礼いたしました。私は航空母艦の赤城です。前提督のセシル提督より影提督が着任するまでの間、このフェルト島の全指揮を任されております」
赤城は腰下まである赤い髪に顔も整っておりとても綺麗な容姿をしている。また何処か落ち着いている雰囲気が印象的で優しいお姉ちゃんって感じだ。
「そしたら、私の子達が提督がスカイダイビングをしていると入電してきたので私が急いで向かった所、提督が海面で寝ていたのでとりあえずお運びしました。ですから今から提督は私に変わりに艦隊少女に指示をしてフェルト島を護って頂ければと思います」
「そうじゃなくて、今この世界? 島? がどういった状況なのかを説明してもらってもいいかな? 後俺が現状できる事とからあれば具体的に」
あの戦闘機の少女達は赤城の子だったのかとわかった。
てっきり何処か遠くに行ったときは見捨てられたかと思ったがそれは勘違いだったみたいだ。
すると赤城が人差し指を唇に当て、何かを考え始める。
なぜそんな事を言いたい気持ちを薄々察しながらも、影は赤城が答えてくれるのを静かに待つ。
「三年前ですかね……ある日、海を支配する者達が現れたのは。ちなみに私達はその者達を総称して精霊と呼んでいます。精霊は私達と同じく、それぞれが戦艦や空母と言った兵器を武装として装備する事が出来ます。そして精霊はそのまま数に物を言わせて瞬く間に世界を支配しました」
赤城の言う世界観と影がいる世界観はどうやら全然違うらしい。
「そこで人類も対抗する為に艦隊少女を作りました。とは言ってもただの女の子が武装を装備して戦うって感じですが。ただこの世界男性は殆どいません。まぁ理由は簡単で精霊達は全員が女性なので繁殖するためにも力作業をするためにも人間の男は貴重だったらしく殆ど全員連れて行かれましたので」
全然嬉しくないハーレム世界だなと影は思った。
つまりそれは自分も連れて行かれるかも知れないと言われているわけで。
仮に連れて行かれたらどうなるかは想像しただけで嫌な予感しかしなかった。
「ちなみにこのフェルト島はセシル提督がお亡くなりになられたので男性は今影提督だけです。後は……そうですね。提督になれる方は限られています。ある意味才能がないとなれません」
「才能?」
「はい。提督の方は皆様提督スキルと言う物をそれぞれお持ちです。その提督スキルは戦場に出て経験値を積めば積むほど強力になります。スキルはそれぞれの提督の方によって違いますので予め確認をしておいて頂ければと思います。発動回数に制限がある物、ない物、後は効果範囲とかが違いますので。他に聞きたい事はありますか?」
『提督スキル』初めて聞く名前に少し戸惑いを覚えたが何となくこれが大事だと言う事は今までのゲームの経験上から察した。
だが、ここで問題が起きる。
それは提督でありながら、実際に戦場にでなければならないと言う事だ。
さっきの赤城の話しが正しければこの世界にはスキルを強化する為の経験値的な物が存在するらしく、それを獲得する為には戦場に出て敵を倒さなければならないみたいだ。
「その提督スキルを確認方法と使う方法、後は俺は戦場に出るときどうしたらいいの?」
「その説明必要ですか?」
ついに赤城がめんどくさそうな視線をハッキリと影に向ける。
だが、こちとら初心者!
何も知らないまま知ったかぶりで戦場に出るほど、無謀な人間ではないのだ。
「いや……実は……さっき海面に頭打ったみたいで記憶がね……」
このままでが立場も危うくなると考えた影はとりあえず記憶喪失と言う事にしてこの場を乗り切る事にした。
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