第32話 強くならないと
『ルイ、またモンスターがくる。構えて』
フェルルの言葉であたりを警戒する。
……嘘でしょ!
先ほどは正面の一方向からの敵襲だったけど、今回は違う。
正面と左右からそれぞれ二体ずつ迫ってくる!
しかも、足場は所々沼のようになっていて、足元に注意が必要。
さっきよりも難易度は段違いじゃない!
『私は右の二体と正面の一体をやる。残りはルイが倒して』
けど、文句も不安も言ってる場合じゃない!
早くネルを助けに行かないと!
『わかった!』
私は走ったままラウを構えて敵襲に備える。
気配からすると、もうすぐのはず。
敵が姿を見せる前に、どこになら足をつけそうか少し先まで足元を見ておく。
——ブウウウン
羽ばたき音とともに左から先ほどと同じ大きな蜂が二匹、そして正面からはツノの生えた巨大な蛇が向かってきていた。
襲ってくるタイミングはほぼ同時!
これを、この足元の状況で切り抜けるためには……。
……ためには?
ダメだ! わからん!
『先生! お手本をば!』
『次の枯れ木を過ぎたところで左足踏み切り、同時に左から上に切り上げて蜂を一体処理!』
『はい!』
ラウの言う枯れ木はすぐに訪れる。
左足で踏み切り、その力を伝えるように槍を持ち上げて蜂を一体撃破する。
『続いて着地と同時に右足で蹴って左足を軸に横回転、残りの蜂を処理しつつ蛇への牽制!』
着地と同時に右足で蹴る!
その勢いを使って時計回りに回転、左方からの蜂に命中する。
が、間一髪で蛇には体をのけぞらせて、避けられる。
けど、それもラウにはお見通し!
『最後に回転した軸足で踏み切って怯んだ蛇に突きです!』
『やあ!』
真後ろに避けたばかりですぐに反応できない蛇の喉元に槍が貫通した!
ラウの言った通り動くと、沼を華麗に避けつつ、スピードもほぼ落とさずに襲撃を退けることができた。
『やった! やったけどラウ?! 蛇が刺さったままなんだけどーーー??!!』
『早く振り落としてください! 私とて気持ちが悪いんですから!!』
ブンと槍を振り、蛇の亡骸を振り落とす。
『さ、次からはルイ一人でやってみてください』
『もう?!』
『今の動きを聞いただけでできたんです。ルイは筋がいいですよ』
『そ、そうかなあ?』
『はい。それに、何事も練習です。失敗しても私がサポートしますから』
『……うん! わかった、やってみる!』
ラウの言葉に励まされやる気が上がる。
やっぱり、ラウとならなんだってできる!
『……ルイ、また敵が来る。いける?』
『うん大丈夫! どんどん行こう!』
『……いい返事。わかった、どんどん行こう』
フェルルとともに森の奥へ進んでいく。
◇◇◇
森に入ってから三十分ほど。
私たちはノンストップで森の中を駆け抜けてきた。
初めはラウから何度かアドバイスをもらいながらの戦闘も、最後は自分一人でこなせるようになった。
なんて言うか、体の使い方っていうか下半身と上半身の連携の仕方がわかった気がする。
地形を見てどういうステップをしなきゃいけないかもわかるようになったし。
私、だいぶ動けるようになったかも!
『……お疲れ、ルイ』
『お疲れって、どうしたの?』
フェルルは私の質問に答えることなく走り続ける。
その理由はすぐにわかった。
だんだんと木々の間から差し込む日の光が増え、木々の密度も低くなっていく。
私たちは、ようやく森を抜けた。
「はあー! やっと抜けたー! 長かったー! 空気が美味しい!」
普通の森は涼しげな雰囲気に包まれてるかもしれないけど、ここは湿度が高くてジメジメしていた。
ようやく森を抜けて風通りのいい草原に出たことで解放感が体に満ちていた。
「……思ったよりも早く抜けられた。初見でここを三十分で抜けられるなんて、やっぱりルイはすごい」
「ええ? そうかなー? でも、半分以上の魔物はフェルルが倒してくれたわけだし!」
「そう、私もすごい」
「うん! 本当に!」
そう言うとフェルルはえへんと少し嬉しそうに胸を張る。
けど、お世辞なんかじゃなく、フェルルは本当にすごい。
私は何度かぬかるみに足を取られたり木の枝にぶつかったりして服が汚れたりかすり傷ができたりしているけど、フェルルは汚れひとつ付いてない。
あの森を抜けて、一本の枝にかすることすらなかったんだ。
私なんかが、自惚れてる暇なんてないんだ。
私が勝って兜の緒を締めていると、ラウがフェルルに話しかける。
『フェルル? それで、赤竜胆のアジトはどこにあるのですか?』
『……ここから南下していけば十分ほどで着く』
『もうすぐね!』
『……そう』
もうすぐ、もうすぐよ!
やっと、ネルが捕まっているところにたどり着く!
「よーし! 待っててネル!」
私がそう気合をいれるも、意図せぬ敵に逸らされてしまうことになる。
——バキバキ
後方から聞こえる不穏な物音。
「……なに? この音……」
『木が倒れるような音です』
「木が? 一体なんで……」
——バキバキバキバキバキ
その物音はだんだん近づいてくる。
「こっちにきてる?!」
大きな物音のする方を注視していると、抜けてきた森の中から大きな影が迫ってくる。
「こ、これは?!」
「キカカキキキキキキ!」
姿を現したのは、身の丈三メートルはありそうな巨大なカマキリだった!
「でかあああああ?!」
『扇カマキリですね。凶暴な大型昆虫モンスターです。どうやら森を荒らされて怒っているようです』
姿を現したカマキリはこちらをジッと見て様子を伺うように触覚を動かしている。
「じゃあ、みんなでさっさと倒してネルのところに……」
『ちょうどいい相手です。ルイ、このモンスターを一人で倒してください』
「えっ?! 一人で? どうして?!」
『さっきまでの総仕上げです。これくらい一人で倒せないようでは、ここから先足手まといになるでしょう』
「う……そうなの? フェルル」
「そこまでは言わないけど。ルイが強くなれば、ネルくんを助けられる確率が上がるのは確か」
『ルイも、自分が足を引っ張るのは嫌でしょう? だったら強くなるんです。口先だけでは誰も助けられないのですから』
その言葉が心に突き刺さった。
そうだ、いつまでも足手まといじゃいられない。
理想を抱くだけでもダメなんだ。
成り行きだけのレベルアップだけじゃ足りない。
自ら積極的に成長する機会を掴まないと!
私も、強くならないと!
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