第35話 裏切り者

『そんな、この部屋の気配はネルだけだったはずなのに……。ラウ、どうして?』

『この者たちが気配を殺して潜んでいたからでしょう。伊達に盗賊をやっていないと言うわけですね』

『じゃあ、探雷針サーチライトでも見つけられない生き物もいるってこと?』

『ルイの探雷針の練度が上がれば感知できるようになりますよ。何事も経験です』


 じゃあ、この人たちは最初からこの部屋にいたんだ。


 スキンヘッドの大男と、メガネをかけたマントの男。

 どちらも只者じゃなさそう。


 ……そういえば、さっき”引っかかれば”って言ってたっけ。

 それにフェルルは”危ない”と言って私の手を引いた。


 もしかして……。


「罠?」


 私がそう言うとフェルルが「正解」と言って近くにあった小石を私の前に向かって蹴り出す。


 ——ゴオオウ


 転がった小石は私のちょうど真ん前に来たところで火柱に包まれた。


「ひっ!!」

「罠魔法。……あと数歩でルイがこうなってた」

「あ、ありがとうフェルル」


 フェルルのおかげで命拾いした。

 ドアから一直線にラウに向かった人を嵌める罠ってわけね。


「やってくれるじゃない!」


 ネルの前に立ちはだかる男たちを睨みつけると、メガネの男が「おやおや、嫌われてしまいましたか」と答えた。


「あなた達、どうしてネルを狙ったの?! 早く解放して!」


「解放? なんのことです? 我々はを連れ戻してお仕置きをしているだけです」


「……え?」


 裏切り者ってことは、まさか。


「やはり、知りませんでしたか。ネルこいつはうちの一員。あなたを捕まえるために派遣していたのですが、あまりに仕事が遅いんでね。ウィンベルンへを話を聞きに行ったのですよ」


「う、嘘……」


 心が大きくざわつく。


「どうやら情でも移ったんでしょうかね? ”あいつに手を出さないでくれ”なんて言い出すものですから、ここでお仕置きをしているまでです」


「そんな……」


 メガネの男の説明は信じられなかった。

 ネルが盗賊団の一員で私を狙ってたなんて……。


「けど、役立たずのこいつでも最後に役に立ったぜ。槍の娘がわざわざここまできてくれたんだからなあ! お前を殺して槍を手にすれば大金が手に入る、いい餌になったぜ!」


 スキンヘッドの大男はペッと唾をネルに吐きかける。


 その行為が、私の中の糸をぷつんと断ち切った。

 不安定に揺れていた私の気持ちが、怒りで染まった。


 私を騙してたネルも許せないけど、こいつらも許せない。


「そこのツルツル男、ネルによくも……」

『ルイ、あなた。魔力が……!』


「ああ? なんだ小娘やる気かよ? つい最近まで戦闘経験無しの雑魚野郎が、このベルナー様にかなうとでも思ってるのか?」


「……”ベルナー”?」


 その名前が最後のきっかけになった。


「お前は絶対許せない!」


「いいだろう! かかってこいよ女ァ!!」


 私が走り出すと、ベルナーは両手に手甲を装着してカチンと拳同士をぶつける。


 身体中は怒りが詰まっているものの、頭は冷静だった。


 相手の攻撃がよく見える!

 私のダッシュに合わせてベルナーがカウンターを合わせようと超速の拳を突き出すも、それを悠々かわすことができた。


「なんだとっ?! ——ぐっ!」


 カウンターを避け、ダッシュの勢いを全部乗せ石突きでベルナーの腹を突くと、ベルナーは片膝をついて脂汗を顔面中ににじませていた。


「ぬぐうううう……。俺様が、まさか一撃でここまで……!」


「今の、こっちでついてたらあんた死んでたから」


 私はラウの刃をベルナーの額に付ける。


「くっ、くそ……」


 ベルナーはそれっきり一言も発さなくなった。



「おやおや。槍の持ち主は戦闘経験皆無と聞いていましたが、まさかこんなに成長しているとは。これは少し厳しいですねえ」


 私がベルナーと戦っている間、メガネの男はその場に立ったままだった。


 フェルルが「私たちもやる?」と聞くと、メガネの男は「いやいや、まさか」と首を横に振った。


「貴方のような方に、私なんかが勝てるはずありませんから。やめて起きましょう」


 そう言うと、メガネの男はネルの手錠を解き、ネルを床に降ろした。


「どうぞ、連れ帰ってください」


「……いいの?」


「はい。あなた方に暴れられたら、この城ごと吹っ飛んで赤竜胆もろとも壊滅しかねません。我々の目的はあくまで金。金にならないことはしない主義なのでね。さあ、どうぞ」


「……わかった。ルイ、行こう」


「……うん」


 私はネルをおぶって、古城から脱出した。


「後でたっぷり話、聞かせてもらうから」


 気を失っているネルに向かってそう呟いて。

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