槍とルイ〜伝説の武器の力を借りて箱入り娘は旅に出る

第5話 勇者を助けに

　兵士の格好をした二人組に連れられた道を戻る。

「ねえ、ラウ。私、どこへ行ったらいいのかな？　やっぱりお城に助けを求めに行くべきかな？」

『いいえ、それはダメです。さっきの二人は王宮からの刺客のようですので』

「え！　そうなの？」

『二人が来ていた鎧も本物でした。それに、王の遣いを語る悪党にしては情報を得るのが早すぎます。本当に王からの命で来たのでしょう』

「……どうして私が王様から狙われないといけないの？」

『……説明は後にさせてください。今はともかく、ここを離れましょう。この国内に安全なところはすぐに無くなるでしょうから』

「そんな……」

　足取りが重くなる。

　昨日の選考会で選ばれたことも衝撃だったけど、まさか故郷の国から命を狙われることになるなんて……。

　私、そんなに悪いことしたかな？？

　ああ、ダメ。

　今は泣いちゃダメよ、ルイ。

　ラウの言う通り、ここから離れなきゃ。

『まずは誰にも見つからないように、西の見張り台跡を目指してください。今は使われていないはずなので、そこに一時身を隠しましょう』

「西のみはりだいあと……」

『大丈夫。道順は案内します。まずは橋の手前まで来た道を戻ってください』

「ん。わかった」

　ラウの言うことはいつだって正しかった。

　ラウはいつだって頼りになる。

　言われた通り来た道を戻りながら、ラウに話しかける。

『でも、さっきの攻撃すごかったね！　ピカーーーって！』

『あれくらい朝飯前です』

『じゃあじゃあ、もっとすごいこともできるの？』

『それにはルイの能力が上がる必要がありますね。そうしたら、山一つは吹き飛ばせるようになります』

『えっ！　本当に？！』

『……すみません、言い過ぎました』

『えー！　何よそれー！』

『けれど、森一つくらいならトばせますよ』

　……十分すごかった。

『あ、そうだ。どうして私がこの国から狙われてるのか、教えてよ』

　そう、それが知りたかったんだ。

　勝手に勇者だと祭り上げた翌日に”召されろや”なんて冗談がすぎるよ！

『それは簡単です。私がほしいからでしょう。他の伝説の武器の消息が不明になったのでせめて私は確実に手元に置きたかったのでしょう』

『……それって、私が頼りないから？』

『……はい、そうです。なので、私を王の息のかかった使い手に渡すつもりなのでしょう』

『そっか、なるほどなあ』

　やっぱり、最初っから私が選ばれない方が良かったんじゃ……。

　自分が選ばれたことを申し訳なく思い、視線が地面に落ちる。

　そしたら、カドニさん達がやられることもなかっただろうし……。

　みんな、いい人だったのになあ。

　……ん？

　ちょっと待って。

「私を選んだのって、ラウだよね？！　どうして私を選んだの？　絶対私より強い人いたよね？！　っていうか、私より弱い人があの場にいたとは思えなかったし！」

『……』

　ラウからの返事はなかなか返ってこない。

　ラウが言葉に詰まるなんて、とても珍しい。

　けれど、この答えはどうしても聞きたい。

　私が「どうして？　答えてよ！」と尋ねて足を止めると、ようやくラウが答えてくれた。

『あの場に、”綺麗な心”を持った人がいなかったからです』

「綺麗な……心……？」

『ええ。正確には”いなくなった”が正しいですかね。私の前に選ばれた三人以外は、不純な動機や汚い心の者ばかりでしたので。私、そんな人の元で百パーセントの力が出せるとは到底思いませんので』

「うう……ラウぅ……」

　私となら百パーセントの力が出せるっていうの？

　ああ、今度は嬉し涙が出そう。

「でも、じゃあ一番最後で残念だったね。三番目までに選べたら綺麗な心を持った勇者を選べたのにね」

『……そう、なんでしょうか？』

「……え？」

『私が一番最初に選ぶ立場でも、ルイを選びましたが』

「〜〜〜っ！」

　さらりと嬉しいことを！

　ラウも私と一緒にいたいって思ってくれてるんだ。

　ああ。本当に嬉しい！

『あ、もう見えましたね。あの赤い旗が目印です』

　話の合間にラウの案内をもらいながら歩いていたので、目的地が見えてきた。

「あれが、見張り台跡……」

　老朽化した石造りの高台だ。

　周りも植物が生い茂っていて、人の気配は全くしない。

　確かに、あそこならしばらくやり過ごせそう。

「お邪魔しまーす……」

　キイイとなる木製のドアを押し開けて中に入ると、蜘蛛の巣や雑草がいかにも使ってませんオーラを充満させていた。

『それでは、夜までここに隠れていましょう。国を出るならくらい夜がいいです』

「え？　ずっとおんなじところにいて大丈夫？　転々とした方がいいんじゃ？」

『大丈夫です。ルイほどの年頃の子はこんなところを知らないと考えるはずですし。それにあんな忠誠心の薄い程度の低い輩を差し向けるくらいです。王側にも、よほど余裕がないと見受けられます』

「ははあ……」

　説得力ある。

　何より、ラウに”大丈夫”って言われると、それだけで安心できる。

　部屋の奥へ進むと木の腰掛を見つけたので、座面をパッパッと払って腰をかける。

「ふうー」

　ああ、疲れちゃったなあ。

　いつも置きないような早朝に起きて、そこから全力疾走やら戦闘やら……。

　散々な目にあった。

　私が椅子のそばにあった机にポーチを乗せて一息ついていると、ラウが『ルイ』と話しかけてきた。

『これからですが、どうしますか？』

「どうしますか、って言われても。どうしよう、全然考えられてないよ」

『ルイは、世界を救う気はありますか？』

「……ラウも王様みたいなこと言うのね」

『……ルイ以外の勇者ですが、おそらくまだ生きています。彼らは相当な使い手のようでしたし、何より伝説の武器を持っていてそう簡単にやられるとは思えません。きっと、どこかで生きているはずです』

　散々な一日の中で、初めての明るいニュースだった。

　……カドニさんたちが生きてる！

「なら、助けに行かないと！！」

　自信も根拠も作戦もない。

　けど、反射的に立ち上がり口からその言葉が出てきた。

『ふふ。ルイならそういうと思いました。では、彼らを探しに行きましょう。そうすればルイも狙われなくなるはずですし、魔王を倒すことも可能です』

「うん！　行こう！　みんなを助けに！」

『はい。では、夜になったらこの国を出ましょう』

「うん！」

　さっきも言った通り、なんの自信もない。

　けれど、あの三人が生きている。

　そう思うだけでなんだか前向きな気持ちになれた。