第43話 エルビナへ向けて

 エポール遺跡から出ると、入り口近くの石柱にもたれて目をつぶっているフェルルの姿があった。

 結構待たせちゃったかも。


「フェルルー! 待たせてごめんね!」


「ううん。それよりも……誰?」


 私の声に反応して目を開けたフェルルだが、その視線は私の後ろにいたロニーに向けられる。


「ロニーだ! ここで伝説武器の研究をしてる。今からお前らと一緒に旅をすることになったからよろしくな!」


「……はぁ、よろしく」


 さすがフェルル。

 細かいことは気にしないみたいで、あっさり新しいメンバーを受け入れてくれたみたい。


「よし! それで? この後はどこに行くんだ?」


 この晴天に呼応するように目を輝かせ、ロニーが鼻息荒く次の行き先を聞いてくる。

 けれど、ロニーの問いに返す答えはない。


「……どこだろう?」とネルの方を見ると、「さあな」と返される。


「おいおい! 決まってねえのかよ!」


「実はそうなの……」


 そう、エポール遺跡の次にどこに行くかは決めてなかったよね……。

 呆れるロニーにネルが答えてくれる。


「悪かったな。今まともな情報を持ってなくてな。まずは情報収拾だ。なあロニー、この辺で失踪者の情報が集まりそうなところっていうとどこになる?」


「失踪者ぁ? なんでまたそんなもんを聞く?」


「元勇者のリーカが、魔人が使う実験用に人間をさらう仕事をしてたんだ。今も拉致を続けてるようなら、失踪者が大量に出てる地域の近くにいる可能性が高い」


「なるほどな……。そういうのならエルビナじゃないか?』


「エルビナか……。確かに、行く価値はある。けど、ここからだと数日かかる、他の場所はないか?」


「おいおい、そりゃを使った場合の話だろ? 危険でよければ近道はいくらでも知ってるぜ。待ってな。今地図出してやっから」


 ……私がキョトンとしているうちに次の目的地が決まったみたい。


『ねえねえ、ラウ? エルビナってどんなところ?』

『エルビナは多くの大国の間に位置する街です。近くに大河もあることも手伝って、物流の拠点となっています』

『へえー、それまた大きな街なんだろうね。でも、どうして物流の拠点に行くの? 欲しいのは失踪者の情報なのに』

『人が消えたとなれば、その地域からの物の搬入や出荷も止まってしまうでしょう。そうした情報を集める気なのでしょうね』

『ははあ……。ネルは相変わらず頭の回転が早いねえ』

『ルイも少しずつついていけるようになりますよ』

『……ありがと!』


 私がラウと話しているうちに、ネルとロニーとでエルビナへのルートを決める話し合いが終わっていた。


「よし! これからエルビナへ向かう! 安全な街道を通ると三日はかかる場所だが、ショートカットできる洞窟をロニーが知ってるらしいから、そこを通る。洞窟内には中から上級の魔物ばかりらしいが、このメンツならいけるだろう」


「おう! 俺が先導すっから、遅れんなよな!」


「何か質問がなければ出発するけど、いいか?」


スッと黙ってフェルルが手を挙げる。


「ショートカットって、どれくらいに?」


「おおよそ丸一日ってところらしい。他に何かあるか?

 …………よし、無いみたいだな」


「それじゃあ出発だね!」


「ああ、その前に……こいつをロニーに渡しておく」


 ネルは自身のカバンから心伝石を取り出してロニーに渡した。


「こいつは心伝石か。確かに複数で旅をするには役に立つな。もう一個は誰が持ってるんだ?」


「全員持ってる」


「……は? 心伝石っつったら二つで一組だろうが。フツーはよ」


「……こいつはちょっと特別なんだ」


「……そうかい。ま、深くは聞かねえよ」


「助かる。……よし、じゃあ出発だ!」


「「おーー!!」」


 私たちは次の目的地へ走り出した。



 ◇◇◇


 街道をとうに外れ、淀んだ空気の漂う薄暗い森の中を進む私たち。

 道すがら、それぞれの自己紹介やこれまでの旅のことをロニーに話していた。


 中でもロニーの琴線を一番揺らしたのは、私の話だった。


「っていうとなんだ、ルイ! おめえは素人だったにも関わらず魔王を倒せとか言われたってのか! そんでもって武器とおしゃべりができる能力付き?!」


「……はい」


 私の話がひと段落したところで大層驚くロニーにネルが同調する。


「何もなければ平和な街の箱入り娘で入られたろうに。災難だったな」


「ははは……」


 そうよね。

 普通ネルみたいに感じると思う。


 けど、ロニーは違った。


「いやいや、俺はそうは思わねえぜ。その若さで伝説武器を扱えて、外の世界を冒険できるんだ! こんな体験できるやつぁなかなかいねえよ! しかも雷槍とお話し特典付き!! 羨ましいったらないね!

 ……まあ、裏には大変なこともあったろうがよ。今こうしてやりたいことができる力と仲間がいることを喜ぶべきだと思うぜ」


「……は、はい」


 いや……びっくりした。

 ロニー、まともなことも言えるのね。


 初めてあった時から勢いだけで生きてる人にしか見えなかったけど。

 後半は、ちょっと感心しちゃった。


 ネルも似たような感想を持ったのか、前を走るロニーに質問をする。


「あんた。そういえばいくつなんだ?」


「あ? 靴のサイズか?」


「違う! 年齢の話だ」


「ああ、二十七だ」


「あ、そうなんだ」

「一番年上か」


「見りゃわかんだろ! 年長者をどんどん敬いたまえよー若者たち」


 ……やっぱり、ただのお調子者かも。




 それから少ししたところ。


「なあ、洞窟まであとどれくらいなんだ?」というネルの質問に、「んーあと五分弱ってところかな」とロニーが返したところから、話はロニーの過去に移っていく。


「それにしても、よくエルビナへのショートカットなんて知ってましたね」


「ああ。俺は世界中を飛び回ってるからな。できるだけ移動に時間はかけたくねえのよ。大抵のところなら近道知ってるぜ」


「どうして世界中を飛び回ってるんですか?」


「そりゃあもう伝説の武器を見つけるためよ! 俺の人生はそのためにあるからな! 何たって大地斧ドーヴァンを見つけたのは俺なんだからな!」


「えー! すごい!!」


「だろ? その時の俺の武勇伝聞かせてやろうか?」


「はい! ぜひ!」


「よっしゃ! じゃあ……まずはあの洞窟を抜けなきゃあな」


 ロニーが指をさす方向。

 森を遮るように断崖が現れ、そこに地下に続くような穴が空いていた。


「あの地下洞窟を抜けるぜ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る