第8話 て・い・と・く!?
――そして十分後。
サラサラになった影の髪を見て、赤城は内心ホッとしていた。
お風呂で無精ヒゲを剃り、髪の毛も乾かしサッパリした影が思っていたより爽やかな好青年である事に気付いたからだ。
そして。
(これならドキドキしても仕方がない)
と、自分に言い聞かせるように心の中で何度も何度も繰り返す赤城。
そしてようやくこの気持ちの正体に赤城が気付く。
これが恋なのではないかと……。
初めて自分に優しく、物や兵器としてではなく。
一人の少女として接してくれた者に対する気持ち。
年が近い異性とはとても素晴らしい事だと赤城は思った。
「ちなみに夜までお時間がありますが何かしたい事とかはありますか? もし良かったら、その……ご一緒したいのですが」
とりあえず髪が乾いたので、何をしたいか聞いてみる。
その時、影の笑顔がとても眩しく感じた。
「なら街でも案内してくれるかな?」
「はい! では早速行きましょう!」
つまりこれは街の案内を名目にしたお互いの仲を深める為のデートのお誘い!?
赤城はそのまま影の手を取り、家を勢いよく飛び出た。
そのまま影はフェルト島の中でも鎮守府に近い場所を色々と案内された。
その時の赤城の顔は戦場とは違い、一人の女の子でとても楽しそうだった。
この時、二人はまだ知らなかった。
恋心一つで人は強くも弱くもなれる事を……
――翌日。
影と赤城は翌日の朝を、赤城の家で迎えていた。
太陽の陽がカーテンの隙間から差し込み赤城が瞼を擦りながら目を覚ます。
隣を見ればまだ気持ちよさそうに寝ている影。
この家には空き部屋は幾つもあるが、来客を想定いなかった為、使えるベッドは一つしかなかった。影ならば身の危険もないと判断した赤城は添い寝をすることにした。とは言ってもベッドもまたキングサイズと大きく二人で寝てもスペースはあり快適に寝る事が出来た。
「あら……まだ寝ておられるのですか……。まぁ昨日の今日ですし少し多めに見てあげましょうか」
そう言ってベッドから起き上がる赤城。
今日は影にとって大事な日である。
そんなわけで赤城は気合いが入っていた。いや恐らく多くの艦隊少女も新提督の着任を楽しみにして気合いが入っている気がしていた。それだけ前提督の後任として選ばれた影に対する周囲の期待は高かった。まず大きく背伸びをして部屋のカーテンと窓を開ける。そのまま空気の入れ替えをしてから影をおこさないようソッと部屋を出ていく。
そのまま朝風呂、朝食、身支度を素早く終わらせてからまだ寝ているであろう影がいる部屋に戻る赤城。
気持ちよさそうに寝ている影の身体を両手で揺らして起こす。
「ほら、いい加減起きてください提督」
「うぅ~ん、おはよう~」
「はい。おはようございます」
瞼を擦りながら渋々目を開ける影。
「もう少しだけ寝たいんだけど……ダメ?」
「ダメに決まっています。今日は提督の着任式があります。ですから余裕を持って鎮守府に行きますよ」
「わかったから、赤城落ち着いて」
影は昨日寝る前に枕元に置いた物に目を向ける。
唯一元の世界からこちらに来る時にポケットに入れていたスマートフォンの画面を見て時間を確認する。
「まだ、6時04分なのに……」
大きなアクビと背伸びをしながらようやく起きあがる影。
郷に入っては郷に従えとも言うしここは素直に赤城の言う通りにしておく。
まだ半分寝ている頭で考えて見れば、着任式って何時から? と言うレベルで今日一日のスケジュールさえ知らないのだ。
「う~ん」
「朝ごはんを作りましたが食べますか?」
影が赤城を見ると少しモジモジしている。
きっと緊張でもしているのだろう。
普段なら面倒くさいので朝ご飯を食べないが、わざわざ作ってくれたのであれば赤城の好意に甘える事にする。
そして用意された朝ご飯を見て影はある事に気づき思う。
朝からクリームシチューは少し重たい気がすると。
赤城は胃もたれとか考えていないのかな? とつい思ってしまった。
「いっ、いただきます」
試しに影は一口食べてみる。
すると口の中でシチューのまろやかさが口全体に広がり、野菜のおいしさのハーモニーで一杯になる。
「おっ! これはおいしい。赤城ありがとう」
「はい。……はぁ、よかった」
胸に手を当て、安堵する赤城。
朝のメニュー選びのセンスはちょっと残念だが、料理の腕は確かなものらしい。
「ご馳走様。なら洗面所借りるね」
朝ごはんも食べ終わったので、影も朝の身支度を終わらせる為、洗面所に向かう。
部屋に戻ると赤城が待っていてくれた。
「今日からはこれを来てください?」
「うん……これは?」
影は赤城から渡された服を見て疑問に思う。
「見る感じ偉い人が着るような服にしか見えないけど……」
突然、二人しかいない部屋に赤城の声が響く。
気持ちが高ぶってるのか朝からとてもテンションが高かった。
「か・げ・て・い・と・く!!!」
驚く影。
「提督がフェルト島の鎮守府の中では一番偉いんです!!!」
あまりの迫力に影は頷く事しかできなかった。
そう言えばこの世界ではただの一般人ではなく提督だったと思い出す。
堅苦しいのは嫌いだがどうやら雰囲気的にも着る以外の選択肢はなかった。
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